7.ドラゴンと言葉(全7話)

第15話 直したい癖

☆読者の皆様へ、作者より☆

 今回のお話は、いつものドタバタとは一味違った、青春物語(?)のようなものになっております。

 それでも、いつもの三人のことを少し深く知ることができる、そして、クスッと笑えるお話になっておりますので、ごゆっくりお楽しみいただければ幸いです。


 また、言ノ葉さんの下の名前は当初『つむぎ』としており、私も気に入っていたのですが、どうやら『ことのはつむぎ』という読みのペンネーム、アカウントネームを持っている方がインターネット上に多くおられそうなので、言ノ葉さんの名前を、彼女の得意な『言語解読魔法』より『解』の文字をもらいまして、『ほつる』という名前に変更させていただきました。既に投稿してある原稿の名前も、そのように修正してあります。

 この小説の連載が始まった頃から読んでくださっている皆様は違和感を覚えることかと思いますが、言ノ葉解ちゃんでよかったなと思っていただけるよう、言ノ葉さんの魅力をバシバシ書いていきますので、どうぞよろしくお願いします。


 前置きが長くなりましたが。

 どうぞ、本編をお楽しみください♪






「ほっちゃーん!」

現代文ゲンブンの教科書りたいから、ちょっと来てー!》

 言ノ葉ことのはほつるは、現代文の教科書が入っている机の物入れに手を伸ばしかけて――。

 ――危ない。

 言ノ葉は両手を膝にこすけて誤魔化ごまかし、教室後方の扉から顔を覗かせている友人のもとへ急ぐ。

 ――このくせは、高校生になったら絶対にやめるとちかったのに。


 言ノ葉は、現代文の教科書を借りにきた美術部の友人、普通科一年生の笹野ささの竹実たけみの前まで行って、「現代文ゲンブンの教科書、一限目だけ貸してくれない?」という声を聞いてから、了承りょうしょうの返事をして、席に戻って現代文の教科書を取り、また笹野の所へ行って教科書を渡して、別れをげ、席に戻る。

 ――まどろっこしいけれど、これでいいのだ。


 物心ついた頃から、言ノ葉解には、声を出している人や何かの仕草をしている人から、自分の頭の中だけに響く不思議な言葉のようなものが聞こえていた。


 言語解読魔法――人や動物が何かを伝達する目的で発したものを言葉に変換する魔法――は、自分が捉えた音や光を自分の中で言葉に変換する魔法なので、どれだけ使っても相手に魔力が伝わることはない。そして言ノ葉は、他の人には不思議な言葉が聞こえていないことを知らなかった。

 そのため、言ノ葉の両親は当初、娘の才能に気付いていなかった。しかし、彼女が幼稚園の年長組となったときの担当教諭きょうゆがある日、言ノ葉が言語関係の強力な魔力を持っているのではないかということに気付いた。

 その教諭の連絡により、言ノ葉と彼女の両親は、言ノ葉が高度な言語解読魔法を、息をするように使っているということを知ったのであった。


 それから言ノ葉は、魔法教育の力もあって、言語解読魔法を徐々にコントロールできるようになっていったが、幼い頃に付いた癖は抜けなかった。


 言ノ葉は、人や動物の声や動きに気付くたびに、言語解読魔法を発動してしまう。

 何故なら、少しの音や仕草からその人の言いたいことが理解できるのは、便利で、簡単だったからだ。

 そして彼女は、周りの大人にいつも、物分ものわかりのいい子だと褒められた。

 だから言ノ葉には、誰かの言いたいことをすぐに理解して、言う通りにする癖が付いた。


 小さい頃は、良かった。

 言ノ葉は誰にでも優しく、両親や先生からたくさん褒められる子だった。

 しかし、小学校の高学年になり、中学生になると――。

 言ノ葉は、言いたいことを全て理解してくれる、都合つごうのいい子になった。

 反対に、まるで人の心を読めるかのような、気味の悪い子でもあった。

 その優しさと不気味さが上手く働いたのか、攻撃されることこそ無かったが、言ノ葉はいつの間にか、寂しい子たちのどころとなっていた。


 家庭環境が複雑な音居ねい。空気が読めない水樹みずき。話嫌いの万理まり

 優しくも、彼女たちと同様に周りから浮いていた言ノ葉は、彼女たちの友人となった。

 言ノ葉は彼女たちの言いたいことを理解して、彼女たちのしてほしいことを完璧にしてみせた。


 言ノ葉は、彼女たちと過ごすのが好きだった。

 自分が彼女たちの支えの一つとなっていることも、嬉しかった。

 それでも、言ノ葉自身が純粋に『楽しい』と感じたことは、一度もなかった。


 別に、それが悪い思い出だったということではない。これまでの経験があったからこそ、今の自分がいるのだ。

 それに、もちろん、彼女たちは悪くない。周囲の人々だって悪くない。悩みや問題を抱えていない人間などいないのだ。


 それでも、同じことを何度も繰り返す必要はないと思っている。

 だから、無意識に言語解読魔法を発動する癖を直そうとしているのに――。


「なんでだろ」

 誰に伝えようともしていないつぶやきは、朝のホームルーム終わりの雑音にまぎれて、どこかへいなくなってしまった。


 言ノ葉が人前で言語解読魔法を発動する際に、耳の後ろに手を当てたり、相手の言動に注目したりするのは、「今は言語解読魔法を発動していますよ。こうしていないときは発動していませんよ」というメッセージを、周りの人にも、自分の心にも、刻み付けるためである。


 それが上手うまくいっているのか、新しい高校生活では周囲から浮くこともなく、友達も多くできたが――。

 言ノ葉はまだ、友達と過ごしている中での『楽しい』という感覚が理解できないでいた。


「言ノ葉さん」

《今日は日直だから》

 ダメダメダメダメ!

 言ノ葉は心の中で叫んで、勝手に発動していた言語解読魔法を引っ込め、声のした方を振り返る。

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