第9話 アイデア
「うーん……」
休日に
千色の力量では、非接触で変身魔法を発動すると、変身させたい対象に伝わる魔力の量と性状が僅かに狂ってしまう。対象の見た目を変えるだけなら簡単だが、飲用にするものに変身させるとなると、衛生面や毒性の面で問題が出る可能性があるのだ。
以前に授業で、対象を食べ物に変身させるということをやったが、その際は変身前の物体も、オブラートやゼラチンなどの食べられるものだった。一方で尿は、そもそも飲めるものではない。
といっても尿は、大便と比較すれば雑菌が少ないだろうから、多少飲んだところで大きな害は無いのかもしれないが、やはり積極的に飲むものでもない。やるのなら、完璧な水に変身させるべきだろう。
「……指、突っ込んでやるかぁ……?」
千色はとりあえずビーカーに分けてみた自分の尿とにらめっこをしながら、絶望する。
この色、
尿は、体内で不要となったものを出すためにあるのだから、人間の本能が尿を
「何がそんなに嫌なんだ」
千色が横を見ると、龍郎は自分の尿が入ったビーカーに手を突っ込み、変身魔法を発動している。
「尿は
千色が突っ込む
「ちょっ、近いって!」
ビーカーの液体には色こそ無いものの、その
「ったくよ……」
他人の尿の臭い、それも失敗した魔法で強化された臭いを
「成分は問題ないかもしれない。味見してみよう」
「待て待て待て待て!」
千色は、ビーカーの広い口を自分の口に当てようとする龍郎を、全力で止める。龍郎にそんなものを飲まれたら、もっと萎える。
「千色」
味見を許されなかった龍郎は、どこか
――なぜ不服なのだ。
「味覚は、長い生物の歴史の中で磨かれてきた、毒か毒でないかを判別するための敏感なセンサーだ」
そう言う龍郎は、いつも通り
「いや、うん、そうなんだけれども……」
生物教師の森野も確かにそんな話をしていた気がするが。
「分かった」
龍郎は納得したらしく、
「俺じゃなく、
「違う違う違う違う!」
他人、しかも女子に自分の尿を飲ませようとすることもそうだが、味角
「わざわざ理科室
防魔高校には人体に用いる目的の薬や魔法薬について学ぶ授業もあるので、一年生でも、安全を確認するための試薬や機械を多少ならば使うことができる。
「そうだな」
素直に頷いた龍郎は、あちこちの棚や物入れから、試薬やら検査機械やらを持ってきて、てきぱきと作業を始め――。
「駄目だ」
まだ湯気を立てているビーカーを置いた龍郎が、きっぱりと断言する。
「水分以外の成分が全部三倍になってる。たぶん脱水状態かつ朝一番の尿だ」
「後半はいらねえだろうがよ……」
何を現実的に表現してくれる。
「やはり、千色くらいの力量がないと無理だ。やってみてくれ」
龍郎は「俺の残りも使っていいから」と付け足して、最初に自分の尿を詰めた薬瓶を千色に突き付ける。――いらねえよ。
しかし、それにしても――。
「うーん……」
尿に手を突っ込んで水にして飲むなど――。
「分かった」
そう言った龍郎は薬瓶とビーカーを机に置くと、無駄のない動きで千色に向き直る。
龍郎に一体何が分かったのか、良い予感は決してしないが、千色は
「そんなに触りたくないなら、出る瞬間に水に変身させればいい」
なるほど!
と思ってしまった自分に、千色は内心で涙を流す。
「それに
言いつつ龍郎は、立ったまま腹を覗き込む格好になってみたり、屈んで背中を丸めてみたりしている。
――もう、どうにでもなれ。
「……龍、水飲むぞ」
何かの
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