2.特別なスプーン(全2話)

第3話 盗人

 地備大橋の変異型大型多頭生物事件が見事に解決された日の、昼休み――。

「二人とも、お待たせーっ」

 四時限目の美術の終了後、移動教室のついでに温室へ行っていた千色は、走って教室に飛び込む。

 温室では授業の一環いっかんとして様々な生物を飼育しており、今日は千色が、一年C組の飼っているナナホシガエルたちの世話当番だったのである。しかし――。


奏多かなたが昨日の当番だったんだけどさ、あいつ、またケージの鍵どっかに忘れやがって」

 ぐちぐち言いながらもカエルたちの世話はしてきた千色を、龍郎と乙盗はねぎらいつつ、今度は三人で走って学生食堂へ向かう。

 毎日、昼休みの前には三人のうち誰かしらが何かしらの問題を起こすので、これは通常の風景である。


「つーか、おとちん」

 学生食堂へ向かう道すがら、千色は乙盗に話しかけるが、乙盗は相変わらず手の中で安全ピンをペーパークリップに、ペーパークリップを安全ピンにしており、話を聞いているのかいないのか分からない。

「授業で使うわけでもねえのに、俺の魔力ってんじゃねえよ」

 それに対して「えー?」と適当な返事をする乙盗が得意とするのは、相手から魔力を奪うなどの、自分以外の魔力をあつかう魔法である――。


 そもそも、魔法の源となる魔力というのは、動物の場合には食物の摂取などによって、植物の場合には光合成などによって得た栄養を材料として、生物の体内で様々な種類のものが合成されている。

 人間でいうと、その魔力の量や種類は人によって様々で、乙盗の身体からだの場合には、自分以外の生物の魔力に干渉するタイプの魔力が特に多く合成されているというわけだ。

 また、魔力は筋力と同じで、適度に使っていれば強くなり、上手く扱えるようにもなる。

 そのため、毎日きちんと食べて、トレーニングをしていれば、乙盗に少し盗られたくらいでは何ともないのだが――。


「なんかムカつくんだよ」

 自分の魔力で遊ばれているという事実が、日々、千色の神経をちょっとずつ逆撫さかなでしていくのである。


「じゃあ、ぼくしか知らないこの学校の秘密を教えてあげるから、それで許してね」

 千色はうんと言っていないのに、乙盗は勝手に取引を成立させ、人目をはばからず大声で「おなかすいたぁ~」と即興のおなかすいたソングを歌いながら、食券の券売機に並ぶ列へとスキップしていった。

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