番外編・今日はコスプレイベントに行きました

 今日、私達は下町のとある商店街のコスプレイベントに行きました。駅を降りて外に出るとすぐ、近隣の人が行き交う中、アニメの世界から飛び出してきたような人たちが多数歩き回っていました。


 さて、私達は何でそこに行ったかっていうと、話は長くなるんです。それは、数週間前、ゆみから借りた洋書を読んでいたら、それに挟まっていたらしい二枚の古いセピア色の写真が落ちてきたことから始まりました。拾い上げてそれらを見たら、一枚は椅子に座った今で言う小学生くらいの歳の女の子と彼女の右に立っている姉と思われる高校生くらいの少女が写った写真、そしてもう一枚は二十歳前後の女性がサテン地が張られた棺桶の中でウエディングドレスのような服を着て眠っている写真でした。


 後日、ゆみが来たときにこれらの写真を見せたら、見た瞬間ホッとしたような表情をしたんです。

「こんなところにあったんだ。あたしがだいぶ前にアメリカに研修に行ったときに立ち寄ったアンティークショップで見つけた写真。お気に入りだったんだけどいくら探しても見つからなかったの。持ち帰ったらちゃんと額に入れよう。で、これはね、百五十年くらい前の昔の人がね、亡くなった愛しい家族の姿をいつも見て目に焼き付けるために葬式のときに撮られたいわゆる遺体記念写真ポストモーテム・フォトグラフィーだよ。昔は写真を撮るのも大変だったからこういう時の写真しか残っていないことも多いのよ。なんで大変かというと費用も高かったし、一分くらいじっと動かないでちゃんと感光させないとブレちゃうんだよ。だから子供を撮るのは現実的ではなかったの。こういう言い方はあれだけど、写真屋さんから見たら、亡くなっていたほうがかえって都合が良いというか。で、これなんかは生きているように見せるために工夫がされているの。じっくりよく見てごらん」

と言われて、その写真をもう一回よく見たら椅子に座っている女の子のまぶたを開けるために、瞳のところにはコインが挟み込まれていたんです。

「なるほどねえ、そういう写真だったんですか……」

と私はつぶやきました。


 そして彼女に、

「今度、あそこの商店街でコスプレイベントがあるから一緒に行かない?」

と言われました。彼女は一応オタクだということは知ってはいたけど、コスプレをしたりレイヤーさんを撮ったりしているなんていうことはいままで聞いたことはありませんでした。それで、彼女は急にハマったのかな、と思って軽い気持ちで、

「いいよ」

と言ってしまったのです。


 話を戻して、今それでゆみにリードされてアニメのキャラクターのような人たちを横目に見ながら歩いて商店街を歩きました。そして彼女に、

「ここだよ」

と言われて着いたのは古い建物にある写真館。中に入った後、そこでなぜか貸し出されていた昔の洋装を借りて撮影をすることにしました。着替えがすんで「ビクトリア時代のお嬢様」になった私達はスタジオに出ると、ゆみに、

「あんたは椅子に座って。撮影中は動いちゃダメよ。あと、コンタクトレンズは取って濁った瞳を見せてね」

と言われました。ああ、あの写真を再現したかったんですね、ゆみって。もちろん彼女は姉役、私は亡き妹の役でした。


「お兄さん、フューネラルモードでよろしく」

「あいよー」

 ゆみとカメラマンの声が軽快に飛ぶ中での、一回目は割ときちんと撮影されたのですが、二回目の撮影の時、カメラマンの「はいチーズ」の掛け声の後、シャッターの音が聞こえるか聞こえないかのタイミングで突然ゆみは私のところに覆いかぶさってきました。もう、大胆すぎますっ! で、そのまま抱きついた状態で撮影されました。

私がカメラマンに、

「今のちょっと……」

と言いかけたら、彼女に

「恥ずかしいから消してもらおうだなんてそんなのあたしが許すと思う?」

と笑顔で凄まれました。そして私は精算のときにカメラマンから渡されたSDカードを財布に入れて持ち帰りました。


 帰ったあとそれらをパソコン上でセピア色に加工してゆみにメールしました。ちゃんとしたのと抱きしめられたのとの両方を。それを見た彼女から、

「なかなかいい雰囲気だねぇ。とても今日撮ったようには見えないよ」

と返事が来て少し嬉しかったです。

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