でも、なんだかんだいっても生き返ることができてよかった
私の告別式が終わったそのとき、ゆみは私をこっそり棺桶から出して車に乗せた。気づいたら彼女の家の前だった。車を止めた彼女は私をお嬢様抱っこして部屋に運びマットを引いてあった大きな水槽の中に寝かせた。
「ようこそ我が家へ。式の間緊張してた? 全部終わったからうちでゆっくり休んで。ケースの寝心地はどう? あたしがちゃんとあなたが綺麗なままずっと一緒にいられるように手を尽くしたけどもし体の様子が悪くなってきたらちゃんと治すから。あと、棺桶には代わりにあなたそっくりに作った張り子のマネキンを入れて埋めてもらったから安心して」
いやいやいや、ちょっと待ってよ。私の心の整理は一ミリもついていないんだから。そんなことを思っている間に彼女は私が寝かされている水槽にふたをしたあと部屋の電気を消して立ち去った。
そして夕方になると毎日のように、
「ただいま~っ。今日は病院からバンで運び込まれてきたお客さんの数が多くて大変だったわ。家に帰ってあなたの気持ちよさそうな寝顔を眺めているだけで一日の仕事の疲れを忘れさせてくれるわ~。おやすみ、あやかちゃん。また明日」
と私に話しかけてきた。私はいつのまにか彼女の心を支えている存在になったと思うとなんだかねぇ。私が彼女の話し相手になってあげられないのが辛いという思いがだんだんと出てきた。
そして長い年月がたった。ある日彼女は
「昨日あなたを立たせる金具を手に入れたんだよ。結構見つけるのが大変だったんだよ」
などと言いながら私をケースから出して太いステンレスパイプに二か所固定されているコルセットのような金具に首と腰をはめ込んで立たせたあと窓の前に運んだ。彼女は私のまぶたを大きく開けた後カーテンを開けて外の様子を私に見せた。
「あなたが動かなくなってもう何年も経つけど外の様子はあまり変わってないかな」
★★★
ふぁーぁ。今朝、とんでもない夢を見させられたよ。たまに見るゆみのお世辞にも趣味がいいとは言えない行動の夢。キャビネット葬というのか押し入れ葬といったらいいのかどうなんだろ。もし私が生き返らなかったら多分こうなっていたんだろうなという夢。これが本当の「永遠の百合」なのかなぁと。私のお墓に来て私に似せて作られたマネキンなんかと向き合っているママなんて見たくなかったから現実にならなくてよかったね。ママが私と分かれたくない、ずっと一緒にいたいってそういうことをするのならわかるんだけどね。
そう言えば同じ伊倉このはさんファン仲間の仲良しさん、いや、もう何者にも代えられない親友になってしまった彼女と出会ってどのくらいたったんだろう。私をきちんと丁寧にエンバーミング施術してくれたある意味恩人、そして私の大人になってからの裸を全部見た唯一の女。でも私が一回死んでしまったからこそ彼女と出会えたことを考えるとなんとも言えない気分。と、私はため息を出したような気分を感じてげっそりとなっちゃったのね。今日は、彼女が職場から借りてきたフューネラルメイクキットとか言うものを使ってみたんだ。私は久しぶりに鏡の前に立ってファウンデーションを塗ってコンシーラーをちゃちゃっと塗った。少しはイメージ変わったかなぁ。
夕方仕事が終わって、家に帰る途中、彼女と会ってどこかの駅前にあるショッピングセンターの通路にあるベンチに二人で座った。そして、今朝の夢のことを話した。
「あははは。あんた、そういう妄想してたの。あたしだったら許可得て堂々とやるけど。もしそうなったらちゃんとあんたの母親にも定期的に会わせてあげるつもりだし。どうやって許可取るかって? あんたの母親に『娘さんとずっと一緒にいることができて、会いたいときにいつでも会える、そんな方法をご提案します。あたしに任せてください』と言えばね。そのほうが高~い墓代もいらないから合理的でしょ」
そんな話をした後私と彼女は通路をしばらく歩いて目の前にスーパーが見えてきたところで分かれた。
「じゃあね、あやかちゃん」
彼女はスーパーの中に消えていった。夕食のおかずでも買うのかな。つきあって私が一緒に行ったところでもう部屋の掃除用品とか消毒スプレーとかナプキンくらいしか買うものが無くなってしまったところ。それなら家の近所のドラッグストアで十分だしね。
現実の彼女のほうが一枚上手と言うかもっとたちが悪かった。私にはそれは冗談で言っているのか本気だったのかはわからなかったんだけどけどね。でもそれを聞いてしまったせいなのか、帰り道にこんなシーンが頭の中を流れて切なくなったりしちゃった。部屋の中に大きめのキャビネットがあって、その中で私が横になっていて、ママが「娘は一種の病気になってもう起きれなくなって、ただ寝ているだけなんです」と言いながらその上に置いている花瓶に持ってきた花を挿したりドーナツとかクッキーなどを皿の上に乗せてその花瓶の横にお供え物のように置いているような、思い起こしただけで目をこすりたくなるような妄想。要するに生き返ることができた幸運に感謝しなくちゃってことだね。次の長い休みが来たら実家に帰ってちょっとだけでも顔を見せようかな。
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