今日、彼女と添い寝しました

 とある仕事終わりの金曜の夕方、とある駅前で待ち合わせしていた青髪ショートボブの女性がやってきた。

「あやかちゃんこんばんわ」

こいつが私の友人、ゆみ。あの葬式で私に「生き返りの儀式」を

「あたしの一生のお願い♡ あなた一応ゾンビなんでしょ? こんなことあなたにしかできないんだから♡」

などと言ってさせた挙げ句ちょっとしたトラウマを残した張本人。早速彼女は私を近くのファミレスに連れ込んだ。一緒にテーブルに座ったらウエイトレスさんが来たので彼女は私の分まで勝手に頼んだ。そして彼女は私の目の前でパスタ一皿とピザ三切れ、ワイン四杯を空にした。そのうちワイン一杯とピザ一切れは私が頼んだ事になっているんだけど、彼女との「デート」ではいつものことだった。もちろん代金は全額彼女持ち。


 そして私は彼女と一緒に家に帰った。べろんべろんになった彼女は私のベッドになだれ込んだ。深夜、私は横で寝ていた彼女に抱きつかれて不意に目が覚めてしまった。その時、

「あたしはあんたのひんやりして心臓の音が全然しない所が良いのぉ」

という寝言を発していたのを聞いて、

「こいつは一体どういう事を考えているんだよ? 間違っても葬儀屋勤めなんてことはないよね?」

とつぶやいてしまった。


 翌朝、彼女は起きていきなり、

「おはよ~っ。 昨日はうちに三人も運び込まれて大変だったんで危うくあんたに断りの電話いれるところだったわ。なんとか処置を済ませられて間に合わせたわ」

と口走った。「運び込まれた」とか「処置を済ませた」ってどゆこと?急患担当の看護師?と思っていたら、

「あたし、隣町の葬儀社専属のエンバーマーなの。お客さんを長い間冷蔵庫で待たせるのも好ましくはないから助手の手を借りてなんとか終わらせたし」

ガーンと見事にイヤな予感が的中してしまった。そう言えば私の葬儀が行われたのもあんな儀式をさせられたのも同じホールだったわ。


「実はね、あんたをエンバーミングしたのもあ・た・し。あんたの愛しい寝顔を見ながらの作業だったから息が荒くなりそうだったわ。あと、あんたの母親が持ってきた依頼書の特記事項に伊倉このはさんのファンだったから施術中はCDかけてくださいって書いてあったから何となくこの曲がいいかなと思って持ってきてかけたんだよ。私も何回かライブ行くし。で今度あたしと二人でさいたまスーパーアリーナに行かない? 抽選に当たったらだけど」


 うわぁ…… 私は血の気が引いた。とはいっても私にはもう血液も血流もないからそんな感じがした、といったほうが正しいんだけど。彼女、初めから私の身の上すべてわかっていたのね。葬儀社に運び込まれてから私に「奇跡」が起きて棺桶から起き上がるまで。あのときのエンバーマーさんに声がなんとなく似ていたり、私の手足や指先の毛細血管に薬品がいきわたるようにやるマッサージがやけに念入りだったと思ったら。作業中は飛沫防止のためにマスクで顔が覆われていたから彼女の正体は今日までわからなかったけど。彼女と会うときはだいたいポロシャツとジーンズだったんだけど、そういうことだったんですね。そして本当にありがとうママ。


「じゃあね」

彼女はしゃべるだけしゃべって家に帰っていった。二人だけの深い秘密を共有してしまった腐れ縁の彼女との関係、ドロドロしたりもするけどそれでも続いていくんだろうなぁ。週明けからの仕事も彼女と一緒にライブに行くために頑張る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る