病弱だったけどゾンビになってゆるーくOL生活してます!

Hugo Kirara3500

病弱だったけどゾンビになってゆるーくOL生活してます!

 今私は普通に平然と会社勤めなんてしているけどこれも一つの奇跡だったのかなぁ。


 朝起きて、いつものように襟付きのシャツにベージュ色のチノパンを着た後、鏡の前に立つ。そして忘れちゃいけないのがコンタクトレンズ。視力に異常はないけど、瞳孔はもう動かないから見る人が見れば一発でゾンビだとわかってしまうからね。メイクの方は体温がなくても伸ばせるエンバーマー向け化粧品なんて高くて買えないから割り切って省略。ゴムのようになった肌感なんてじっと見つめない限りわかりゃしないからいいのいいの。そして朝の通勤電車。誰かに押されて体温が体にしみる。それに思いっきり生とかいうものを感じる。私はもうとっくに「死んでいる」はずなんだけどね。


 会社に着いたらプロジェクトリーダーに発破をかけられて打ち込み。昼休み、私はたまにエナジードリンクのようなものを飲む以外、他になにかものを食べることもないので本屋で買っておいた「Pythonで自然言語処理」とかを読んでしっかり勉強。そして帰宅。PCを開けてアニメ配信でも見ようかなっと言うところで寝落ち。毎日その繰り返し。ゾンビだからって二四時間三六五日不眠不休で働けると思ったって? そんな事あるわけ無いじゃん。だから変な幻想持ってるプロジェクトマネージャーあたりに正体がバレたらエライコッチャ。でもある程度働くことができて幸せ。私が「生きていた」ときは、残業があるかもしれないフルタイム正社員職なんて手が届かなかったから。


 私は子供の頃から病弱だった。病院の中でパパが持ち込んだノートパソコンの中身はどうなっているのかということに興味を持っちゃって「コンピュータはなぜ動くのか」とか「JavaScript入門」とか言う本をむさぼり読んだ。高校時代に開発された薬の力でなんとか一人暮らしできるようになって大学生活そして短時間正社員としてなんとか就職。でも何年かたって無理が祟ったのか急きょ入院。そして病状は急速に悪化して…… あのときママが病棟で

「あやかぁ……」

と泣き崩れたときはほんとにごめんと思った。


 そして私は線香の香りただよう部屋で一時過ごした後、スーツを着た男女数人組が出迎えに来てバンに載せられた。葬儀社のスタッフだった。そして車から下ろされた私は冷蔵庫に入れられた。次の日、私はそこから出されて担架に乗せられた後化学実験室のような部屋の作業台に移されて。そこではお気に入りの声優の伊倉このはさんの曲がBGMとして流れていて。そしてあのエンバーマーさんに出会ってね。彼女は、

「はじめまして。途中痛いかもしれないけど我慢してくださいね」

と言った後私のまぶたを閉じた後顔を優しくもんで表情を整えた。でも、私のまぶたはわずかに空いてしまって周りの様子を見れたんだけどね。彼女は私の血管をポンプに繋いだ。その後、私の体に何かが押し込まれるかのような圧を感じた。その間彼女が私の手足を丁寧にマッサージしてくれて気持ちよかった。それが済んだ後、彼女は私の脇腹から余計なもの吸い取った後にそれの根元をポンプから透明の薬品が入ったビンに数回付け替えてその中身を押し込んでいったんだけどね。そのときはまだ「死んでいた」ので声が出せなかったけどズキンとした痛みはあったからねぇ。そして、ママが持ってきた薄い水色のワイシャツとネイビーパンツを着せられて、丁寧なメイクをされて、棺桶の中に降ろされて、そしてホールに出される前にムクッと起き上がったから仮死状態じゃなかったことだけはね。あの日の担当エンバーマーさんにはもし合う機会があったら本当にありがとうと言いたい。あそこの備え付けのステレオコンポから私のお気に入りのCDをちゃんと流してくれたから。そしてすべて終わって私は一人暮らしに戻った。私のマンションは会社から電車一本で家賃がそれなりにするけど食事はしないからお金はそこそこ残る。それで、ここだけの話だけど、いつか彼女のコンサートに行くつもりなんです。


 まあ、社交性は褒められたもんじゃないけど。結婚式は仕事の納期が云々と言って、飲み会は適当な理由を付けて断っているし、もちろん本当の理由は私が何も食べたり飲んだりできないからだけどね。でも葬式には連れて行かれるので、そこでも頭が痛い問題が発生。で、私はもう、涙を流せないから手で目をこすってふりをするんです。でもそんなのは大した問題じゃなくて、一度こんな事があったんですよ。少し前、私がゾンビであることを知っている友人に神にもすがる気持ち、鬼気迫る表情で頼まれて彼女の友達の事故で亡くなった夫を渋々どうにかしたことがあったのよ。その時はもう仮病でもなんでも使って逃げたい気分だった。棺桶の中に首を入れて中でお休みになっているご遺体をどうにかしてみたら生き返るんじゃないかと思ったって言われてもねえ、そんなことなんてありえないのよ。私達がいるのは映画の中じゃないんだから。私が「生き返った」理由だって偶然の産物なのか、意思の強さだったのかもよくわからないし。でも一定の確率で「生き返る」みたいなのでそれなりの数のゾンビたちが街中に混ざっているというのだけは本当だけど。


 今日もいつものとあるプロジェクトのルーチンワークだけどいつか抽選に当たったら行くライブツアーの軍資金のために頑張る。

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