第8話

「と言うことで、国から依頼を受けた傭兵が魔物討伐の依頼を引き受けたみたいだし、私たちは早いところ魔王領へ向かおうと思うのだが」


 と、私は朝食を食べながら3人に提案した。


「それに、魔王領に入ったからと言って直ぐに帝都……あ、いや魔王城に到達するわけでもない。とにくかく、魔王城まではかなりの長い道のりなのだ」


 魔王領は、とにかく広大な領域を誇る国家である。

 アリバナ王国や隣国のプランツ王国を併せたところで、魔王領の一地方の領域すら及ばない。


 そのため、むしろ魔王領に入って以降から、本格的な旅が始まるといっても過言ではないだいろう。


 つまり、ロムソン村でのんびりしている暇はないのだ。


「そうだね。魔物がいつ村を襲撃するのか判らないもんね。いつまでもここに居られるわけでもないし……」


 私の予想に反し、ユミが納得した表情を浮かべて言う。


 魔王討伐が勇者ユミの帯びた使命であるわけだから、ユミもロムソン村に長居が出来ないことについては理解しているのかもしれない。てっきりユミが駄々をこねるであろうと思っていたが、そうではなかったようで助かる。


 しかし私が少しばかり感心していると、思わぬ人物から反対意見が出た。


「せっかく、ロムソン村まで来たのですよ? 何もせずに帰るのはどうかと思います」


 そう言ったのは、マリーアであった。

 まさか彼女から反対意見がでるとは思っていなかったが、ダヴィドは私の意見に賛成するだろうし何とかなるだろう。


 彼には、昨夜の内に巧いこと話しておいたからな。


「自分はカルロ殿の言う通り、魔王領へ直ぐに向かった方が良いと考えている」


 よし!

 これでユミとダヴィドが、賛成に回った。



 ところが、マリーアの反応はよろしくなかった。表情からして、よく判る。とても不機嫌なご様子だ。


「ダヴィドさん! 貴方はそれでも王宮兵士長なのですか」


 マリーアがそう大声を張り上げる。


 しかも王宮兵士長のプライドを刺激するかのような物言いで、とても厄介なことになりそうだ。


「そ、それは……」


 案の定、ダヴィドは動揺しているようだ。仕方がない、私も何か言っておこう。


「マリーア。傭兵たちが討伐する以上、問題はないはずだ。ここでわざわざ王宮兵士長がどうのこうのと言うのも少し変だと思うが? 」


「カルロさんって冷たい人なのですね」


 と、マリーアは直ぐに言い返す。

 こうなったら、私も黙ってはいられない。


「これは周知のことだが、過去多くの勇者たちが魔王軍の刺客によって嵌められたらしいじゃないか」


「この村の惨状と、過去の勇者たちの話に何の関係あるのですか? 」


「ロムソン村の惨状も魔王軍による罠かもしれないだろ? それに傭兵たちが代わりにロムソン村に来てくれるんだ。何が問題なんだ」


「……」


 マリーアは口を閉ざし、私を睨めつける。

 まあ、確かに私の行動は身勝手に見えるのかもしれない。実際、身勝手だしな。


「聞くところによると、この道10年の傭兵たちらしい。腕は確かだろうから、何も心配することはないだろ」


「……まあ良いです。3人の判断に任せます」


 ようやく、マリーアは諦めてくれたようだ。これでようやくロムソン村を出発できる。

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