第9話

(魔王軍スパイ視点)





 ロムソン村付近の某所


「例の勇者の一行なのですが、村を早々と出てしまいました」


 そう報告してきたのは、俺の部下である。


「ロムソン村を魔物が襲撃しているという噂が広まったためか、どこか傭兵連中が嗅ぎ付けて、来てしまったみたいです。勇者一行はその傭兵たちを信頼して、村を出たのでしょう」


 なるほど。


 部下の言う通り、俺は勇者一行を誘き寄せようと、たびたびロムソン村を魔物に襲撃させていた。だがその結果、噂が広がり過ぎたため余計な者たちまでもが来てしまったのであろう。

 

 とはいえだ。

 誰が、傭兵たちを雇ったのだろうか。


 俺がアリバナ王国を調査した限り、辺鄙な村ごときに意識を向けるものなどはいない。


 まず、上層部は自分たちの関わることにしか興味はない。

 そして、冒険者や傭兵たちはカネでしか動かないわけだが、カネになる依頼と言えば、商人たちの用心棒だったり、しっかりと舗装された街道の巡回である。


「そうか。なら引き続き、勇者一行を追跡するとしよう」


 幸い、勇者一行には魔王軍のスパイが居る。

 それに、魔王城はアリバナ王国からとても遠いところにあるし、今ここで慌てる必要もあるまい。


 ただ、問題が無いわけでもなかった。

 使役していた毒タヌキの6匹が、全滅してしまったのだ。俺自身は、直接戦闘には向いていないので、新たに魔物を探さなければならないわけである。


 

 まあ、それでも多少の収穫もあった。


 勇者一行はロムソン村が魔物に襲撃されているという噂を聞き、放置できないと判断して村までわざわざやって来たわけである。


 つまり、今後も連中を誘導するのは容易いというわけだ。


 俺は早速、次の策を練ることにしたのだった。



(主人公視点)



 ロムソン村を朝早く出発した私たちは、昼過ぎには王都アリバナシティに到着することができた。


 そこで軽く昼食を済ませた後、すぐに王都アリバナシティを発ったのであった。

 ここから歩いて12時間程度かけて進んだところに、プランツ王国との国境沿いにある西ムーシの町がある。


 駅馬車を使えば、今日中には西ムーシの町に辿り着けるだろう。しかし、ユミが徒歩で向かいたいと言いだした。

 マリーアやダヴィドもユミに賛成したため、今日中の到着は難しくなったのである。



 そして……。


「これで6匹目だね! 」


 ユミが嬉しそうに、そう大声でいう。

 

 道中に出現する魔物をユミ自身で倒したのが、今のでちょうど6匹目なのだ。

 昨日遭遇した毒タヌキに比べれば、明らかに雑魚であるから、戦闘経験の浅いユミでも容易に倒すことが出来たのだろう。


「カルロ殿は相変わらず、例の刻印を確認しているようだな」


 ダヴィドが、ユミとマリーアには聞こえないような小さな声でそう訊ねてきた。


「いや、単なる暇つぶしだよ。特にやることもないからな」


 私も小声でそう答えた。

 刻印が見つかるとは思っていないが、とても暇で退屈なのだ。だから時々、ユミが倒した魔物の体を確認しているというわけである。


 しかしユミとマリーアは、そんな私に対して不審に思ったのか……。

 口では何も言わないものの、先ほどから私をチラチラと見てくる。


 2人の視線が鬱陶しいので、それっきり魔物の体を確認するのは止めた。

 それから、後は惰性でひたすら歩き続けたのであった。時々、ユミが魔物を見つけては真面目な表情を浮かべて戦っている。


 少しばかり、滑稽に思えてならない。

 若干笑みが浮かんだ瞬間だった……。




「ま、まさか……」


 私は、とても嫌な気配を感じ取ったのである。

 だが、この気配は同時に懐かしくも感じるものであり、私の闘争心を刺激するには充分なものだった。

 

 さて、感じ取れる気配からして、恐らく私を尾行しているアホ共は10名程度だろうか。

 今日は久しぶりに、大暴れするとしよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る