第7話

 

 私は特殊な魔法を使い、猛スピードで移動を開始した。

 快速魔法と名づけられているこの魔法は、戦時下において機動力に優れた快速部隊の設立のために編み出された魔法なのである。


 ただ、魔力消費や体力消耗が極めて激しいのであまり使いたくないのが、急ぎたいので仕方あるまい。


 そして、再び毒タヌキと遭遇した現場に戻って来た。


「道の両サイドにテントか……」


 と、想定外な光景を見て私はそう呟いた。


 どうやら、傭兵たちはここを野宿場所に決めたようだ。

 理由があってかは知らないが、わざわざ毒タヌキと遭遇したこの場所で野宿をしているとはな。


「まさか、ここで野宿しているとはね」


 私がそう言うと、リーダーが気が付いてこちらに視線を向ける。


「お、あんたか。ここまで何をしに戻って来たんだ? 」


「毒タヌキの体を確認したくてな」


「……すまないが、燃やして処分してしまったぞ」


 リーダーは、ばつが悪そうに言う。


 なるほど……。

 もう焼却処分されているのなら、刻印の確認はできないな。諦めるとしよう。


「燃やしてしまったんなら、仕方ないな」


 まあ、死骸をそのまま残しておくよりかは燃やしてしまった方が良いだろうしな。


「だがどうして、今さら毒タヌキの死骸を確認しようと思ったんだ? 」


「実は趣味で魔物を研究していてね。本来は森の奥深くに棲息しているはずの魔物が、どうしてこんなところで現れたのかが気になったってわけだ。腹を裂いて、胃の内容物を調べたかったのだが……」


「なるほど。あんたは、いわゆるイカレたマニアってわけだな」


「酷い良いようだな。これでも私は研究論文を出しているんだぞ? ……それよりも頼みたいこともあるんだ」


 私が傭兵たちに何を頼みたいかと言うと、それはロムソン村を襲撃する魔物の討伐である。旅が始まって早々、傭兵たちの出番が回ってきたというわけだ。


「俺たちに頼みたいこと? 」


「ああ。ロムソン村はどうやら、魔物による被害が生じているらしい」


「つまり、ロムソン村を襲撃している魔物を討伐すれば良いわけだか」


「ああ。私としては、ロムソン村で道草食っている場合ではないからな」


 早いところ、プランツ王国までは直ぐに行きたいところだ。

 魔王軍がプランツ王国を攻め込むのであれば、確かにあの司祭のいう通り武器防具の価格が高騰するわけだし、当事国となるであろう現地を視察したいわけである。


「なるほど。それで、俺たちに任せるようと考えたわけだな? 」


「ああ。だが具体的な状況は一切知らない。だから、ロムソン村での聞き込みもやってくれるか? 」


「あんたからは大金をもらっているからな。喜んで引き受けてやるよ」


「では、よろしく頼む」


 そして、細かい指示を与えた。

 

 その中で、最も重要な点は、傭兵たちの滞在期間は3日としたことである。

 ずっとロムソン村で魔物討伐をされては、本来の趣旨から逸れてしまうからだ。それでも、魔物討伐に従事させておけばユミやダヴィドも納得することだろう。


 さて、ダヴィドはまだ起きているだろうか。

 起きているなら翌朝までに、少しばかり気持ちを込めてお願いしなければならないことがある。

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