第6話

 ロムソン村に到着したころには、夕方になっていた。

 一応宿屋はあったので、直ぐにチェックインの手続きを済ませた。


 魔物の襲撃についての聞き込みは、明日に持ち越すことにした。みんな、今日はもう疲れているので早く休みたいからだ。


「今日は足手まといになってしまってごめんなさい。今度から軽率な行動は慎むね……。じゃあおやすみ」


 ユミはそう言って、部屋へと向かった。

 マリーアも、今日は早く休みたいとのことなので部屋へと向かい、残ったのは私とダヴィドの2人は宿屋内の談話室の椅子に腰を掛けた。


「カルロ殿……。今日はすまなかった。もし解毒魔法による治療が為されていなかったらと思うと、恥ずかしい限りだ」


「困ったときはお互い様だろ」


 今日、私は何度も回復系の魔法を発動したが、これは回復役として当然の役割であって、それを果たしたまでである。


 それよりも、俺はどうしても気になって仕方がないことがあるのだ。


「あの毒タヌキのことだが、本来は森の奥深くに棲息する魔物なんだ」


「つまり、毒タヌキと道中で遭遇した時点で不自然なわけか」


 不自然な点は他にもある。

 妙に、毒タヌキが知的な行動を取っていたことだ。本来、毒タヌキの知能はそこまで高くはない。


 そう考えると、背後に何者かが潜んでいる可能性が浮上するわけだ。


「もしかしたら、魔王の配下による仕業も考えられるな」


「それは考えすぎでは? 」


 と、ダヴィドが言う。


 唐突に、魔王の配下による仕業と言われても確かに信じられないだろう。それに魔王軍の仕業を裏付ける証拠も現時点ではないので、断定は出来ない。


 しかし、可能性は充分にあり得るのだ。


「魔王領出身者の中には魔物使いと言われる職業の者たちがいる。そのような連中が毒タヌキを操っていた可能性があるのだ。実際、毒タヌキの動きは妙に統率が取れていただろ? 」


「言われてみれば、確かに統率が取られていたような気もするが……。だが、それはどうやって判断すれば良いのだ? 」


「仮に魔物使いの仕業であれば、その使役する魔物の体のどこかに【刻印】があるはずだ。それさえ見つけられれば、少なくとも魔物使いの仕業であることは明白になる」


 魔物使いは、使役したい魔物に対して特殊な魔法を放ち、その体に印を刻ませることによって魔物を操るのである。


 だが、仮に素人がこの魔法を覚えて使ったとしても大概は失敗する。

 魔物使いになるには熟練した技能が必要で、レベルの高い魔物ほど、その技能レベルは高くないといけないのだ。


 因みに魔物使いは、使役する魔物を亜空間に閉じ込めておくこともできる。つまり、好きな時に好きな場所で、魔物を現実空間に召喚させて操ることができるわけだ。


「なるほど。では早い話が、今日遭遇した毒タヌキを調べれば良いってことだな」


「そういうことだ。とりあえず、刻印があるか否かだけは今夜中に確認したい」


 前回の勇者が嵌められたという噂もあるので、今はとにかく何事も最大限に警戒すべきだろう。


 それに昨夜のことだって覚えている。まるで私の寝込みを襲うかのように、部屋に侵入してきたわけだしな。


 過去の勇者たちの末路と、今回俺の身に起こった一連の事実。

 


 まあ、とにかく毒タヌキの体を確認して損はない。


「なるほど」


「だから、私は今から例の遭遇現場まで向かうつもりだ」


「カルロ殿。1人で行くのは危険すぎる。だから自分も付いていこう」


「いや、ダヴィドは念のため村に残ってほしい。もし万が一私が明日の朝までに戻ってこなければ、遭遇現場へ向かったことを2人にも伝えてくれ」


 朝起きたら、私とダヴィドの2人が居なかったら困惑するだろうしな。


「わかった。では、くれぐれも気をつけろよ」


 ダヴィドに見送られ、俺は外に出た。

 これから、久しぶりにあの魔法を使うとしよう。

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