拝み屋
茶髪の男に続き、二人組の片割れ——角刈りの男もバンから降りてきた。
「おい——どうして民間人がここにいる?」
「いや、俺に訊かれても知らないっスよ」
「彼は朝会った子じゃないか?一体どうなってるんだ?」
「だからぁ、知らないって言ってるじゃないスかぁ!」
二人が言い争う中、防護服の作業員達も、何事かと手を止めこちらに目を向ける。
「あいつらは?」
警戒した声で囁く蒼梧に、
「あの二人は、今朝、登校途中に——」
と、簡単に説明をしようとした時だった。
僕は唐突に、強烈な違和感に襲われて口を
そういえばこの人達——どうして今朝から、ずっとお面で顔を隠してるんだろう?
途端に、背筋にぞっとつめたいものが走った。
なぜ今まで気にならなかったのだろう?
彼らは二人とも、ところどころ赤い模様のある、真っ白な狐のお面をつけていた。
見るからに怪しい。
気にするなという方が無茶な、嫌でも記憶に残る格好だ。
しかし。
学校に着く頃には、僕は彼らの存在をすっかり忘れてしまっていた。
由宇が行方不明だと知った時も、この二人組を関連付けることはしなかった。
ここまであからさまな不審者なのに——僕は、なぜ——
「——っと、しまった。〝術〟を解いてるんだった」
角刈りの男は面倒臭そうに呟くと、ぼりぼりと頭を掻きながら僕達に声をかけてきた。
「あー……君達。俺達は、決して怪しい者では——」
「いや先輩、このナリでそれは無理ですって」
「うるせえ、お前は黙ってろ!」
再び、やいのやいのと口論が始まる。
どうすべきか判断しかねていると、白いバンの扉が再び開き——
「あなた達、いい加減にしなさい」
——静かな、しかし、凛とした女性の声だった。
騒がしかった二人が、途端に姿勢を正して押し黙る。
空気が張りつめる中、現れたのは、白い着物姿の女だった。
年齢は二十代後半から三十代前半といったところか。
髪はセンター分けのロングヘアーで、腰のあたりまで伸びている。
目つきは鋭く、二人組が萎縮するのも納得の、荘厳な空気を纏っていた。
「続けてください」
彼女の言葉で、作業員達が各々の仕事へと戻ったいく。
女は僕らの近くまで歩み寄ると、
「お見苦しいところをお見せしました」
と頭を下げた。
「私は
「拝み屋?」
「霊媒師のようなものと思って頂いてかまいせん」
霊媒師——この人なら、僕らの力になってくれるかもしれない!
「あ、あの——実は——」
「何も仰らなくて結構です」
幸村さんはそう言うと、そっと目を閉じた。
同時に。
彼女の額に横一文字の線が引かれ、その線が上下に、ぱっくりと口を開ける。
現れたのは、三つめの眼球だった。
「うわっ」
「どうした、修?」
どうやら、蒼梧には見えていないらしい。
「額に——目玉が——」
僕が何とかそれだけ言うと、茶髪の男が、
「へぇー、見えるんだ?」
と感心したような声をあげた。
黙っていろと言わんばかりに、角刈りの男が膝で茶髪の男を小突く。
——数秒後。
「……大体のことはわかりました」
そう言って、幸村さんは額の目を閉じた。
横一文字の線がすっと消え、入れ替わりに左右の目が開かれる。
「お友達が〝境の世界〟へ連れ去れたのですね」
どうやら、記憶を読んだらしい。
驚く僕に構わず、幸村さんが続ける。
「相手は魔女——しかも、よりによって〝
嫌悪感を隠そうともしない口調に、角刈りの男が、
「厄介な相手ですか?」
と尋ねた。
「極めて厄介です。実力もそうですが、何より性格が悪い」
重く息をついてから、幸村さんは僕から蒼梧に視線を移した。
「あなたはどうやら、普通の人間ではなさそうですが——何者ですか?」
「そいつは俺が訊きたいよ」
投げやりな調子で蒼梧が答える。
「……まあ、いいでしょう。今はそれよりも——」
「あの!」
幸村さんの言葉を遮り、僕は叫んだ。
「僕の友達を——由宇を助けてください!お願いします!」
この人達がここで何をしているのかは知らないが、そんな事はどうでもいい。
もはや、この彼らに賭けるしかない。
霊媒師への依頼額なんて、幾らが相場かわからない。
しかし由宇の命が助かるならば、どれだけ法外な額だろうと、一生をかけて支払う覚悟があった。
だが。
幸村さんはしばし目を伏せた後、厳しい表情でこちらを見返した。
「……順を追って、手短に話しましょう」
どうやら、あまりいい話ではなさそうだった。
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