決着

「修は、扉を守っててくれ」


 そう言うなり——蒼梧は着地と同時に身を屈め、思いっきり地面を蹴った。

 弾丸の様に、一直線に体泥棒へと突進していく。


 体泥棒は一瞬表情を強張らせた後、すぐさま逃亡を開始した。

 こちらに背を向け、弧を描くようにして蒼梧の軌道から外れる。


 しかし——蒼梧はそれを察知し、速度を落とすことなくターゲットの後を追った。

 あえて目を閉じることによって、音と気配に全神経を集中させているのだ。


 事前の予想に反し、決着は呆気なくついた。


 蒼梧はあっという間に体泥棒に追いつくと、背後から腰のあたりにタックルした。

 転倒し、じたばたともがく体泥棒に覆いかぶさると、柔道で言うところの袈裟固けさがためであっさり動きを封じてしまう。 


「——修!札を!」


 蒼梧の声で我に返った僕は、由宇と共に、慌ててもみ合う二人の元へと駆け寄った。

 尻ポケットから、半分に折った呪符を取り出す。


 ——使うのは、今だ!


 そう心に決めると、魔女が言っていた通り、知らないはずの言語が自然に口をついて出た。


「■■■■■■■——■■■■■■■■■■■、■■■■■■■■■■■■■■ッ!」


 叫びながら、体泥棒の——由宇の額へ呪符を張り付ける。

 由宇の体が、眩い金色の光に包まれた。

 やがて、その光も収まると——


「見える——姿が見えるよ!」


 僕のすぐ後ろで、が興奮気味に叫んだ。

 もはや半透明ではなくなった肉体は、抵抗をやめ、虚ろな表情で横たわっている。


「後は、由宇が体の中に戻れば——」


 と、僕がそこまで言った時、は起こった。

 由宇の体が、突然、どろり——と崩れ始めたのだ。

 

「——っ!?」


 蒼梧が飛び退って距離を取る。

 僕らが呆気に取られている間に、由宇の肉体は、蝋人形のようにどろどろに溶けてしまった。


「な、何だよ、これ——」

「そんな——」


 酔っ払いの吐いた吐瀉物のような肉塊を見下ろしながら、僕と由宇が絶句していると、

 

「残念だったねえ、お前達——」


 ひっひっひっ、と不吉な笑い声が聴こえた。

 顔をあげると、いつから居たのか——足元にナハトを従えた魔女が、すぐそこに立っていた。


「——ゲームセット。お前達の負けだよ」

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