第14話『俺の後輩は靡かない』

 少し離れたドリンクバーの影から、狼華とナンパ男の動向を伺う。

 腹立たしいことに、狼華は黙っていれば(※最重要)顔だけは良い。だが普段のふざけた言動のせいで、俺は狼華を美少女として認識できなくなってる。

 だからこそ俺以外と接する時の狼華には、少しだけ興味があった。


「…私ですか?」

「そうキミだよ!1人で飯とか寂しくない?どうよ、オレと一緒に─」

「消えてください。不快です」


 狼華の反応を見た瞬間、俺は思わず声を出しそうになった。

 普段と違いすぎる。俺の知ってる狼華はもっとお喋りでふざけた奴だ。

 だが今ナンパ男の前にいるのは、氷のように冷たい眼差しを持つただの美少女だ。


「い、いきなり酷いなぁ!ま、でもそういうノリも嫌いじゃないぜ」

「今のを本気だと受け止められない貴方に用はありません」

「えっ?」

「私の好きな人は私の言葉をなんて軽い言葉で流しません。全力で否定してくれます。そんな事もできない弱い貴方を好きになる訳がありません」

「さっきから何だよお前…偉そうな事ほざきやがって…!」


 ナンパ男の手が狼華へと伸びる。

 その瞬間、静観していた俺は無意識に飛び出していた。


「あ?誰だよお前」

「先輩…!」

「…コイツの連れだ」


 伸びかけたナンパ男の手首を真横から掴み、力付くで静止する。

 しまった…これじゃまるで俺が狼華を庇ったみたいじゃねぇか…


「お前何?このブスの彼氏?」

「ぶ、ブス?」

「割って入ってかっこいい彼氏気取りか?キモいこと言う女に相応しい男だな」


 あぁ、そう言うことか。

 コイツは狼華を堕とせないと分かって憂さ晴らしをする事にしたんだ。

 何ともまぁ幼稚な考え方なことやら…


「訂正しろ!」

「はぁ?ホントのこと言って何が悪いんだよ?」

「俺はコイツの彼氏じゃねぇ!ただのストーカー被害者だ!」

「嘘はダメですよ先輩。将来を誓い合った仲じゃないですか」

「誓ったことなんざ一度もねぇよ!」

「そんなに照れなくていいのに。遠慮せずに本音で言ってみましょうよ」

「大っ嫌いだバーカ!」


 俺と狼華のやり取りを前に、ナンパ男は呆然としていた。

 まぁ当然か。俺もコイツとの関係はだいぶ歪だと思ってるし。


「ってなわけだ。ナンパするならもうちょいマシな相手を探すんだな」

「何なんだよ…クソッ…」


 困惑したままナンパ男はトボトボと去って行った。

 本当に不憫な奴だ。数多いるターゲットの中から1番可能性のない奴を引いてしまうとは。


「…ファミレスでナンパしてんじゃねぇっての」

「ありがとうございます、先輩」

「何がだよ」

「私を助けてくれて…カッコよかったです」

「嘘つけ1人でも平気だったくせに」

「嘘じゃないです。先輩が来なかったら根こそぎ…あ、料理来ましたね」

「おい待て根こそぎ何だよ、何をするつもりだったんだよ!?」

「わー美味しそうなハンバーグ」

「こう言う時だけ無視するんじゃねぇよ!」


 靡く気配のない後輩に一抹の恐怖すら感じる。

 俺が割って入らなかったらどうなっていたのか。それはテーブルに並べられた美味しそうな料理の匂いに掻き消されて迷宮入りしたのだった…

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