第15話『俺の後輩は押し掛けたい』

 ファミレスでの食事を終え、俺と狼華は店から出る。

 さっきまで晴れていた外は、いつの間にか曇天に覆われていた。


「一雨きそうな空ですね」

「帰るまでに降らなきゃ良いがな」


 急雨に連れてこられたせいで、今日は雨具を何も持ち合わせていない。

 今降られたらズブ濡れ確定だ。

 もう十分コイツらの遊びにも付き合ったし、そろそろお開きでいいだろう。


「降る前にさっさと帰るか。じゃあな」

「そうですね」


 狼華に別れを告げ、俺は1人帰路に着く…なんてことが許されるわけもなかった。


「おい」

「なんですか?」

「一応聞いてやる。どこに帰るつもりだお前」

「先輩の家ですが?」

「だと思ったよチクショウ…」


 さも当然のような態度で狼華が着いてくる。

 こいつが大人しく帰るわけねぇわな…家バレてんだし。

 これ以上の抵抗は体力の時間の無駄と考えた俺は、半ば諦めたまま家へと向かった。


「先輩…とうとう私を受け入れてくれたんですね」

「テメェが話きかねぇから諦めただけだわ!調子乗んな!」

「もちろん謙虚にします。あ、せっかくのお家デートですしピザ頼みましょうよピザ」

「どこが謙虚なんだよ…」


 相変わらずの戯言を聞きながら家を目指していると、ふと鼻先に雫が落ちてきた。

 嫌な予感がしたのも束の間、空から雨が降ってきた。


「クソ降ってきやがった!家まであと少しだし走るぞ!」

「えぇ」


 狼華と共に家までの道を全力疾走する。

 雨は走り出した俺たちに対抗するように、一瞬で豪雨へと変化した。

 5分としないうちに、俺たちは玄関の中へと飛び込んだ。

 残念なことにズブ濡れにはなってしまったが。


「はぁ…最悪だチクショウ…」

「先輩、こっち見てください」

「あぁ?…はぁッ!?」


 そう言って狼華は濡れて透けた服を見せ付けてきた。

 白基調のTシャツに張り付いた肌色が俺の視線を支配する。


「バッ…お前!何考えてんだ!?」

「こうすれば先輩が喜ぶと思ったんですが」

「喜ぶよりも心配が勝るわ!急に見せ付けてくるな!」

「可愛い反応ですね…もしかして照れてます?」


 必死に視線を逸らすも、狼華は何とかして俺の目線に入ろうとしてくる。

 やめろよ…さっきから水色の何かが見えてんだよ…!


「でもどうしましょうか。このままだと風邪引いちゃいいますけど…私着替えとか持ってませんよ?」

「まずシャワー浴びてこい!その間に服乾かしといてやるから!!」

「お、定番の『先にシャワー浴びてこい』ってヤツですね。時間効率も考えて一緒に入ったほうがお得では?」

「い!い!か!ら!行!け!」


 何とか狼華を押し込み、無理やりシャワーを浴びさせる。

 浴室からシャワーの流れる音が聞こえてくる。俺は思わずその場に座り込んだ。


「最悪だよチクショウ…」


 目を閉じると、さっきの透けた肌が瞼の裏に浮かんでくる。

 本当に最悪だ…まさかあんな奴に興奮するなんて…!

 火照った頭に冷ますように、俺は外の雨音に意識を集中させた…

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