第12話『俺の同輩は連れて行かない』

「遅かったじゃ無いか2人とも!」


 メインエントランスまで戻ると、一足先に脱出していた衣緒が待っていた。

 呑気に物販を楽しんでいたのだろう衣緒は、両手には会場グッズがいっぱい入った紙袋を持っていた。


「テメェさっきはよくも見捨てやがったな…!」

「合理的かつ効率的に判断したまでさ」

「俺の顔見てから逃げやがったよな!?」

「あぁ、キミがこう言ったアトラクションが苦手なのは知っていたからね。期待通りの良いリアクションだったよ!」

「やっぱ俺の反応が目的だったのか!」


 俺がホラー苦手なんて衣緒に話した覚えはないが、どうせコイツのことだ。

 何か汚い方法で情報を集めたに違いない。


「それよりもだ!私が脱出した後はどうだった?ぜひ詳細を教えてくれたまえ!」

「あー…特に何も無かったぜ!な?狼華」

「先輩が抱いてくれました」

「言い方ァ!」


 確かに脱出する時に抱き締めたけども!

 その言い方だと違う意味になるだろうが!?


「先輩ってば大胆で…離れようとする私を強引に…」

「クソッ!事実だから否定しづらい!」

「…仁也君…いくら昂ったからこう言う場でそれはちょっと…」

「お前絶対分かってて言ってるよな!?そう言うのじゃねぇから!」

「先輩、続きは帰ってからゆっくりやりましょうね」

「お前はもう喋るな!!」

「あぅ」


 戯言をほざく狼華の額にいつも通り一撃。

 ったく…ちょっと優しくしたらすぐ調子に乗りやがって…


「お楽しみだったようだねぇ…連れ出して正解だったよ!」

「俺からしたらとんだ厄日だよ…」

「それで、キミ達はこれからどうする?」

「どうするも何も帰るつもりだが?」

「まだお昼ですよ?もう帰るつもりですか?」


 時計を確認すると、時刻は11時を少し過ぎた頃だった。

 そうだった…朝イチからコイツらに連れ出されたんだった…


「昼でも帰るっての。もとより俺は家でのんびり過ごすつもりだったからな」

「なら好きにしたまえよ。私は一足先に帰るけどね」

「えっ?じゃあ俺はどうやって帰れば良いんだよ?お前の車で来たんだぞ!?」

「仁也君…キミは大学生にもなって電車の乗り方も分からないのかい…?」

「分かるわそのくらい!」

「なら問題ないね!それじゃ!」

「あ、おい!待てコラ!」


 俺がいくら呼び止めても、衣緒が止まることは無かった。

 走り去っていく衣緒の車を、俺と狼華は呆然と眺めていた。


「アイツ…マジで置いて行きやがった…」

「どうします?先輩」

「あークソッタレが!おい狼華!とりあえず昼飯行くぞ!」


 残された俺は狼華を連れてひとまず飯を食べる事にした。

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