第11話『俺の後輩を見捨てない』
薄暗い道を、俺と狼華はゆっくりと進んで行く。
さっきよりも会話は少なく、淡々と奥の方へと歩いて行く。
「先輩、少し休みませんか?」
「…またアイツが来るかもしれないのにか?」
「多分ここなら大丈夫ですよ」
「何を根拠にそんな…」
「多分ですけど、あのナタ男はランダムで出てくるわけじゃ無いです。さっきからチェックポイントに辿り着く度に出て来るじゃ無いですか」
「なるほど…それならここは逆に安全って訳か」
ここは何の目印も無い場所。
狼華の言う通りならここには奴は出て来ない。
ビビり疲れた俺はみっともなく道の端に腰を下ろした。
「…正直意外です。先輩ってこう言うの苦手だったんですね」
「ガキの頃に見た映画がトラウマでな…情けねぇ…」
「そんな事ないですよ。誰だって苦手なものくらいあります」
「お前に慰められるとはな…ますます泣けてくるぜ…」
普段から邪険に扱っている奴に慰められ、罪悪感やら劣等感やらで俺の内心はもうグチャグチャだ。
遊びに来ただけなのにこんな思いをするハメになるとは…
「そろそろ行くか、早いとこ終わらせて帰ろうぜ」
「待ってください先輩」
立ちあがろうとした俺の手を狼華が突然掴んでくる。
俺の右手を大事そうに握り、胸の前で祈るような姿勢を取った。
「大丈夫です…私がそばにいますから…」
「……………」
何度も言い聞かせるように狼華が呟く。
普段からすればありえない事だが、俺は手から伝わる温もりに安心感を覚えていた。
誰かが近くにいる。たったそれだけの事なのに、さっきよりも気分が良かった。
「…ありがとな」
「っ!先輩、今のって…」
「何でもねぇ、忘れろ!」
「あぅ」
自然と感謝の言葉が漏れてしまった。
反射的に狼華の額を叩き、それ以上の指摘を封じる。
それから俺達はさらに先へと進み、次のチェックポイントと思われる場所に辿り着いた。
「また2つの扉か…」
「しかも1人しか入れないのと、複数人で入れるところまで同じですね」
またしても扉は2つ。扉にはそれぞれタイマーが付いてる。
1人しか通れない扉には『10秒』、複数人で通れる扉には『20秒』と表示されている。
例の如く、壁には説明が書かれていた。
「…どうやら触れてあってる時間だけタイマーが進むみたいですね」
「それだけか?何だよ楽勝だな」
「ですね。さっさと終わらせちゃいましょう」
俺と狼華は向かい合って握手した。
握手し始めた途端、扉のタイマーが減り始める。
それと同時に、壁に再び血の手形が現れた。
「やっぱ来るよな…!」
予想通り、ナタ男が再び現れた。
今度は通路を全力疾走で迫ってくる。
そのプレッシャーに俺は思わず手を離しそうになる。
「先輩…!」
「分かってる!離さねぇよ!」
ここで手を離せばタイマーは進まない。
迫る恐怖に耐えていると、一つ目のタイマーが0になった。
開いたのは、1人用の扉。
「先輩──」
狼華の手から力が抜けていく。
瞬時に理解できた。コイツは俺だけを逃がそうとしているのだと。
もうナタ男はすぐそこまで迫って来ている。あと10秒なんて無いかもしれない。
逃げられるならコイツを見捨ててでも逃げるべき…
「んなこと俺が許す訳ねぇだろ!!」
離れようとした狼華の手を引き、逆に抱き寄せる。
「先輩!?」
「終わらせんぞ!ここで!」
残り5秒、ナタ男は約3メートル先
残り3秒、ナタ男がナタを振り上げる。
残り1秒、ナタが振り下ろされ──
「俺達の勝ちだ」
狼華を抱いたまま、着地も考えずに開いた扉に向かって飛び込んだ。
倒れ込んだ扉の向こう側には外の空間が広がっていた。
俺達は最後のチェックポイントを超え、脱出に成功した。
「はぁ…はぁ…はぁ…出られた…よな?」
「そう見たいですね…」
「はぁぁぁぁあ!しんどかった…」
「ですね…最後は本当にダメかと思いました」
「俺もだ…マジでギリギリだった…」
あと1秒でも遅れていたら2人ともアウトだっただろう。
でも結果2人でクリアしたんだから、完勝でいいよな!
狼華を抱いて倒れたまま、俺は晴れやかな達成感を味わった…
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