第10話『俺の同輩は叶えてくれない』

 コンクリート調の通路を、俺たち3人は進んでいく。

 途中の壁には意味深な血文字で『ひとりになる』『最後まで信じてたのに』と書かれていたが、じっくり考えるにはさっきのナタ男が怖すぎて足を止められない。


「思ったよりも凝ってますね」

「あぁ…凝りすぎて嫌気がさすくらいにはな…」

「でも出現を予め知らせてくれるなんて親切じゃないですか?」

「逆だよ、予兆があるからこそ警戒してしまうのさ。現にさっきから壁を見ては仁也君が怖がっているのが何よりの証拠だよ」

「おいバラすんじゃねぇ!」


 仕方ないだろ…さっきから壁に血のような色合いで足跡や歯形があるせいで、一瞬手形に見てて警戒しちまうんだよ…

 どうやら手形以外は全てフェイクらしいが、俺の神経を擦り減らすには充分すぎる効果があった。


「先輩、やっぱり私の手握ります?」

「あぁ」

「えっ?」

「ん?…あ、違う!握らねぇ!」


 余りに精神を削られていたせいか、反射的に狼華の手を握ってしまった。

 チクショウ…普段なら絶対しないのに…!

 すぐに手を離したが、残念なことに一度見つけた隙を逃すほど、俺の後輩はヤワではない。


「OKしましたね先輩。それじゃあ遠慮無く…」

「…あー最悪だ…」

「君達は本当に仲が良いねぇ。こんな状況でも愛情優先かい?」

「それはこのボケ後輩だけだ!あと仲良くねぇから!」

「まぁ何だっていいいさ。それよりも…来たよ」

「「何が(ですか)?」」

「次の関門さ」


 衣緒の指差した先には、また袋小路となった場所があった。

 さっきと違うのは、壁の終わりに向かい合う様に扉が用意されていること。2つの扉はガラス張りになっており、ガラス扉の向こうにはさらに扉が見えていた。

 正面の壁には何やら説明が書かれている。


「なになに…『右は孤独と安寧を、左は共栄と恐怖を』だそうだ」

「何のことだよ…わかるように説明しやがれ」

「右の扉に入れるのは1人だけ、左の扉には複数人で入れるみたいですね。下に説明書きがありますよ」

「あるなら最初からそっち読めや!」


 試しに1人用のガラス扉を開けてみるが、時に何も起こらない。

 奥の扉には鍵が掛かっている。


「別に何も起きねぇな。何か見落として来たんじゃねぇか?」

「ふむ……今度は私が入ってみるとしよう」


 俺に変わって衣緒がガラス扉に入る。

 その瞬間、壁に赤い手形がバンッ!と現れた。


「っ!来やがったか!」


 背後を見ると、俺達が通ってきた方からナタ男が迫って来ていた。


「おい衣緒!どうすんだよ!?…衣緒?」

「ふふふ…やはりそういう事か」

「加賀島さん?何を言って…あ」


 衣緒が入ったガラス扉の向こう側、奥側の扉がいつの間にか開いていた。

 扉の向こう側には、外の景色が広がっていた。


「それってまさか…!」

「どうやらここで1人だけ脱出できるようだね」

「それならそこ変わってくれ!お前はまだ楽しみたいだろ!?」

「仁也君…」

「頼むから…!あとで金なら出すから…!」


 ガラス扉に縋りつき、情けなく懇願する。

 もうナタ男はすぐそこまで来ている。時間はない。

 そんな俺を衣緒は一瞥して───


「その顔が見れただけで満足さ♪」


 ───清々しい顔で出て行った。


「あのアマあああああああああああああああああ!!!!」

「先輩!とりあえずこっちです!」


 狼華に引っ張られて、俺はもう一つのガラス扉に逃げ込んだ。

 入った瞬間、ナタがガラスに叩き付けられた。


「ひっ…!」

「こっちも開くみたいです。行きましょう」

「あ、あぁ…そうだな…」


 促されるがまま、ガラス扉の奥にあった扉を潜る。

 衣緒め…あとで絶対に…ぜっっっったいに泣かしてやる…!!

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