第8話『俺の後輩は企みたい』
寝巻きから私服に着替えた俺は、最低限の荷物だけを持って家を出た。
玄関先では相変わらず狼華と衣緒が談笑していた。
「遅いですよ先輩」
「テメェらが急に来たのが原因だけどな!」
事前に約束さえしていれば、もっとスムーズに動けたものを…
まぁ俺がコイツらと約束をするわけがねぇがな。
家の前には狼華と衣緒、そして衣緒の車が停まっていた。
…衣緒がどうやって車を買えるような金を用意したのかは俺も知らない。ただ一つ言えることは、コイツは俺の個人情報を売るような奴だってことだ。
「で?どこに行くんだよ」
「それは着いてからのお楽しみです。さ、早く行きましょ」
「せめて楽なところであってくれ…」
俺たちを乗せた車が走り出す。
運転席には当然衣緒が、助手席に俺が座り、後部座席に狼華が収まる。
車が走り出した直後、後ろの座席から犬の唸りのような声が聞こえた。
「…不服です」
「何がだよ。人を朝から連れ出しておいて…」
「先輩の隣は私の定位位置です。車内でも私の隣に座るべきでは?」
「んなこと知らねーよ」
「残念だったねぇ甘崎嬢!彼は私の隣が良いみたいだ」
「そうも言ってねぇだろ!」
「そんな…先輩、私と言うものがありながら…」
「あーあ、仁也君サイテー」
「え?何この空気、俺が悪いの?」
別に誰の隣に座ろうが俺の勝手だろうが…
付き合っているわけでもないのに浮気と言われるのは心外なんだが?
「時に仁也君、キミはジャンプスケアに耐性はあるかい?」
「何だそりゃ?」
「ホラー演出の一種ですよ。脅かしてくるアレです」
「あーアレか…別に好きじゃねぇな…」
驚かすだけなら構わないが、怖がらせるのは勘弁願いたい。
恥ずかしい話だが、俺はホラーは苦手だ。それよりもっと苦手なのはコイツらに不様な姿を見られることだ。絶対バカにしてくるじゃん。
「そうかいそうかい!なら今日は楽しめるだろうねぇ!…私達は…」
「おいそれどう言う意味だ」
何やら不穏な言葉を残しつつも、それ以上は行き先について話す事はなかった。
それから車が走ること20分弱、どうやら目的地に着いたようだが…
「……おい」
「どうかしたのかい?」
「どうかしたのかいじゃねぇよ…」
俺たちがやって来たのはイベントハウス。普段から様々な催し物が行われている場所だ。
入り口の看板には『最恐のお化け屋敷爆誕!』と書かれていた。
「お前らコレが目的か?」
「そうです、先輩の可愛い悲鳴が聞きたくて連れて来ちゃいました」
「今日ほどお前らと縁を切りたい思った事はねぇよ…」
最悪の予想が当たってしまい、俺は思わず頭を抱えてしまった。
前門のお化け屋敷、後門のバカども。
朝の清々しさはとうの昔に顔を引っ込め、代わりに最悪の休日が始まろうとしていた…
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