第6話『俺の後輩は諦められない』
「んじゃ、俺は電車だから」
一通り狼華と散策を楽しんだ後、俺は最寄駅までやって来た。
改札口を前にしても、狼華の表情は変わらない。ただ俺の服の裾を摘んでいた。
「イヤです」
「イヤでも帰るんだよ。離せや」
「先輩もこの地元に住みましょうよ。そしたらもっと夜まで一緒にいられますよ?」
「そもそも俺は1人が好きなんだよ!」
「はぁ…先輩ってば本当に素直じゃ無いんだから…」
「本音100%なんだが!?」
狼華はやれやれと言った具合に肩をすくめて見せた。
コイツ…表情は変わらねぇくせに態度には出るんだよな…
さらにタチが悪いのが、それが全部本音なこと。
裏表が無い分余計に感情が出ている気がする。
「いっそ一緒に暮らしませんか?今なら可愛い後輩が付いて来ますよ?」
「付属品がマイナスな事ってあるんだ」
「え、先輩って家要らないんですか?変わってますね」
「お前がメインだったの!?」
「当然です。ちなみに私は先輩と暮らせるならダンボールハウスでもオールオッケーです」
「俺がオッケーじゃねぇわ!」
悪いが俺にはそんな生活に耐えられるほど根性は無い。
…コイツは普通に耐えられそうなのが怖いが…
「…じゃあ先輩はどうやったら私と暮らしてくれるんですか?」
「どうやったって暮らさねぇっての」
「そうですか…今はまだ、ですね」
「何勝手に希望持ってんだよ怖いよ…」
諦める気など毛頭ないと言わんばかりに、狼華は呟いた。
どうやらコイツは本気で俺と一緒に暮らしたいらしい。俺の何をそんなに気に入っているのか気になるが、それを聞くと長くなりそうなので触れないでおくか。
「はぁ…そろそろ電車が来るからここまでだ」
「そうですか…また明日ですね」
「…来るなって言っても勝手に来るんだろ…もう好きにしろ」
「え、好きにして良いんですか?じゃあ泊まりに行きます」
「そこまでは許可してねぇよ!」
「あぅ」
本日何度目になるのかわからない脳天チョップを叩き込んでから、俺は改札を抜けた。
ふと後ろを振り向くと、目が合った途端にブンブンと手を振る狼華がまだ立っていた。
「アイツ…いつまでそこに居るんだよ…」
一向に帰る気配のない狼華に軽く手を振りかえす。
それが嬉しかったのか、狼華はより一層と手を大きく振り返して来た。
「…ふっ…犬みてぇ」
手を振る狼華を不覚にも可愛いと思ってしまった。
…まぁ別に良いか。本人には絶対に言ってやらないが。
ホームに降りて電車を待っている時、ふとスマホにLINEが届いた。
差出人は狼華。何やらアパートの写真と『こことかどうですか?』と言う文言が添えられていた。
「あんだけ言ったのにまだ諦めてねぇのか…『物件の問題じゃねぇ』っと…」
律儀に返信する自分を少し可笑しく思う。
メッセージを返したところで、俺はふと疑問を感じた。
「ん?俺いつの間にアイツとLINE交換した?」
出会ってから一度も連絡先など交換していない。
それなのに当たり前のようにメッセージが届いていた。
しかもいつの間にか友達登録されてるし…
「やっぱあいつストーカーじゃねぇか!」
駅のホームに、俺の悲痛な叫ぶが響いた。
周りに奇異なモノを見る視線よりも、スマホに表示された『叫ぶと迷惑ですよ』と言うメッセージの方がよっぽど心に残った…
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