第4話『俺の後輩は主張できない』
やかましい昼休みの大学を出た俺と甘崎は、大学近くのショッピングモール内を練り歩いていた。
時刻は12時を少しすぎた頃。昼飯代わりにコンビニで買ったおにぎりを頬張りながら、俺たちは目的地も決めずに歩き回っている。
「先輩、これからどこで遊びましょうか」
「んー…どうすっか」
本音を言えば今すぐにでも帰りたいが、それを許すほど甘崎は優しくない。
安易に家に帰るなどと言えば、間違いなくコイツはついてくるだろう。
「まぁテキトーに散歩でも良いんじゃね?」
「そんな…『私とならどんな場所でも楽しめる』なんて…急に何を言い出すんですか」
「あれ?もしかして違う星の言語使ってる?」
何をどう翻訳したらその解釈になるんだよ…
朝からツッコミっぱなしで疲れた俺は、それ以上は特に言及する事なく散歩を続けた。
そうやって歩いていると、甘崎がふと何かを見つけて立ち止まった。
「どうした?何かあったか?」
「あっ…いえその…」
「何だよ急に。逆に怖いだろ」
いつも本音全開な甘崎の大人しすぎる様子に違和感を覚える。
俺は気になって甘崎の向いていた方へと視線を向けた。
そこにあったのはゲームセンターの入り口付近に置かれた、簡素なUFOキャッチャーだった。筐体の中には猫とタコが融合した謎生物のぬいぐるみが入っている。
「欲しいのか?」
「まぁ…はい…」
「何だよお前らしくねぇな。何か理由でもあるのか?」
「…私こういうの苦手なんです。何度やっても上手くできなくて」
「何だそんなことかよ。ちょっと心配して損したわ」
「えっ?」
俺は100円を筐体に入れ、ゲームを始めた。
ボタン操作で動いたアームは、ぬいぐるみの首を掴んだ。
奪った。
そう思った瞬間、アームは突然やる気を無くし、ぬいぐるみを落としてしまった。
「むっ、往生際の悪い奴め」
「先輩?」
「黙って見てろって」
俺は再度100円を投入し、アームを動かす。
またして景品獲得には至らず、思わず眉間に力が籠る。
上等じゃねぇか…絶対取ってやるからな…!
「先輩…そんなにムキにならなくても…」
若干不安そうな甘崎を置き去りにして、俺は筐体に向かう。
挑戦開始から6回目にして、ようやくアームがぬいぐるみを持ち上げた。
「キタァ!」
「おぉ…!」
アームに連れられたぬいぐるみが、筐体の排出口に落とされた。
「っしゃオラァ!どんなもんじゃい!」
「やりましたね先輩」
「おうよ!俺にかかればこんなもんよ!」
景品獲得の嬉しさに思わずガッツポーズをしてしまった。
まぁ結構な激闘だったし良いよな。
「んじゃ、これはお前にやるわ」
「良いんですか?せっかく先輩が獲ったのに」
「こんなよく分からんぬいぐるみ要らんわ。UFOキャッチャーってのは取るまでが楽しーんだよ」
本当に欲しいものならいざ知らず、気まぐれで撮った景品なんて惜しくはない。
…って言い訳でもしておくか。コイツに渡すために獲ったなんて言ったらまた調子に乗るだろうからな。
「先輩…ありがとうございます。フフッ♪」
甘崎は貰ったぬいぐるみを抱き締めた。
その時、いつも無表情な甘崎が笑ったような気がした。
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