第3話『俺の後輩は譲れない』

 午前の講義も終わり、俺と衣緒は食堂にやって来た。

 ちょうど昼時という事もあり、席はほとんど埋まっていた。


「参ったな…これなら近場のファミレスでも行った方が良さそうだな」

「キミはそれで良いかもしれないが、私は午後からも講義があるのでね。できればここで食事を済ませておきたい」

「…ならお前1人で食えば良いじゃん。俺は1人で食うからさ」

「そうは行かないな。これから面白くなるんだからね」

「は?」

「探しましたよ先輩」

「うわっ!」


 俺と衣緒の間に割り込むように、甘崎かんざきが突如現れた。


「先輩…私というものがありながら…浮気ですか?」

「そもそも付き合ってすらねぇわ!」

「待っていたよ甘崎嬢!」


 嫌がる俺とは反対に、衣緒は満面の笑みで甘崎を迎えていた。

 コイツが言ってた『面白くなる』ってのは甘崎の登場だったのか。つくづく他人の不幸を笑うのが好きなやつだ。


「あ、加賀島さん。先日はどうも」

「私の売った情報は役に立ったかい?」

「えぇ、おかげで先輩と朝から手を繋いで登校できました。ウルトラハッピーです」

「それは良かった!私も臨時収入が得られてハッピーだよ!」

「俺は知らぬ間に個人情報が売られててアンハッピーなんだが?」

「必要な犠牲というやつだ」

「この畜生どもが!」


 浮気だなんだとほざいていた甘崎も、いつの間にか衣緒とハイタッチして喜んでいた。

 コイツら絶対道徳の評価『よく考えましょう』だっただろ。


「それはそれとして、先輩は私と出かける約束をしてるんです。加賀島かがしまさんはどうぞお1人でご飯食べててください」

「え?そんな約束s…あー思い出した!思い出したから唇を寄せてくんな!」

「そうはいかないよ。仁也じんや君はこれから私と楽しいランチタイムを過ごすんだからね」

「あれ?俺の意思は?」

「「先輩は《キミ》黙ってて(ください)」」

「お前ら俺を取り合ってるんだよね!?」


 女子2人から同時に求められているはずなのに、どうしてこんなに胸が痛むのだろうか。

 この状況が羨ましいと思う人がいるのならぜひ代わってくれ。


「譲る気はないか…ならどうだい?ココはひとつ──」

「あ、勝負して決める流れだな!勝った方が俺を手に入れる的な!」

「──1000円で仁也君を売ってあげよう」

「買いました」

「毎度あり♪」

「嘘だろ…!?」


 意図も容易く売買されたぞ…!?しかもたった1000円で!

 困惑する俺をよそに、甘崎は財布から取り出した1000円札を衣緒に渡していた。

 コイツら手慣れてやがる…


「待ってマジで1000円で売られたの俺!?」

「往生際が悪いぞ。購入後の商品がピーピー喚くな」

「お前に倫理観ってものはないのか!?」

「落ち着いてください先輩。ちゃんと先輩にもお金は払いますから」

「金払えば良いってもんじゃねぇんだよ!人を気軽に買うな!」

「買うなんて誤解です。これは…そう援助。先輩に援助費を払っているんです」

「もっとアウトだわボケ!」

「あぅ」


 戯言をほざく甘崎のオデコにチョップ一発。

 金をもらって満足したのか、衣緒は俺たちを放って食堂の券売機の方へと歩いて行った。

 残された俺と甘崎は混雑した食堂を嫌って外に出た。

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