第38話 施療院院長は尋問される
マリアンヌ様の美しさを永遠に記録する魔法の研究は行き詰っていた。紙に記録する以外の方法が思いつかない。
ここは、おじいちゃんに教わった方法を実践してみよう。戦闘で行詰まった時の対処法だ。今、自分がやれることと、まだ試していないこと、ついでに分かっていないことをとにかく列挙する。なにかヒントが見つかるかもしれない。
・視覚を紙に書き込む
・記憶を紙に書き込む
・魔力インク、魔力で色の再現
この前やったいたずらで、
・魔法の転移
・魔法が射程限界に到達して何も起きずに消えたら、魔法エネルギーはその後どうなる?
手書きの本は鑑定で読めるし、物質も過去のことが見える。
・物質を鑑定すると来歴を閲覧できる
・手書きの本ならば鑑定で一気読みできる
開発の方向性としては、物質に本のように時系列順に書き込んで鑑定で読み取れば何度でも読み出せると思う。
適当に拾ってきた一抱えくらいの大きさの石を結界で薄くスライスして、魔力インクで1から100まで書き込み、紐でくくって
鑑定によって視えたのは、地殻変動で隆起し露出した岩山が雨によって浸食され岩が割れ、洪水によって流され、長い年月をかけて丸くなっていった。スライスされたのは一瞬。書き込んだ数字は見えなかった。
だめだ。鉱物を使って
・
次は魔石で考えよう。魔石は一見石に見えるけれど放置すると消滅する。小指の爪の大きさの小粒魔石で半年ほど。厳密には瘴気に変化して太陽光でゆっくり分解されると言われている。逆に太陽光が当たらない洞窟には瘴気が溜まりやすい。瘴気が溜まると魔物が発生する。そして魔物の体内には魔石がある。
瘴気から生まれてくると仮定したら、魔物に地域性があるのはなぜだろう。瘴気の濃度だけでは説明がつかない。
・魔石→瘴気→?
・浄化の光と太陽光の違いは?
・魔物はどこからやってくる?
・瘴気から生まれてくると仮定したら、地域性が生まれるのはなぜか?
そういえば、小粒魔石よりはるかに小さいのに魔力インクが消えないのはなぜだろう。だれか知っているかもしれない。
・魔力で作成したインクが消滅しないのはなぜか?
魔族は瘴気を操れる。そして瘴気で精神を操っていたな。そして魔石は圧縮すると一つにできる。
何となく魔石に
魔力を押し込んで魔石の種類を変換させると、変換した後の情報しか見えず、過去の情報が何も見えなくなった。これは使えるかもしれない。
・魔石の合成
・魔石の来歴の消去
・瘴気を圧縮したらどうなるか?
ロイドは弱体化魔法の開発で呪法を研究してたような?魔族の知り合いいないかな。図書館に呪法の資料があるかも。
・呪法を調べる
・呪法と魔法の違いは?
・精神操作系の魔法と瘴気の関係は?
王都の地下の悪魔崇拝の祭壇を調べてみようか。呪法を実際に使っていたはずだ。
・悪魔崇拝の祭壇を調べる
・
・
まとめるついでに、さらに思いついたことを書き加えた。
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マリアンヌ様の美しさを永遠に記録する魔法の研究まとめ
関係がありそうで、現時点でできること
・視覚を紙に書き込む
・記憶を紙に書き込む
・魔力インク、魔力で色の再現
・魔法の転移
・魔石の合成
・
・魔石に魔力を押し込む
・魔石に魔力を過剰に押し込むと属性と種類が変化する
・魔石の来歴の消去
・物質を鑑定すると来歴を閲覧できる
・手書きの本ならば鑑定で一気読みできる
わからないこと
・記憶あるいは視覚/聴覚を長期的に保存する方法、取り出す方法
・魔力で作成したインクが、魔石のように消滅しないのはなぜか?
・魔石に魔力インクを押し込んだらどうなる?
・複数の属性の魔石を圧縮したらどうなるか?
・魔石に複数の属性を同時に押し込めるか?
・魔石が瘴気となった後、瘴気を圧縮したらどうなる?
・呪法と魔法の違いは?
・魔物はどこからやってくる?瘴気から発生すると仮定したら、地域性が生まれるのはなぜか?
・精神操作系の魔法と瘴気の関係は?
・浄化の光と太陽光の違いは?
・魔法が射程限界に到達して何も起きずに消えたら、魔法エネルギーはその後どうなる?
・
やること
・
・呪法と魔法との違いを明らかにし、瘴気の仕組みを調べる
・悪魔崇拝の祭壇で呪法の残滓を調べる
・魔石の瘴気と地域性の比較
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現時点の書き込みの問題は、紙では実用可能な大きさに書き込めないこと。鉱物も同じだ。
そして読み取りの問題は、鉱物では歴史が長すぎること。鑑定では小さな変化が読み取れないことと、音が聞こえないこと。つまり始まりと終わりは見えるけど、途中の経過が断片的にしかわからない。要するにおっぱいの揺れが見えないのだ。手書きの本が鑑定で読めるのは紙自体の来歴が短いこと、紙に書き込まれる時間が長いためだ。
魔石は来歴が消去できるようなので書き込みやすそうだけど、今のままだと長期保管も大量保管もできない。複数の属性を順に注ぎ込むと混ざらずに前の属性は押し出されてしまう。
やることに関しては、なーんでか明後日の方向に向かってる気がしなくもない。
“学問とは暗闇に明かりを灯すが如し” だったかな?何かやろうとしてもわからないことの方が多すぎる。なにが新しい発見につながるかわからないからとにかくやってみよう。
時間がかかる実験を先に準備しておく。
ゴブリンの小粒魔石を600個準備した。そのうち300個の魔石に魔力インクをちまちまと入れていく。そして物理と魔力を遮断する結界の箱を6つ、箱1つにつき小粒魔石100個。洞窟を模して瘴気になるまで地下に放置する予定だ。瘴気から魔獣が発生すると仮定して結界は大きめだが空気穴は無い。万が一発生した場合はそのまま窒息死する想定だ。地域性の比較のため、魔族が見つかった王都地下、キラーホーネットが生息していた近隣の森、ゴブリンが多く生息するタルタの国の森に設置した。事情はルークとおじいちゃんにだけ教えた。ルークは学校にフィールド実験として報告書を提出した。
現地には “エルネスタ王国 魔法学校 実験中 連絡先アリシア・タルタ” の立て看板を立てた。
◆
とはいえ不明なことは識者に聞くのが簡単だ。もしかしたら同じ研究をしている先行者がいるかもしれない。
「というわけで、やって参りました。施療院院長、ロイド・フォン・オリエンス子爵です!」
「今は施療院だけでなく領地の掌握で多忙なのですが…」
「こちらはオリエンス子爵領で回収したご神体です。キラーホーネットのスタンピードの際に盗難被害に遭う前に回収した物です。」
「神殿に無かったので神官が持ち出したのかと思っておりました。ありがとうございます。」
ロイドは結界が使えるから有効活用できるだろう。
「実は映像を記録する魔法について研究しておりまして…」
「以前紙に写実的に転写しておられましたが、その関係でしょうか?」
「はい。あれは基礎研究でして、本当は動画と音声を記録したいと考えています。」
「なるほど。
「ご認識の通りです。それも何度も。1000年くらいは残したいと思います。」
「ふむ。魔石に魔力を封入する際に複数の属性を混ぜて多重属性魔法を発動する技術はございますが、これは一回限りですからね。」
「はい。なので封入した魔力を鑑定できれば、何度も視聴できるのではないかと考えています。」
「あるいは、
魔法の結果を封入、つまり火属性魔法であれば火そのものを魔石に閉じ込めるに等しい。おなじ結果を求めるなら魔石に穴をあけて油と火打石を入れるほうが簡単だ。魔法の結果を封入するのは、とてもできそうに思えない。
「魔法の結果、あるいは、記憶の保存ができれば良いのですが、その研究に入る前にまずは魔石が消滅しない仕組みを研究したいと思います。」
「魔石は放置すると瘴気に変わって消滅してしまいますからね。」
「その瘴気を操作できないものかと。魔族は瘴気を使って人の精神を操っていましたよね?それを魔石が蒸発しないように応用できないかと思いまして。」
「なるほど。姫殿下の目的が見えてきました。精神操作系魔法に瘴気を操作する術式が含まれていますからね。」
やっぱり瘴気を操作してた!
「やはりあるんですね?」
「ええ。
「では逆に瘴気になるのを抑えることはできるでしょうか。」
「難しいです。体内の魔石が瘴気化しない理由はご存じですか?」
「わかりませんが、魔石に別の属性を魔力を押し込んだら瘴気ではなく魔石の中の属性の魔力が出て来るのですから、その関係でしょうか。」
「はい。魔力が常に循環しているから瘴気が出てこないのです。瘴気を出すのは簡単です。魔力の循環を阻害したらいいのです。」
魔力が循環しないから魔石から瘴気が出てくる。魔石を維持するには魔力の循環が必要。
「ロイド様、瘴気とはそもそも何でしょうか?」
「まだわかっていませんが、魔石が腐敗した時に出ると考えています。」
「氷を温めて水に、水を温めて水蒸気に、冷やすと逆になりますよね?それとは異なるということですか?」
「少なくとも瘴気を魔石に戻すことはできないようです。」
瘴気は魔石に戻らない。いいことを聞いた。
「いま、魔石を瘴気に変えて元に戻す実験を行っているのです。場合によっては瘴気から魔獣が発生するのかと思っていたのですが。」
「魔獣は瘴気が出てくる魔石、死んだ個体の魔力器官を狙って集まってくるだけで、瘴気からは生まれないはずです。」
そうなのか。小粒魔石600個無駄にしたのかも。もしかしたら先人が検証していたのかもしれない。やってしまった。
「では最後に、精神操作系の魔法と瘴気の関係は?なぜ瘴気で精神操作できるのでしょうか。」
「瘴気には幻覚を見せる作用と催眠状態に陥らせる作用があります。あとは
「なるほど!魔族が魔獣を操れるのもそれが理由なのですね。ありがとうございました。」
おじいちゃんが瘴気と魔族を非常に警戒する理由がわかった。
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