第37話 帝国軍人は休暇を満喫する
前回の続き
ドミニク中佐は上司の犯罪に巻き込まれたようだ。
独房のベッド最高
-----------------
◆ ジルタニア帝国軍西部方面軍 中佐ドミニク視点
独房では一切の魔法が使用できない。外部との連絡は手紙のみである。当然ながら検閲される。また、処刑されるほどの重罪でない限り新聞等は依頼すれば閲覧可能だ。つまり新聞を依頼することで、小官がどう見られているか調べられる。
新聞は閲覧が許可された。ふむ。参考人か、あるいは軽罪だな。小官は頻繁に独房に入れられたことがあるから慣れたものだ。なお、一度たりとも有罪になったことはない。すべて正当防衛か犯罪者の制圧だからだ。少々やりすぎただけだ。今回は身に覚えがない。せいぜい厳重注意だろう。
今は骨休めでもするか。入浴は許可されるだろうか。
新聞は一紙を除いて各紙大津波のニュースがトップ、残る一紙はラムダ大佐の収賄疑惑のニュースだった。新聞によると、ノクトレーン国の最前線都市において、ノクトレーン国に都市防衛協力金として金を要求していたそうだ。ノクトレーン国との約束では撤退が条件だったらしい。そのため、金を支払ったにもかかわらず撤退しなかったことから、ノクトレーン国から帝国政府に抗議があり発覚したとのことだ。
はは。ノクトレーン国の典型的な工作活動ではないか。金を一方的に送り付けて収賄としてメディアにリークする。よほどラムダ大佐が邪魔だったらしいな。各紙二面はラムダ大佐の収賄の内容が詳しく記されているが、これはリークの典型だな。どこも重要な記述だけは同じような文章だが、詳細が取材できないから各紙記者の独自の妄想で埋められており、細かい情報が一致していない。
外国の工作活動をそのままたれ流す学習しないメディアもメディアだが、まさか中央指令本部はこんなくだらん情報に惑わされたのか?
翌日、新聞の閲覧は許可されなかった。嫌な予感を感じながら、備え付けの魔獣辞典を開く。手垢がついた古い辞典だ。最新の情報が記載されていない。ふと気になって、ある魔獣の情報が無いか調べる。あった。
--------------------------------
ゴブリンもどき:スライム種、第一種討伐対象(魔王に成長する恐れあり、他の魔獣を魔王に成長させる恐れあり)
特徴:
ゴブリンもどきはゴブリンなど身近にいる魔獣に擬態するスライムの一種。ゴブリン以外の魔獣や人にも擬態することがある。自身より魔力が多いものに従順である。
魔力を吸収して成長および回復する。鑑定不可。鑑定でもわずかに成長および回復する。都市に施した結界の魔力を吸収して成長する。発見が遅れると手遅れになるため注意されたい。
十分に成長すると結界に穴をあけて侵入する。結界内に侵入された場合は直ちに都市を放棄し、これ以上成長を促さないようにすること。
浄化に耐性あり。切断ダメージは直ちに再生する。鈍器による攻撃は無効。取り込むと酸により消化し魔力に変換して成長する。鉄製武器を腐食させるため切れ味が急速に劣化する。生物の記憶を読み奇跡や呪法を再現する。スタンピードに紛れ込むと、味方の魔獣の鎧などに変化し戦闘を支援する。支援している魔獣が死ぬと死骸を操作して逃走し、さらなるスタンピードを誘発する。
弱点:
弱点は核となる魔石。ただし体内の核は透明で自由移動するため、目視による発見は困難。迅速に破壊する必要がある。
鎧化前の弱点:
有効な武器は
石灰や重曹の散布が有効。魔法によらない熱攻撃も有効。
鎧化後の弱点:
鎧を装備している魔獣が消滅するまで弱点は無い。破壊困難。装備者の魔力を吸収して修復する。
その他:
ゴブリンとゴブリンもどきは鳴き声の有無で見分けられる。
ゴブリンは女性の匂いに誘引されるが、ゴブリンもどきは魔力に誘引される。
尿に対して忌避行動をとる。 “ゴブリンもどきは臆病者と戦わぬ” と言われる
--------------------------------
本が古いから神官視点の記述になっているな。魔力を吸収して原始的な魔法を使うようだ。
それにしても
◇
軍事裁判所において小官の査問が始まった。
まずは真実を報告することを宣誓して始まった。
1.ラムダの収賄について
「最前線都市における貴官の役割を述べよ。」
「小官の役割は、領土拡張作戦において周辺住民の殲滅を命令された。直ちに殲滅を開始しなかったのは、証拠を残さないという制約があったことと、時間の猶予があったためである。また、救援に向かってくる隊の排除を命じられた。」
「ラムダの収賄について知っていることを述べよ。」
「収賄については新聞を見て初めて知った。」
「ラムダから金銭を受け取ったことはあるか?」
「ない。」
「ノクトレーン国との交渉はどうであったか述べよ。」
「交渉そのものに参加していない。」
「交渉の金額を述べよ。」
「知る権限はない。」
「貴官は賄賂を受け取ったことはあるか?」
「ない。本件は、ノクトレーン国の典型的な工作活動と考えている。」
「本査問会は私見を述べる場ではない。」
2.西部方面軍が引き起こしたスタンピードについて
「スタンピードを起こす前の本来の作戦について述べよ。」
「現地に派遣された目的は、津波被災者の救助とゴミ除去。危険は少ないと判断して練兵目的で新兵を動員した。」
「スタンピードの経緯を述べよ。」
「スタンピードの原因は、兵が海岸にいた魔獣に驚いて追い払ったため。スタンピード発生の責任は、指導不足であった小官にある。」
「責任の所在についてはこちらで判断する。」
3.タルタの援軍通行を妨害して民間人の救助を遅延させたことについて
「タルタの援軍通行を妨害するに至った作戦において貴官の役割を述べよ。」
「領土拡張作戦の一環で周辺住民を帝国奴隷と入れ替える作戦であった。よって救助されることを阻止する必要があった。」
「救助された後に殲滅すればよかったではないか。」
「いつまで駐屯されるか予測できなかったため、また、そのまま駐屯された場合は領土拡張作戦が頓挫する可能性があった。」
「輜重隊の内容を閲覧されるに至った経緯を述べよ。」
「周辺の村を救助しない理由について問われたため、周辺の村を救助するために輜重隊の来援を待っていると回答した。タルタ側から輜重隊の移動の支援を持ち掛けられたが、現在地について回答を拒否した。そのためタルタ側が輜重隊の現在地を捜索し始めた。」
「
「西部方面軍に入る前の輜重隊については中央指令本部の指揮下にある。」
「こちらに責任があると言いたいのか?」
「そうだ。小官は貴官らの尻をぬぐおうと努力したのだ。感謝せよ。」
「丸腰の姫に剣を突き付けたのは諸外国から笑いものになっているぞ。」
「それが任務である。」
「奴隷について詮索された時、過剰に反応せず、当初目的通り海岸の清掃と言っておればよかったのだ。」
「そのような命令は受けていない。」
「貴官は中佐だぞ!それぐらいの融通を利かせるだけの権限は与えられている!」
「そのような権限は軍法に存在しない。融通を利かせる必要がある場合は、都度命令される。」
「貴官は先ほど説明したな?“周辺の村を救助するために輜重隊の来援を待っていると回答した” と。同様の機転を利かせてほしかったものだ。」
「そう回答するよう中央司令本部より指示があったためだ。」
「まったく。ああいえばこういうだな。当査問会は貴官が査問会を侮辱したと認める。」
「軍法を軽んずる査問会など無効である。」
◇
独房で休暇を満喫していたら中央司令本部から手紙が来た。
--------------------------------
ドミニク殿 中央司令本部
作戦指令室
辞令
この辞令を受け取り次第、直ちに移動せよ。
魔石工場への出向を命ず。
また、下記の理由の通り中佐の任を解く。
記
1.上官であるラムダの不正を止める立場に
ありながら、不正を感知できず、唯々諾々
と命令を遂行した。
2.新兵であることを認識しながら適切な指
導をせず、スタンピードを引き起こさせ、
現地住民を死亡させた。
3.組織的に賭博をおこない、作戦を遊戯に
使用した。
よって、貴殿は中佐としての職責を全うでき
ないと判断する。
以上
--------------------------------
ふーむ。タルタの姫に剣を向けた件はおとがめなしか。
中央司令本部も責任を負わされることになるからな。
独房を出た後、妻へ連絡を入れようとしたが応答は無かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます