第33話 王宮魔法士は決闘する
◆ 王宮魔法士マリアンヌ視点
ノクトレーン国王太子レオンマーク殿下、エクシティウム公爵連合軍との決闘が始まります。わたくしは舞台に上がりました。まずは舞台が破壊されないよう舞台全域を結界で保護します。あとは半球状の結界を展開しました。最後に
「マリアンヌ様!がんばって!」
「はい。」
対するレオンマーク殿下、エクシティウム公爵連合軍は8,000人以上。舞台に上がるにも時間がかかっています。騎馬が1mの舞台の段差を上がるのに四苦八苦しているようですね。階段をたくさん用意すればよかったかしら。一時間かけてようやく配置についたようです。お茶を用意すればよかったわ。
周囲の魔力の流れを見る限り、国内だけでなく国外からも観られているようです。無様な戦いはできませんね。
「ただいまより、レオンマーク殿下、エクシティウム公爵連合軍対マリアンヌ・リーゼヴェルト殿の決闘を開始する!」
大型ホルンの野太い音色が聞こえました。戦闘開始です。
まずは8層の半球結界を一気に広げます。舞台端に展開していた兵たちは順に押し出されて落下していきました。何か抵抗していたようですが無駄です。地上部隊は早々に脱落。飛翔した部隊も魔法を撃った目の前で爆発して自爆し落下していきました。殿下は脱落したようですが、エクシティウム公爵は空で指揮をおとりのようです。
「
「勝負あり!勝者マリアンヌ・リーゼヴェルト殿!」
戦闘終了です。戦闘時間は約5分。
エクシティウム公爵は高所から落下し、全身を強く打ってお亡くなりになりました。ご冥福をお祈りいたします。
◇
レオンマーク殿下が決闘結果が不服のようで抗議にいらっしゃいました。
「卑怯だぞ!開始前から準備していたな!?」
「何のことでしょうか?日ごろの鍛錬のことでしょうか?もし仮にそうであったとしてもルール上、反則ではございません。」
「これは決闘だ!開始前から準備するなど聞いたことが無い!」
「ご不満なようですね。では以降は私にお任せください。」
ロイド様に後をお任せします。ロイド様は我が意を得たりとニコニコ顔です。
「開始前に魔法を行使するのは禁止だ!」
「畏まりました。では、そのように。そういえば決めておりませんでしたね、私が勝った場合の報酬を。そうですね。王都に施療院の店舗を頂きたい。それから税の免除をお願いいたします。最後にレオンマーク殿下の婚約者様を妻に頂きたい。」
「フローリアを!?」
「殿下は負ければ廃嫡、平民となります。その婚約者のフローリア様に平民になれとおっしゃるのはいささか酷ではございませんか?それにエクシティウム家はこれから子爵となります。付き合いも考え直す必要がございますよね?公爵から子爵になった令嬢はこの国の社交界にいられるでしょうか?まあ、今までの話は全て仮の話です。大丈夫です、殿下。私に勝てばよいのです。」
「恒久的な税の免除は難しい。10年にしてもらえぬだろうか?」
「その条件で結構でございます、国王陛下。ではこちらの書類にサインを。」
ロイド様は恐ろしい方ですね。殿下には何があっても負けられない状態に追い込んだうえで敗北させ、仮に生き残ったとしても再起の可能性を確実に潰すおつもりのようです。敗北して婚約者を差し出したとなるとエクシティウム子爵の支援は得られなくなるでしょう。
◇
舞台の破損は無かったのでこのまま開始することとなりました。
レオンマーク殿下の近衛兵100人は健在。エクシティウム子爵の魔法士も一部参加します。今度は絶対に負けられないレオンマーク殿下。作戦会議を真剣に行っておられます。はじめからそうなされば良かったのに。
「ただ今より、レオンマーク殿下軍対ロイド・カーベルト殿の決闘を開始する!」
大型ホルンの野太い音色が聞こえました。戦闘開始です。
「ロイド様。殺しすぎませんように。」
「善処します。」
不安です。レオンマーク殿下が敗北するのは予定調和ですが、凄惨な亡くなり方をしたら国王陛下のお心も変わってしまうかもしれません。
ロイド様は魔法・物理遮断の結界を1層作っただけで舞台端にて待機。帯剣していますが、抜剣しません。レオンマーク殿下の軍は、たくさんの強化系魔法をかけていきます。全てかけ終えたのでしょう、騎馬が猛スピードで突進してきました。
「
レオンマーク殿下の軍が盛大に転倒しました。全員の強化がすべて解除されています。少なくない兵が落馬して大怪我を負ったようです。舞台に設置したわたくしの結界も、抵抗する間もなく解除されてしまいました。
「
レオンマーク殿下の軍の装備がすべて破壊されました。全員全裸です。魔法抵抗が高いとされている
「
一歩歩いて殿下の首筋に剣を添えました。
レオンマーク殿下は両手を挙げて降伏の意思を示したようです。
「降伏は勝利条件にない。死にたくなければ “自分の意思” で舞台から降りろ。」
「ひぃぃぃぃぃぃ!!!!」
おそらく
少し離れた場所で国王陛下が顔を押さえているのが見えます。お泣きになられているようです。わたくしは自身の
「勝負あり!勝者ロイド・カーベルト殿!」
重傷者は多数ですが結局一人も殺さずに勝利したことを称賛したいと思います。
◇
『え?ちょちょ、せめて名前で分けてくださいよ!』
アリシアに
「アリシア、どうしたの?」
「神様から亡くなった方の
神託でしたか。亡くなった方の
「わたくしとの決闘で亡くなった方の物でしょうか。」
「大津波で亡くなった方の物がほとんどです。大量の生魚が入っています。あれ?そうなると、前回魚がほとんどなかったのは腑に落ちませんね。もしかして前回の物も外国の物は含まれていなかったんでしょうか。」
「我が国に関係のない機密文書が含まれていたので、国外の分も含まれていると考えられていましたが、輸送中に我が国で亡くなったのかもしれませんね。」
「そうなると今回の分はこの国の国王陛下にお預けするのが良いですね。」
「文書だけは精査させてください。我が国の機密文書があるなら渡せないわ。」
「そうしましょう。」
◆ フローリア・エクシティウム元公爵令嬢、現子爵令嬢視点
どうしてこうなったのか…
わたくしは幼少のころからエクシティウム公爵令嬢として、そして未来の国母として、王太子であるレオンマーク殿下の婚約者としてこれまで教育されてまいりました。貴族の義務としてではありましたが、王太子殿下との関係に不満など一切ありませんでした。
王太子殿下には良くしていただきましたし、求愛もいただきました。頂いてばかりで申し訳なく、少しでもお返ししたいという気持ちの方が大きかったような気がいたします。
お父様はエクシティウム公爵家当主として、政治、外交、産業、教育、王室、国防、諜報など、多岐にわたる分野で国家に貢献してまいりました。その中で、諜報活動の頂点を握っている存在でもございます。諜報によって政治を安定させ、諜報によって外交を円滑にし、諜報によって領内を平和的に統治し、諜報によって国防を維持しておりました。“諜報なくして弱小国家の維持は不可能” というのが父、ひいてはエクシティウム公爵家の家訓でございます。
父を含めたエクシティウム公爵家は神官という存在を代々目の敵にしておりました。結界によって本心を暴き、鑑定によって人の真実を暴く存在は味方になれば一見有用かに思われますが、彼らは神との契約が最優先で、次に聖典に沿った行動をとること、そこに政治の概念はございません。そのため、政治や国防にとって不利益な行動をとって衝突することも多々あったそうです。
ゆえに、長い時間をかけて神官を堕落させ信用を失墜させ、国民を扇動して国内から神官を排除、さらに、外国にも同様に手を伸ばして神殿の存在を地上から抹消しようと画策しました。実際それが多くの国や地域で成功してきたのです。軍事大国であるジルタニア帝国も例外ではございません。むしろジルタニア帝国は非常に簡単な部類であったとのことです。神官に賄賂を贈るだけで国家が自主的に排除したからです。
我が国の工作によって、多くの神官は堕落しますが、中には堕落せずに昔のままの信仰を保ち続ける者たちもいます。そういう者たちに対しては、その地域の住民に働きかけて迫害させるのです。迫害を受けた神官たちは自らの存在価値を求めて魔族や魔獣が多く残る西へ旅立ち、二度と戻ってきません。過酷な環境に耐えきれずすべて死んだと言われています。
大英雄ファルス。
しかし、なぜか孫娘のアリシアを連れてエルネスタ王国王都へ来てしまいました。諜報員に状況を把握するよう指示を出そうとした一瞬の隙に、王都に隠れ住んでいた魔族を発見し、結界を再構築し、なぜか諜報員が入り込めぬよう結界を変更し、なぜか現地の協力者をすべて連れ去ってしまいました。さらにどうやったのか孫娘を王族と婚約させ、神官の能力をもちつつ強大な魔法をあやつるという、
使徒アリシアは、当初から聖女見習いとして活動していましたが、その人物像から容易に排除できると想定されていました。色男に弱く、金銭が好きで、名誉欲は強いが努力はしない、浅慮、状況に流されやすい。しかしながらファルスが作った結界を引き継ぐことによって、諜報員が手をこまねいている間に成長してしまいました。
顔が良く話が上手い諜報員は貴族令嬢を意のままに操ることができます。その諜報員を何人もアリシア排除に投入したあげく、結界の牢獄に閉じ込められ損耗しました。王都外に出るという乾坤一擲の契機にも暗殺に失敗し、我が国が誇る
そこへ我が国を襲ったのが未曽有の大災害です。
結論から言うと大災害の責任を
そして世論に弱い国王陛下は
神官は鑑定によって真実を見通すことができます。エクシティウム公爵家の進退は
このまま一族は連座で処刑されると覚悟を決めていたところ、決闘裁判という前時代的な方法で生き残る可能性が示されました。しかも当家の全戦力をもって、エルネスタ王国王宮魔法士マリアンヌ・リーゼヴェルト一人と対決し勝利せよとのことです。わたくしも魔法は得意な方です。もちろん参加します。地上部隊と連携して空爆を行えば手数で勝る我々に負けはありません。しかもマリアンヌ・リーゼヴェルトという王宮魔法士は魔法学校を卒業したての新人です。完全に嘗められていると領兵たちはいきり立ちました。わたくしは逆に、わざと負けるためにこんなことをしているのではないかと訝しみます。父はマリアンヌとの決闘で勝利した後、その身柄を婚約者に献上すると約束なさいました。マリアンヌは自身の美貌によってわたくしと立場を入れ替えて王妃の座に座ろうと画策しているのかもしれません。そのためわたくしはマリアンヌには死んで頂くか、適当な男に攫わせようと考えていたのでございます。
◇
決闘用の舞台は建設されていましたが、ルールは決闘当日に公表されました。
8,000人も騎兵や兵士がいると整列に手間がかかると虚言を吐いて時間を稼ぎ、お父様が作戦を立案します。マリアンヌの足元を破壊し反撃不能にした状態で弾幕によって押し勝つ作戦です。ただし、相手は転移が可能なため、深追いして自身が舞台外から誤って攻撃せぬよう通達がありました。順当な作戦でだれも異論はありません。レオンマーク殿下は後方で戦局を見守ることとなりました。
「ただいまより、レオンマーク殿下、エクシティウム公爵連合軍対マリアンヌ・リーゼヴェルト殿の決闘を開始する!」
大型ホルンの野太い音色が聞こえました。戦闘開始です。
「
飛翔しながらあらかじめ決めた順番通り自身に強化を一気にかけます。マリアンヌは棒立ちです。本当に負けるつもりかもしれないと思ったその時、気が付いたら見えない魔力壁に押し込まれて婚約者含め地上部隊は早々に脱落しました。複数人で必死に何度も
魔力枯渇が近くなり、焦って
「勝負あり!勝者マリアンヌ・リーゼヴェルト殿!」
わたくしたちは何一つ有効な対策を見出すことなく敗北しました。悔しいですが完敗です。
◇
先ほどの戦いで何もできなかったレオンマーク殿下が食って掛かります。
「卑怯だぞ!開始前から準備していたな!?」
「何のことでしょうか?日ごろの鍛錬のことでしょうか?もし仮にそうであったとしてもルール上、反則ではございません。」
ルール上、反則ではない。確かに。実はわたくしもフライング気味に魔法を使いました。
「ご不満なようですね。では以降は私にお任せください。」
結果に不満が出たら、次の方が対戦するとのことでしたね。この方でしょうか。
優しそうなお方が出てきました。機嫌がよさそうでニコニコ顔です。
「開始前に魔法を行使するのは禁止だ!」
「畏まりました。では、そのように。そういえば決めておりませんでしたね、私が勝った場合の報酬を。そうですね。王都に施療院の店舗を頂きたい。それから税の免除をお願いいたします。最後にレオンマーク殿下の婚約者様を妻に頂きたい。」
わたくしを妻に?この方は何を考えていらっしゃるのでしょうか。
「殿下は負ければ廃嫡、平民となります。その婚約者のフローリア様に平民になれとおっしゃるのはいささか酷ではございませんか?それにエクシティウム家はこれから子爵となります。付き合いも考え直す必要がございますよね?公爵から子爵になった令嬢はこの国の社交界にいられるでしょうか?」
レオンマーク殿下が廃嫡になれば婚約は必然的に解消されるはずですが、生き残ることは想定しておりませんでした。敗北後は自決するか排除されるとしか考えておりませんでしたので。
仮に生き残った場合は、確かに今後ノクトレーン国の社交界では恥ずかしくて出席できないでしょう。ただ、もしレオンマーク殿下が勝利したとしても今のわたくしは子爵令嬢。身分が違うためすでに婚約は解消されているのですよね。
「国王陛下。ではこちらの書類にサインを。」
わたくしの進退は国王陛下によって、ここで確定したのでございます。
◇
舞台の破損は無かったのでこのまま開始することとなりました。わたくしはロイド・カーベルトという人物を見定めるために国王陛下の近くで観戦することにいたしました。
レオンマーク殿下の近衛兵100人は健在。怪我をした馬は取り替えました。当家の魔法士も一部参加します。今度は絶対に負けられないレオンマーク殿下は、作戦会議を真剣に行っておられます。
「ただ今より、レオンマーク殿下軍対ロイド・カーベルト殿の決闘を開始する!」
伝統の大型ホルンの野太い音色です。戦闘開始です。
「ロイド様。殺しすぎませんように。」
「善処します。」
マリアンヌ様の声が聞こえました。脳が理解を拒みます。“殺しすぎませんように。” 実は残虐な方なのでしょうか。不安です。ロイド・カーベルトは特に何もせず待機。帯剣していますが、抜剣すらしていません。レオンマーク殿下の軍は、たくさんの強化系魔法をかけていきます。全てかけ終えたのでしょう、騎馬が猛スピードでロイド・カーベルトへ突進していきました。
「
レオンマーク殿下の軍の先頭が転倒し次々に落馬しました。全員の強化がすべて解除されています。少なくない兵が大怪我を負ったようです。国王陛下も驚きの声を挙げます。
「
とてつもない魔力量の魔法を行使しました。レオンマーク殿下の軍の装備がすべて破壊されました。全員全裸です。魔法抵抗が高いとされている
「
わずか一歩歩いて殿下の首筋に剣を添えました。
レオンマーク殿下は両手を挙げて降伏の意思を示したようです。
「降伏は勝利条件にない。死にたくなければ自分の意思で舞台から降りろ。」
「ひぃぃぃぃぃぃ!!!!」
レオンマーク殿下は一目散に自陣へ走って戻っていき、舞台から飛び降りました。
ああ、わたくしの事は完全にお諦めになるのですね。わたくしは殿下がたとえ負けるとしても最後まで諦めずに戦うと心のどこかで信じていたのです。
この心が恋だったのかわかりませんが、レオンマークへの気持ちが完全に離れたのを実感しました。
国王陛下が顔を押さえて声を殺して泣いているのを見て、わたくしも泣いてしまいました。あまりにも国王陛下が哀れで。お父様も同じお気持ちなのでしょうか。
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