第30話 聖女見習いは使徒になる
マリアンヌ様から連絡が来た。軽い状況報告。
『アリシア。ノクトレーン国の国王陛下が貴女に謝罪したいそうよ。』
『えぇー?いりませんよめんどくさい。どうせ公式の謝罪なんてしないんだから時間の無駄ですよ。そうやって油断させて暗殺するつもりでしょう?それにルークは研究で忙しいからエスコートもお願いできませんし。』
『そうなるわよね。ところで、使徒様って知ってる?』
『神の
『え、ええ。頻繁に合っていたと言いますか…』
『すごい!おじいちゃんに自慢できる。さすがは慈悲の聖女様!聖人や聖女の前に天使が現れるってお話は本当だったんですね。今はノクトレーン国にいらっしゃるんですか?』
『それがね。…貴女が使徒様ってことになってるのよ。』
『そんな!濡れ衣です!絶対行ったら処刑されるじゃないですか!そもそも、津波を起こせるほどの水属性魔法は使えませんよ。
自身を鑑定してみる。
総魔力量が150万に到達している。そして、地竜を7匹討伐したことになっていた。直近の殺人の記録は無い。少しだけほっとする。
視線を下げて、なにか変な称号が最上段に見えた気がしたけどスルーして2番目から。
"称号:癒しの聖女"
"汝が齎した癒しを広めたことにより、多くの魂を救ったゆえ、この称号を授ける"
『うああああああああ!癒しの聖女!!!』
『やったわね。おめでとう。』
アリシアが発案・開発した魔法を施療院のスタッフが数多く使用し、多くの被施術者からの深い感謝を得たため称号が復活したのだ。ちなみにロイドとルークも癒しの聖人の称号を得ている。
そして3番目。
"称号:守護の聖女"
"汝の守りにより、多くの魂を守ったゆえ、この称号を授ける"
『そして守護の聖女!!!おじいちゃん!やったよ!』
『二つも!すごいわ。』
おじいちゃんの予言通り王都の結界を守り続けた結果授けられた。決め手は魔法発表会で
そして4番目。
"=== 称号:地獄の拷問官 ==="
"真摯に対応し邪悪を打ち払ったゆえ、この称号を取り消す"
『…地獄の拷問官が取り消されました。』
『やったわね。』
脳が理解を拒否してスルーしていた最上段を見返す。つまり名乗りに使う称号だ。
"称号:使徒"
"汝の所業により
『!!!!!!!!!!(引き叫び)』
『なにどうしたの?アリシア?アリシア?』
ここでいう“邪悪”とは、人が考えるような悪という意味ではなく、神視点の邪悪、信仰心を持たない魂のことだ。多くの信仰心が集まるほど神の力が強まる。神の力が増大するゆえに正義。
『マリアンヌ様ぁ…』
『どうしたの?』
『…使徒の称号を授かりました…』
『『…』』
『…そう。一緒に謝罪に行ってあげるから。』
『わたしの首一つで許してもらえませんかね…』
『無理ね。ロイドも連れて行きましょう。ルーク殿下のことは絶対に守るのよ。』
『はい!そうなるとルークの影武者がいりますね。イニエスタ殿下を騙してお連れしましょうか。顔も髪色も似ていますから。』
『だめよ。処刑されたら戦争になるわ。』
ひとまず三人で行って、だめなら交渉しようということになった。
◆
たぶん処刑されるので、おじいちゃんにお別れの挨拶に行くことにした。
城門をくぐるときに素早く
「おかえりなさいませ!アリシア姫。」
「わたしをご存じなのですか?」
「当然です。ですが念のため鑑定させていただきました。地竜討伐おめでとうございます。」
「ありがとう。ご苦労様です。」
わたしの称号については、なにも触れられなかった。
街の中には広い通りにたくさん木造建築が並んでいる。タルタ人はあばら家を作るくらいの技術力しか持ってないと勝手に思ってた。
街の中心には巨木。巨木にご神体が埋め込まれているのを感じる。そして
ご神体に挨拶してから神殿へ入る。中には見習い服を着ている神官が何人もいた。祭壇にもご神体が安置されている。どこかから回収してきたようだ。あっ、おじいちゃん発見。
「おじ…あれ?国王陛下?神殿長?と申し上げたほうがいいでしょうか。お久しぶりです。」
「おお!アリシアではないか。元気にしておったか?ここは神殿じゃから神殿長じゃ。」
「はい。おかげさまで。まずは鑑定をお願いします。」
「ふむ。
聖女の称号を授かったと聞いて、見習いたちも鑑定させてほしいと次々に申し出てきた。もちろん快諾する。
「地竜を7体討伐!」
「癒しの聖女と守護の聖女!すごい!」
鑑定内容を口々に絶賛されてえへへと笑う。
「…使徒?」
皆スルーしていたけど、言ってはならないキーワードが出てきた。
「アリシア。いったい何をしたんじゃ?」
「そ、そのー、
「邪悪というのは心のありようじゃ。神威に触れて改心した者が多かったのじゃろう。もしかしてこの間の爆発のことか?」
「ここまで聞こえてたの?」
「木のてっぺんからキノコ雲も見えたぞい。あれで地竜を倒したのか?」
「無人島で練習していたつもりだったんだけど、地竜がいたみたい。かわいそうなことをしてしまって。」
「彼らの冥福を祈ろうかの。」
「はい。」
「【わたしは父にお願いしよう。父は別の弁護者を遣わして、永遠にあなたがたと一緒にいるようにしてくださる。この方は、真理の霊である。世は、この霊を見ようとも知ろうともしないので、受け入れることができない。しかし、あなたがたはこの霊を知っている。この霊があなたがたと共におり、これからも、あなたがたの内にいるからである。 わたしは、あなたがたをみなしごにはしておかない。あなたがたのところに戻って来る。】
地竜たちの魂が神の手に委ねられんことを。残された遺族や友人たちに対して神の慰めがあらんことを。主があなたを祝福し、あなたを守られるように…」
「実は本題はそれではなくて、ノクトレーン国で大津波が起きてたくさん亡くなったそうです。そこではわたしが使徒だというのが広まっていて、近々、国王陛下に謁見する予定です。」
「王都の間者以来、殺人はしていないではないか。堂々としておれ。」
「あちらには神官がいないのでそれがわからないはずです。」
「ふむ。無策で行けば国民を虐殺した罪人として石打の上処刑されるな。よろしい、わしも行こう。なあに任せておけ、必要があれば国ごと制圧してしまえばよい。勝ったものが正義じゃ。」
「その手があったか!さすがは神殿長!」
大事なところで蛮族思考になる祖父と孫。タルタ人の気質と完全に一致する。
「そういえばノクトレーン国ではスタンピードが各地で発生しているうえ、さらに東方のジルタニア帝国からスタンピード制圧の名目で侵攻を受けているそうです。」
「ふむ。ならばスタンピードと帝国を蹴散らして国民を味方につけるか。国王の謁見はそのあとじゃ。皆の者、行くぞ。実戦訓練じゃ!」
「「「はい!」」」
おじいちゃんが
「ねえ、何で使えるの!?」
「一度見れば誰でも使えるじゃろ。しかしこの魔法は便利じゃな。」
「そうでしょうとも。ルークはすごいんです。」
ふふーん。
ノクトレーン国は大陸の南部に位置する東西に細長い国家だ。海岸線上のルートと、内陸部のルートの二手に分かれて攻略していく。
わたしの名を広く喧伝し、国民の支持を集めようという作戦だ。おじいちゃんは海岸線ルート、わたしは比較的生き残りが多いと思われる内陸部ルートだ。
マリアンヌ様に連絡して、タルタの国からも援軍が来ることを伝えた。時系列はおかしくなるが、後ほど救援依頼を送るそうだ。
第一村落発見。戦闘中でまだ生き残ってる。だが、すでに壁は何か所も破壊されて風前の灯火だ。死体も多い。村に結界を張ってこれ以上の魔獣の増員を防ぐ。見習いの一人が死体を見て吐いた。
「われらはアメス教神官!応援に参りました!助太刀します!」
「はあ、はぁ、え?何だって?」
疲労困憊でよく聞き取れなかったようだ。
「ご無事ですか?お怪我を治します。」
「はあ、来るのが遅せえんだよ!のろまが!」
怪我をした村人たちが罵声を浴びせてくる。きっと手足が元に戻れば掌を返すかもしれない。手足を失った痛みでまともな精神状態じゃないからと、困惑する治療班をなだめながら治療する。この村の生き残りは10人だけだった。手分けしなくてもすぐに終了する。
「おい!死体を片付けろ。」
村人が命令してきた。んー?埋葬するのはいまや政府の仕事ですが?この地域はそうではないのだろうか。埋葬の聖句を唱えると遺体は光となって消えていった。
「おい!身元確認はしたのか?」
「死体を片付けろ。とおっしゃったので片づけました。何か問題が?」
「この国には戸籍ってもんがあるのを知らねえのか?誰が死んだか国に報告する義務があるだろ。説明しないとわからんのか愚図が。」
ふうん?村人様はご丁寧にご高説をお垂れになったらしい。
「それは存じませんでした。われらはタルタの国の神官です。この国独自の決まりごとには疎くて。」
「神官に国籍なんぞねぇだろうが。魔獣と戦うしか能のない連中がよ。使えねぇな。」
「姫殿下、この痴れ者は救いようがありません。消しましょう。」
警戒した村人たちが武器を構える。
「お?やんのか?そもそもお前らが勝手に出て行ったのが悪いんだろうが。村を見捨てやがって。」
「この村の神官はどこへ行ったのですか?」
「愚図の行先なんぞ知るかよ。」
うん。ノクトレーン国は滅亡して良いんじゃないかな。
「タルタの国では人に要求する場合は、まず武勇を持って優劣を決するのが習わしです。あなたのおっしゃる通り、神官の国籍を認めないのでしたら我らの流儀を貫きましょう。」
武器を構えた村人の顔に光と音そして魔法を遮断する球体の結界を張る。目が見えなくなりめちゃくちゃに暴れはじめたが悠々とかわす。頭のおかしな村人はそのまま転んでなお元気だ。怪我だけでなく疲労まで回復させたのは失敗だったか。おとなしくなるまで放置しよう。
後ろに隠れて武器を構えていなかった女性が暴れる村人に跳ね飛ばされて怪我をした。暴れる村人を思い切り蹴飛ばしてどかし、女性を再度回復させながら声をかける。
「名乗るのが遅くなりました。わたしはアリシア・タルタ、タルタの国の第一王女です。神より使徒の称号を授かっております。」
「王女様…?ひいいいいお許しを!お許しを!」
使徒様より王女様の方が聞こえは良いようだな。
「彼らはいつもこんなに粗暴なのですか?」
「し、し、神官様におかれましてはどこでも同じような扱いかと…お許しを!お許しを!」
「そうですか。近くの村と連絡は取れますか?」
「はい!わたしが連絡員です!」
「では連絡をお願いします。タルタの国の援軍が向かうゆえ、もうしばし耐えよ、と。」
「はいいい!かしこまりましてございます。すぐに!」
必死に連絡を入れている間に、廃墟となった神殿を確認する。ご神体の気配は無いから持ち出されたようだ。ここの神官はご神体の価値を知っていたようだな。誰か知らないが好感度が上がった。
「あの者たちの頭に張り付いている黒い球は明日には消えますのでご安心を。最後に彼らに伝言をお願いします。われらは魔獣と戦うしか能のない連中ですが、人と戦えないわけではありません。出て行った神官に村を滅ぼされなかったことを感謝してください。」
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