第29話 新人王宮魔法士は災害支援に向かう

 王都の宝石商にて。

 ≪大爆風≫モアブの爆心地で発見したダイヤモンドの原石入りの石柱。実はものすごい価値があるのでは?遺品の返還会のつながりで宝飾品を担当している宝石商に相談し、鑑定を依頼することにした。


「これはどちらで発見されたものでございますか?」

「南の島で、偶然発見しました。」

「南の諸島に鉱脈があるとは存じませんでした。」

「わたしも地理を学んだ際に伺いませんでした。そもそもダイヤモンド原石なのかも自信がなくなってきました。ただのガラス玉かもしれません。」


 数日後、宝石商がたくさん箱を持ってきて鑑定結果の報告に来た。ドキドキ。


「まずこちらでございますが…」


 箱に透明の石がゴロゴロ入っている。ダイヤモンドだろうか?


「ガラスでございます。」

「そうですか…」

「そしてこちらが…」


 箱に赤い透明な石が入っている。ルビーだろうか?


「レッドスピネルでございます。」

「そうですか…」

「そしてこちらが…」


 箱に白い砂がたくさん入っている。何だろう?


「ダイヤモンドでございます。」

「まあ!…あ?」

「ダイヤモンドではございますが、質が悪いため研磨剤の用途でしか使えません。」

「そうですか…」


 がっかりだ。石柱君、君には失望したよ。

 もしダイヤモンドがごろごろ出てきたら、南の諸島がダイヤモンドの取り合いで騒ぎになっていたことだろう。


「そしてこちらが地竜の魔石でございます。」


 両手で抱えるほどの大きさの魔石が出てきた。普通は魔獣の魔力器官に入っている。


「石柱に入っていたのですか?」

「はい。これほどの大きさとなりますと扱った経験がございませんが、オークションにかければ金貨150枚程になるかと。」(※15億円)


 無人島と思っていたが地下に潜っていたんだろうか。静かに暮らしていたのに悪いことをしてしまった。≪鑑定≫アプレイザルを行使してみる。


“地竜の魔石”


 殺してしまったのは仕方ない。最後まで有効活用しよう。ルークに相談するかな。

 魔石以外は処分をお願いして鑑定費用を引いた分の差額を受け取った。



 ◆



 魔法学校のルークの研究室にて。

 ルークはまた机に向かって数式を書いている。≪大爆風≫モアブを見て何か新しい発見があったらしい。しばらくは待機だ。今のうちに調べものをしよう。


「ルーク。図書館に行ってきます。」

「ああ。」


 今までは返事もなかったのに、返事をしてもらえるようになった。心の余裕がある証拠だ。

 図書館に転移し司書さんに聞いてみる。


「魔法の保存に関する資料はありますか?」

「魔法を保存する資料はありませんが、羊皮紙に記述した魔法陣を使って魔法を再現することはできます。そのことでしょうか?」

「それって、目の前の魔法をそのまま記述として封印するようなことはできますか?」

「できませんねぇ。術式を魔法陣化して再現するだけです。」

≪複製≫コピーの魔法は、紙の内容を隣の紙に再現できますよね。紙以外を複製できないでしょうか。」


 そういえば、≪身体複製≫ボディコピーは実現できてるな。つまり紙以外の情報を紙に再現できれば…結局≪複製≫コピーの魔法の研究資料を借りた。術式にするための試行錯誤が記載されている。最近気づいたが、手書きの文書は【鑑定の奇跡】ハヴハナを使うと一瞬で読めることが判明した。

 ≪複製≫コピーの魔法の研究資料を鑑定して読了。返却する。


 研究資料によると、最初は両手で四角を作って、視覚を限定して目に焼き付け、それを魔力のインクを作成して記憶を頼りに吹き付けていたようだ。

 …ほう。記憶を頼りに吹き付けるか。記憶の再現は【治癒の奇跡】リプイでさんざんやってることだから得意だ。魔力のインクも今ならできる。水魔法を独学で再現しようとしてヌルヌルの液体ができた経験がここで役に立つ。研究室に戻って試してみよう。


 席に着き、紙を目の前に置いて、精神を集中する。【治癒の奇跡】リプイでやってることを再現してみる。手を描いてみる。1枚目は骨と軟骨。2枚目は筋肉。いい感じだ。3枚目は神経。4枚目は血管と血液、失敗した!机に魔力で作った血液が飛び散った。すぐに浄化する。リンパ管と脂肪をスキップして、5枚目に皮膚と爪。

 はじめから5枚目だけやればよかった。


 次に本題のマリアンヌ様のヌード。あの日のマリアンヌ様を思い描いて再現する。うーん。描けたことは描けたが、構図が悪いな。何枚か描いてみる。これをたくさん描けば動画になるな。おっぱいだけたくさん描いてパラパラ漫画にした。パラパラーと流すとおっぱいがゆっさゆっさ揺れた。これいくらで売れるかな。黒インクだけじゃなくて、色も付けてみる。


「アリシア、これはなんだ?」

「マリアンヌ様の美しさを永遠に残す魔法の研究です。まだいい構図が浮かばなくて…」

「本人は同意したのか?」

「きっと恥ずかしがるので勝手にやってます。」


 ルークはパラパラ漫画を見て苦笑している。


「俺はアリシアのが見たい。」

「え?」

「アリシアで頼む。」

「…恥ずかしいので結婚した後にしてください。」

「では、マリアンヌも結婚した後だ。」


 むう。フルカラーヌードグラビアの試作はお蔵入りになった。マリアンヌ様がおばあちゃんになったときに子供たちに見せてあげよう。忘れないように略式聖典に挟んで≪収納≫ボックスに入れた。


「ルークの研究は進んでいますか?」

「今は重力魔法の研究だ。重力による空間のゆがみを利用して最終的には時間魔法について研究するつもりだ。」

「時間魔法を使うための前提条件の重力魔法の研究ということですね。もしできたら訓練にも使えますし面白そうですね。これ、属性は何になるんでしょうか。火と土以外の属性ならお手伝いできるんですが。」

「重力魔法は土属性になるはずだ。」

「申し訳ございません、お役に立てなくて。」

「いいや、いつも十分役立っている。」

「そうだ。これ役に立ちますか?」


 地竜の魔石を取り出して渡す。ついでに聖銀ミスリルのかけらも渡す。


「これは?」

「魔石の方は石柱のなかに入っていました。無人島と思っていたのに、かわいそうなことをしてしまいました。聖銀ミスリルは魔法発表会の時の残骸です。」

「いいのか?とてつもない価値があるはずだが。」

「幸い地属性ですから私の代わりだと思ってこき使ってください。」

「助かる。ありがとう。」

「はい。」



 ◆ 王宮魔法士マリアンヌ視点



 ノクトレーン国で大津波が発生し大きな被害を受けたというニュースが流れてまいりました。

 大津波の速報から数日たって救援を要請する連絡が王宮に届きました。

 先遣隊として、わたくし含む新人王宮魔法士計10人と労働力として兵士100人が支援物資を持って急派することとなりました。事前情報では死者はすでに1000人を超え、行方不明者多数とのこと。


 ≪千里眼≫クレアボヤンスで王都の状況を確認しますと、港がある方は半分以上が瓦礫、死者がそのまま放置されていました。気分を悪くしつつもさらに状況を確認すると、所々で死者を野犬や魔獣たちが貪り食っています。海岸線に沿って視線を移すと、漁村や街が同様に壊滅しています。王都が壊滅的な被害を受けたことによって他の被災地に手が付けられない状態なのでしょう。


 ノクトレーン国の連絡員の話によると王都近くの峠頂上に陣を敷いてスタンピードに備えているとのこと。

 事前に連絡し、≪転移扉≫テレポートドアで陣の前まで移動しました。そこは首塚が築かれ血の匂いが充満する場所でした。


自然災害かみのみわざの責任を人に押し付けても意味はないでしょうに。」


 蛮族のような所業に気分を害しながら、つい口走ってしまいます。

 そもそもわたくしは諜報員がアリシアの暗殺を企てた件でノクトレーン国に対して良い印象がございません。

 なぜ我が国にも支援を頼んだのでしょう?恥を知らないのでしょうか?それとも一部の者しかあずかり知らぬ話でしょうか?

 そして今も、無作法にも≪鑑定≫アプレイザル、いいえ、≪全鑑定≫オールアプレイザルをいたるところから次々に放ってきます。無断で鑑定するのはこの国の常識だとしても、不快なので物理・魔法遮断の結界を展開しました。


 誰何すいかしてきた兵士にノクトレーン国からの救援依頼に応じて来た、エルネスタ王国の王宮魔法士のマリアンヌと名乗り、取次と通行許可を求めます。

 しばらくして諜報員のケルンとツヴァイが小走りで近づいてきました。二人とも上等な服を着ています。顔を見た瞬間にもう2層、害意を弾く結界と敵意を弾く結界を増やします。どちらもすり抜けたところを見ると、敵対の意思は無いようです。


「マリアンヌ殿、よくぞおいでくださいました。このたび国防大臣を拝命いたしました、ケルンと申します。」

「先日振りでございます。貴国の災害をお見舞い申し上げます。大臣就任早々災難でございましたね。」

「え?あっ!」

「先日はアリシア姫殿下の侍女として帯同しておりました。」

「こ、これは失礼を!」


 二人してひざまずいてきました。周囲の視線が痛いのでやめていただきたいのですが。


「先日は大変失礼致しました。謝罪してお詫び申し上げます。国王陛下もアリシア姫殿下にぜひ謝罪したいと申しております。そしてなにとぞ御寛恕のほどお願い申し上げます。」

「そのお言葉、アリシア姫殿下にお伝えします。だだし、お許しになるかどうかは姫殿下がお決めになることです。」


 一緒に来た同僚たちが困惑しています。こちらがいたたまれないので立ち上がるよう促します。

 なお、わたくしは許しませんが。


「本日は災害支援に参りました。そちらの仕事を優先させてください。」


 まずは災害のあらましを伺いました。


1.先日の魔法の練習から解散して間もなく、ノクトレーン国の海岸線全域が大津波に襲われた。


2.海にさらわれた人々を狙って魔獣が襲来。一部市民が魔獣を撃退してしまう。


3.スタンピードが発生。災害規模が国全体に拡大した。陸海両方から襲われる。


4.東方のジルタニア帝国からスタンピード制圧の名目で無断で侵入され、そのまま侵攻されつつある。


 わたくしが考えることではありませんが、このまま帝国に併呑されて助力を得たほうがいいと思います。

 あちらの帝国は出自の差別は無いが無能を許さぬとか。多くの貴族と国王陛下の首が飛ぶかもしれませんが国を守る礎となっていただくのが貴国のためです。


 大津波で大きな被害を受けたのはわかりますが、死者を放置するのは今後のためになりません。役割分担して、王都の掃除をすることになりました。


 王都城壁前に≪転移扉≫テレポートドアで移動しました。先日来た時と同じで門前の周囲は問題無さそうです。

 わたくしは即座に王都全体を覆う結界を展開し、浄化を行使しました。生き残りを探すべく王城に向かいましたが誰も残っていません。遺体の処理をお願いし、以降は怪我人の治療に専念します。


 進捗状況をエルネスタ王国王宮に報告して本日の任務は終了です。

 アリシアにも国王陛下が謝罪したいといっていると伝えました。

 各地の魔獣の対応もあるので人手が足りません。人手を増やしていただけるといいのですが。

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