第27話 聖女見習いは大魔法を放つ
ケルンに
離宮前にはロイド、そしてなぜかルークとマリアンヌ様。
「ルークもマリアンヌ様も、危険なのでお誘いしなかったのですが?」
「婚約者が危地に飛び込むのだ。同行しないはずがないだろう。」
「王子の婚約者が侍女を伴わずに行動するなどあり得ません。今日は侍女役です。マリアンヌとお呼びください。」
物理、魔法の結界を二つずつ四層で展開して、
集合場所には、ケルンと助手がすでにいた。
挨拶した後、ノクトレーン国方面にある無人の土地を目指すとだけ伝え、馬車に乗り込んだ。
車内はケルンと助手を前向きに、わたしとマリアンヌ様が後ろ向きに座る。馬車の天井にロイドとルークが乗り込んだ。
王族の扱いとは…
馬車が走り出した。馬車自体にも馬と御者を守るように結界を張る。
「護衛の方はいらっしゃらないのですか?」
「ええ、わたくしの醜態は見られたくないのです。ほほほ。」
「
「それよりも
「ええもちろんですとも。」
「現地で行使する前に、魔力量を確認させていただいてもよろしいでしょうか?場合によっては、こちらの助手(苦笑)のように倒れてしまいかねません。」
ここで魔法遮断の結界を解くのは憚られるのだけど、…マリアンヌ様と目配せして、わたしにかかっている結界をケルンの方向だけ弱めた。
「では失礼いたします。
即座に結界を強化する。ケルンの様子がおかしい。
「うっぐっ」
座席の下にある乗り物酔い用のバケツを素早く取り出して渡す。マリアンヌ様が一瞬わたしを睨んで恐い顔になった気がしたが、すぐにいつもの美しい顔に戻った。
「おっげぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「だ、大丈夫ですか?」
ケルンの脂汗が酷い。手足もがくがく震えている。助手も慌てている。安静が必要だ。
「はあ、はあ、失礼しました。申し訳ございません。どうやら乗り物酔いのようです。」
「
それぞれの国で秘匿している魔法がありそうだ。夢が広がる。
「
「魔力量だけなら
「では、私が鑑定いたします。
助手に向けて一時的に結界を弱める。
「うっ。」
助手も顔色が悪くなった。
「魔力量は十分だと存じますが、いかがでしょうか。」
「じゅ、十分です。」
「そうですか。安心いたしました。」
「す、すこし気分がよくなるまで外を眺めてよろしいでしょうか。」
「もちろん。」
車内は静かになった。バケツを浄化する。
移動中、ルークたちが捕まえた諜報員の集団が後方に見えた。結界の床の上で謎のダンスを踊っている。全員頭は真っ黒の玉。光と音、魔法を遮断する結界だ。棺桶型の結界に押し込まれて
『アリシア、マリアンヌ、ルークだ。返事はしなくていい。追跡している戦闘員はすべて拘束した。』
馬の休息用の空き地で停止して全員降りた。
馬車は
もう一枚
おそるおそる
「アリシア姫殿下、ここは?」
「南の無人島です。ここならば好きなだけ試せそうですね。では早速、
10層の属性強化を発動させる。1層1層が徐々に拡大され魔法陣がラッパ状に大きくなって発動する。
「思ったより規模が大きいですね。少し離れましょう。」
「「うわあぁああぁぁあぁ!!!!」」
全員を結界に乗せて空へ避難する。ケルンと助手は結界が見えないのだ。配慮が欠けていた。
「ケルン様大丈夫ですよ。いま、結界に乗っております。」
「アリシア姫殿下、やっぱりおかしいわ。術式のメモをお見せください。ケルン様もお持ちですか?」
二つの術式を見比べて納得したようだ。
「アリシア姫殿下、基礎となる魔法に対して属性強化を単純に重ねるのではなくて、属性強化後の魔法に対して属性強化する術式になっていますよ。」
本来は
M:魔力消費量
m:基礎消費量
n:属性強化回数
E:魔法エネルギー
M = m(n+1)
E = m・ln(10n+e)
の魔法が、アリシアが書き間違えて
M = m・2^n
E = m・(ln(10+e))^n
の術式が生み出されていた。
本来は基礎消費量100、魔力消費量1,100、魔法エネルギー463の大魔法が、アリシアのそれは基礎消費量10、魔力消費量1万強、魔法エネルギー11万を超える大魔法に変貌していたのである。
魔法の中心は突風で折れた木々も吸い込まれ、回転しながら圧縮されて真っ赤に燃え出した。そして、魔法の効果が終了し、風が収まった。その時!
ドーーーーーン!!!!!!!
耳をつんざく大爆発!!!
耳鳴りが収まり周囲を眺めると、空には白いキノコ雲が立ち上り、眼下の無人島は完全に消滅していた。
「木が吸い込まれて高圧と摩擦で発火し、海水も吸い込まれて高熱で一気に沸騰したようだな。ケルン殿、素晴らしい魔法だ。つまらない魔法と侮っていたことを謝罪する。」
ルークもロイドも絶賛だ。
「今度は限界までやってみますね。周囲に商船の姿なし。不審船発見。」
不審船に向かって飛んでいく。
「こんにちわー!皆さんは漁師の方ですか?」
「見てわからねぇのか!こちとら泣く子も黙るガイストクラッシャー一家だ!」
「そうですか。それでは。」
彼らに用はない。スイー
「待ちやがれ!」
「
少し離れた無人島を標的にして発動する。属性強化の魔法陣が17層までできた。魔法エネルギー7700万オーバー。天変地異を想像させるような巨大な竜巻が発生した。結界に乗って水平線に隠れるほど遠くまで離れる。
ドーーーーーーーーーン!!!!!!!!!
ここまで風圧が届く大爆発!
爆心地を見に行くと、キラキラ輝く石の柱ができていた。
「これはなんでしょう?透明な石がところどころ埋まってますね。」
「形はいびつですが鑑定によるとダイヤモンドの原石が埋まっていますね。」
「この一帯にダイヤモンド鉱脈があるんでしょうか。」
柱を
ケルンと助手にもおすそ分けした。
彼らをノクトレーン国王都前に送り届ける。
「本日は勉強になりました。新しい魔法は励みになります。今後もお互い切磋琢磨していきたいと存じます。大変ありがとうございました。」
笑顔で深々と頭を下げる。
「こ、こちらこそ。お役に立てて光栄に存じます。」
ダメだぞ?顔をヒクヒクさせちゃ。二人は王都へ早歩きで入っていった。
こちらもエルネスタ王国の離宮まで帰る。
◆
王宮の尋問室にて。
拘束した諜報員は80人に及んだ。一人一人
「そういえばロイド様はどんな魔法を用意してきたんですか?」
「今御覧に入れましょう。
「精神操作系の魔法ですか。耳が聞こえない人には使えるんですか?」
「使えますよ。この魔法は魔族が使う呪法に近いですからね。両
「呪法ということは浄化で消えるんでしょうか。」
「残念ながら消えますね。この魔法の存在を知っていればですが。」
「魔族も同じような呪法を持っているんでしょうか。」
「持っています。タルタ人を操っていた奴らがそうでした。」
「禁止された行為と矛盾する命令を受けた場合はどうなるでしょうか。」
「廃人になります。」
やり取りを聞いていたマリアンヌ様が渋い顔をする。
「今度からロイド様とあった後は毎回浄化します。」
「そうですね。今後は浄化を禁止することも条件に入れましょう。」
「え?」
「
「冗談ですよ。くくくく。」
せっかくだから
◆
この日、ノクトレーン国に大津波が到来した。死者・行方不明者3万人、海運の要衝として大きく発展したこの国家は、海沿いの多くの施設が破壊され大きく衰退し、併呑の道を歩むことになる。
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