第22話 第三王子は魔法を発表する
魔法発表会が1か月後に迫った日、発表会のエントリーが始まった。登壇者、魔法の概要、デモンストレーションに必要な設備、攻撃魔法の場合は影響範囲を申請する。第一部は発表会。魔法学校の大講義室にて実施される。第二部は攻撃系魔法のデモンストレーション。王都外の平原で実施する。デモンストレーションの当日は平民も城壁に登り、お祭り気分で攻撃系魔法を鑑賞する。近年では観客を楽しませるためだけに見た目重視の美しい魔法も競って開発されているそうだ。
ルークは転移魔法の改良版
また、発表会運営委員より、
強化系魔法の講師マックスが走ってきた。
研究室のドアをノックもせずにバーンと開け放つ。彼はいつも元気だ。
「ルーク講師!強化系魔法の発表は無いのですか!?」
彼はエントリーシートを見てきたようだ。
「何の話だ?」
「訓練場を光りながら走り回っていたあれですよ。」
「あれは強化系魔法ではない。回復系魔法だ。」
「回復系魔法…?」
「回復系魔法の副作用で疲労が取れるんだ。疲れることが無いからずっと走れる。特に強化はされない。」
「ですが、どう見ても強化されていましたよ?」
「短距離走をずっと走っていただけだ。重いものを持ち上げたりはできないはずだ。」
「よほど効率のいい魔法とお見受けしました。是非ご教授ください。」
「ふむ。実験としては良いか。」
その場で、ルークが体験した
マックスは強化系魔法の講師として、生徒の怪我に対応するため回復系魔法も習得している。回復系魔法としては特に効果が無さそうに見えた。だが、仕組みは理解できなくてもとにかくやってみる。やってみてから理解するタイプだ。理屈で考えない分行動が素早い。
「
「ありがとうございます!結果は追って報告します!」
ルークが発表内容をまとめていると、マックスが走って戻ってきた。
また研究室のドアをノックもせずにバーンと開け放つ。体が白く光って神々しさすらある。
「ノックぐらいしろ。」
「ルーク講師!すごい魔法ですよ!魔力切れになるまで疲労を感じませんでした!総魔力量も60増えました!」
「魔力消費があるのか。」
「疲労を回復するたびに1ずつ消費していたようです。」
「なるほど参考になった。そのうち魔力消費量を魔力回復量が上回るようになるから、続けたらいい。」
「ありがとうございます!」
以降、魔法学校の魔力増加法として定着することになるのだがそれは別のお話。
◆
魔法発表会当日。国中の魔法研究者や各国から魔法士が集まってきた。多くは陸路や海路を使ってやってくるが、中には
わたしは裏方でもあるから、会場に続々と入ってくる魔法士や魔法研究者達を眺めていた。これから発表されるルークの
ロイド率いる施療院のスタッフも会場に到着した。軽く挨拶するだけで着席する。ロイドも発表者としてエントリーしていた。王宮魔法士からもマリアンヌ様たちがやって来た。まだまだ下っ端なので勉強の方が多いそうだ。目が合って互いに笑顔になる。
司会者が登壇し、自身に
おお、とどよめきが上がった。
「みなさま長らくお待たせいたしました。これよりエルネスタ王国第11回魔法発表会を開催いたします。」
パチパチパチパチ。魔法学校長からの挨拶が始まった。長くて内容は…あまり憶えてない。その中で頭上に映し出される映像がどのような仕組みか説明があった。魔法士たちが懸命にメモしている。
第一部の発表会が始まった。
次々に新魔法が発表される。攻撃魔法以外はその場でデモンストレーションも行われる。
ロイドの番が来た。
「続きまして、ロイド・カーベルト殿。テーマは武装解除の魔法についてです。」
「弱体系魔法でおなじみロイドです。」
ドッと笑いが起こる。どうやら恒例のようだ。魔法士たちは真剣にメモを取る準備を始めた。
「本日は武装解除の魔法を開発してまいりました。犯罪者を殺さずに制圧するにはかなりの訓練を要します。相手が強力な武器を装備していたり、魔法を行使することもあるでしょう。その際に使用する魔法です。」
術式を書いた紙をスクリーンに映し出す。複雑な術式でも発表がスムーズに進む。いままでは板書していたそうだ。簡単に術式の解説を行い、デモンストレーションとしてフルプレートの兵士と魔法士が登壇してきた。
「
兵士の鎧と武器がバラバラになって落ち、そのまま拾えなくなった。どういう仕組みかさっぱりわからない。魔法士の口も封じられたようだ。無詠唱魔法が出来なければ完全に無力化できる。感心しながら眺めた。
興味を持った女性魔法士が自分にもかけてほしいと申し出てきた。
「
「…?っ………?!?!!!」
ビリビリッ!と服が弾けて全裸になった。何?このエロ魔法!彼女はその場で座り込み胸を隠して声にならない声をあげる。
「「うぉぉぉぉぉぉぉ!」」
魔法士たちが興奮して立ち上がり大喝采だ。拡大投影を止め、あわててカーテンを取り外して彼女を
みんな笑うけど、これすごいよね?あとで教えてもらおう。
マリアンヌ率いる女性王宮魔法士が
◆
しばらく
ルークの番が来た。
「続きまして、ルーク・エルネスタ殿。テーマは転移魔法の改良についてです。」
ルークが転移についておさらいしつつ説明する。
従来型の
それを防ぐためには無属性通信系魔法の
ルークは当初≪転移≫の確実性を高めるために、必要な魔力が足りなければ発動できない術式を考案した。また、安全性を高めるために≪転移≫前に≪千里眼≫が実行される術式も組み込んだ。当然ながら必要な魔力量は尋常でなく、国内でも魔力量が非常に多い方のルークでさえ一日一回が限度だった。
そのためアプローチを変えた。
便宜上“扉”と名付けてはいるが、実際には薄膜矩形の魔力壁、アリシアが言うところ長方形の結界である。扉に≪千里眼≫の映像が貼り付けてあり、行先を見ながら安心して移動できるという仕組みだ。
デモンストレーションを行う。
論壇の右端から左端へ転移、一度開いた
「魔力消費量は一人50未満。従来の十分の一で通過可能で、マステレポートの代用としても利用可能だ。」
評価はまずまずだ。転移でドヤっていた魔法士は渋い顔をしている。今後は転移が成功するだけでは自慢にもならなくなってしまうからだ。技術革新とはそういうものだ。あきらめてほしい。
発表が終わり拍手はあったものの、わたしとしては拍手喝采を浴びるだろうと予想していただけに期待外れだった。質疑応答も少なかった。ぐぬぬ。ロイドの魔法はスタンディングオベーションだったのに。やはり時代はエロスを求めているのか?
ルークと一緒にエントリーしたから次はわたしだ。
「続きまして、アリシア・タルタ殿。テーマは
紙に書いた術式を上の結界に映す。
「
目的と術式の解説をする。やはり男性の反応は薄いが女性の反応が良い。ハゲ治療に使えると知れば男性も前のめりに反応するはずだが、そこまでは説明しない。
デモンストレーションでは前回の公開実験で知りあった女性が母親を連れてきてくれた。彼女の顔の傷跡をきれいに治す。おお、と小さなどよめきが起こった。せっかくだからと目尻のしわと、ほうれい線、顔の皮膚全体を整える。調子に乗っていじった結果、見た目が20歳くらいにまで若返ってしまった。観覧していた壮年の女性が叫び声をあげて打ち震えている。施術を行った母親は自分の顔が見えないので不安そうな顔をしたが、手鏡をみたとたんあっけにとられ、自分の顔を指でつついたりして嘘じゃないことを確認している。「うつくしいわお母さま!」と娘も素で喜んだ。
「このように身体の構造に沿った回復をいたしますので、肌年齢を大幅に改善することも可能です。また、専門の施療院を開設いたしましたのでご相談いただければと思います。院長はあちらにいらっしゃるロイド様です。」
ついでに施療院の宣伝もごく自然にしておく。ふふふ、これでルーク様の研究費用も安泰だ。質疑応答は前回の商人相手のときと同様の内容だった。拍手を受けて降壇する。
ロイドの周りに壮年のお姉さま方がすさまじい勢いで突進していったのを眺めながら、王妃殿下がたの慧眼に改めて尊敬の念を覚えた。ロイドがスタッフを率いてそのまま退出していったのを苦笑しながら見送る。がんばってね。
暇そうなルークにロイドが応援を頼むような視線を投げかけていたが、無視してわたしの隣に避難してきた。裏方を手伝ってくれるそう。
その後も便利そうな魔法は紹介されたが、習得できない火と土属性だったのでスンとなる。攻撃系魔法も火か土の属性がベースとなっているものばかりで退屈になってきた。
「続きまして、ノクトレーン国ケルン殿、テーマは風属性の攻撃系魔法についてです。」
お?私でも習得できそうな属性の攻撃系魔法が来た!傾注する。
しかし、専門家たちの反応は悪い。柔らかい表現でいうと、失笑されている。
「え?なんで?」
ルークが静かに紙に数式を書いて渡してきた。
M = m(n+1)
E = m・ln(10n+e)
Mは魔力消費量、mは基礎消費量、nは多重化の回数、Eは出力されるエネルギーだ。(※lnは自然対数、eはネイピア数)
「(nが大きいほどEも大きくなりますよね?)」
「(nが1から2の間は有効だ。3まで有効とする学者もいるにはいる。だが4以上は非効率だ。発表の術式だと10。魔力消費量が11倍なのにエネルギーは4.6倍にしかならない。術式を覚えたての学生がやりそうな失敗だ。理論上は無限に増やせるが増やした分の利益はほとんどない。)」
そうなのかー。でももったいないからメモメモ。
アリシアは知らない。自分の術式のメモが間違っていることに。
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