第21話 聖女は真実を語る
アリシアは称号の件をおじいちゃんに
『おじいちゃん!神様から称号を授けられました!』
『おお、アリシアか。どんな称号じゃ?』
『癒しの聖女…』
『ほう。めでたい!見習いは卒業じゃな。』
『……は取り消されて、地獄の拷問官になりました。』
『…』
『…』
『何をしたんじゃ?』
『盗賊たちに訓練に付き合ってもらったからだと思います。だって、首を捕まえただけじゃ抵抗してくるから両腕を縛る訓練を。』
『立方体で囲めばよかったじゃろ。』
『だって、ケルディア王国の国境部隊と戦ってたおじいちゃんのやり方がかっこよくて…』
『それなら仕方ないのぅ。』
ちょっとだけ常識がずれている二人。
『それでそれで、マリアンヌ様が慈悲の聖女を授かりました。』
『追い越されたのぅ。』
『うん…』
『癒しの聖女ならば、多くの人を治療すればまた授かるじゃろう。』
『ほんと?』
『多分な。王都の結界を守り続ければ守護の聖女も授かるのではないか?もう2枚は張っておらんのじゃろ?』
『え?まだ張ってるけど。放っておいたら30人以上死んでた。』
『それも原因じゃ!間者が帰って来んからさらに派遣されたんじゃ。1枚にせい!』
『は、はい!』
王都の結界を1枚にする。
そうこうするうちに帰ってきたマリアンヌ様とロイドに状況を報告した。
マリアンヌ様にも「王家の依頼を放りだすとは何事ですか。」と叱られたアリシアであった。
◆ 王宮魔法士マリアンヌ視点
ローウェル子爵領都にて。
「ご無礼をお許しください。慈悲の聖女マリアンヌ様。私はこの地を任されております神殿長のパウロと申します。」
「「え?」」
「わたくしは聖女ではありません。」
「何をおっしゃる!神より授かった称号があるではありませんか!」
聖女というのは、奇跡を通して神の威光を知らしめ、民を導き、約束の地へ誘う存在とされています。
神からその在り方が認められた際に授けられれ、一つの世代のうち一人か二人しか現れない存在と書物に記されていました。
聖女の威光は世界にとどろき、聖女はアメス信仰の象徴とされています。女神官が聖女見習いと名乗るのは全員が聖女たらんと目指すためです。
わたくしはそのようなこと身に覚えがございません。信仰に傾倒したことは無く、アリシアのように聖句を暗唱して朝のお祈りの真似事をしていただけです。
アリシアもわたくしを鑑定しました。
"称号:慈悲の聖女"
"汝の慈悲により多くの魂を救ったゆえ、この称号を授ける"
魂を救った覚えなどございません!アリシアのあまりのやりように苦言を呈したことはございますが。
「あああああああああ!!!」
アリシアが膝をつきました。"地獄の拷問官" は…まあ、はい。
途中からは練習ではなくて絶望に歪む盗賊の顔を見て嗤っていましたからね。
「マリアンヌ様!申し訳ありませんが、王都の結界に引っかかっている者たちを救出しなければなりません。後はお任せします!」
「待ってアリシア!国王陛下のご命令が優先よ!」
わたくしの制止も聞かずにアリシアは
「…と、とりあえずパウロ様、跪くのはおやめください。先触れの通りグレゴリー・ローウェル子爵にお会いしたいのですが。」
「はっ、
領主館に着くまでに、パウロが養子に至った経緯を教えてもらう。
パウロは以前から奇跡を扱うことで領主に信頼されていたようだ。神殿長に就任する前から領主の移動のお供をし、護衛役をしていた。その関係で先代神殿長が亡くなった時に交代で就任することになったそうだ。
状況が変わったのは領主の馬車が盗賊に襲われてから。
街への盗賊の襲撃を恐れたグレゴリーが結界の強化を依頼してきた。そのため可能な限り厳しい条件で街を守ることにした。
ある日、長女レイラが街に入れなくなったことから反逆の意思ありと判断。領主自ら取り調べを行った。
そのうち留学から帰ってきた二女ソフィアや、使用人の何人か、一部の町民までもが街へ侵入を阻まれ、証拠は無いが罪人として追放となった。
二女はその後も侵入を試みたらしい。結局捕まり鞭打ちの刑となったそうだ。
グレゴリーは自分の実子に失望し、パウロが養子に迎えられることになった。
危険人物を排除したことで商人が集まるようになり領地経営も上向くようになった。いまでは結界こそが領地の繁栄を担っているとのことだ。
「ところで、聖女マリアンヌ様、なぜ結界を破るような真似を?」
「この結界は魔獣、魔族を遮断。それから領主を悪意のあるものから防ぐものですよね?」
「ええそうです。」
「結界用語でいう悪意の意味をご存じですか?」
「意味?対象を攻撃する意思がある人物を排除するのですよね?」
「やはりご存じないようですね。結界用語でいう悪意は、負の感情の侵入を防ぎます。喧嘩や商売敵も対象です。単なる親子喧嘩でも悪意の対象に入るのですよ。明確な攻撃の意思があるなら害意を指定します。税を徴収されても負の感情は発生するのですよ。」
「では、レイラは?」
「親子喧嘩で飛び出した後、遠出から帰った直後に入れなくなったと。」
「反逆の意思は無かったと?」
「ございません。レイラ様はただの親子喧嘩程度で反逆まで計画するような人物だったのですか?」
「……ではソフィアや使用人は…」
「領主様がレイラ様へ拷問を行ったことを知って、入れなくなったのです。今回のように貴方が鑑定を行っていれば誤解は解けたはずです。」
「…」
領主館へ着いた。
「パウロ!その女は大丈夫なのか!?」
「お初にお目にかかります。王宮魔法士のマリアンヌと申します。本日は国王陛下から盗賊討伐の件でご報告と領地の結界の問題についてご説明に上がりました。」
「
元使用人のイクター率いる盗賊からアリシアが救った貴族の馬車に二人が乗っていたとのこと。わたくしも参加していたことを思い出してくださったようです。話ができるようになって一安心です。
まずは結界の問題についてパウロに説明したのと同様に領主様へ伝えました。レイラ様、そして、ソフィア様や使用人たちまでもが街に入れなくなったことも。
「そんな…」
「領主様自身を守りたいのでしたら、領主館に害意を防ぐ結界を施すのがよろしいでしょう。」
「そのように致します。」
パウロが頷いて結界を張りなおしました。
当主グレゴリーの進退については王家と話し合いになりますが、おそらく引退となり、長女のレイラ様が婿を取って領主になるでしょう。パウロは廃嫡となり、神殿長職も後任が決まり次第辞任し神官に戻ることとなりました。
領主館を出た帰り、パウロが再度跪きました。
「聖女様。王都で神官を募集しているとのこと。私も王都へ伺い、ぜひ聖女様の従者をやらせていただけないでしょうか。」
「王都へ来ていただくのは構いませんが、わたくしの従者はすでにおりますので。」
辞退して置いて帰ります。
神官との戦闘を期待していたロイド様は不満そうです。
「せっかく神官と戦う準備をしてきたのに残念です。腹いせに施療院の宣伝をしてまいります。」
「わたくしは先に戻りますよ?」
「はい。私も
うまくいけば商人を通じて施療院の情報が外国まで届きそうですね。
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