第11話 聖女見習いは洗礼する
王家が主催する死者の
返還対象は財布、宝飾品、武具、服。手数料として査定額の2割を徴収する。引き取り手がいない場合は王家が処分する。
また、死者の≪収納≫の回収方法については秘匿とし、今回は実験中の偶然によるもので私利私欲による着服の意図が無かったことを強くアピールする。
情報伝達の期間と人員の移動期間、そして手続きの繁忙性を考慮して3年間の配布期間を設けられた。
手続き日はアリシアの魔法学校の都合が配慮され週に一度に設定されたが、実質的にアリシアは3年間休暇なしになったことになる。別途神官を招集する計画はあるが、神官の貴族に対する印象は悪いのでどのくらい集まるか不透明である。
なお、外国の機密文書を入手したことは王室と一部文官の秘密だ。自国に関係ない文書は "手続き上のミス" として禁書庫に死蔵する。
んだそうです。
◆
魔法の授業が始まってから10日が経った。
授業のシステムとしては1ルーム5人制で行われる。少人数での授業のためついていけない生徒のフォローが早い。その分講師も多い。魔法学校そのものも主な就職先の一つとして数えられるレベルだ。
受けたい授業を見つけたら履修登録を行う。履修登録は、授業枠が羅列されているコンソールに学生証の角をタッチする仕組みだ。枠は5人なので競争だ。人気講師の授業は枠が開くと一瞬で埋まってしまう。
「あ、またダメでした。」
2人空いていたので急いで登録したが、マリアンヌ様は枠に入れたがわたしは入れなかった。わたしは基礎知識が不足しているため、マリアンヌ様と一緒に授業を受けるつもりだが、枠が開かずにばらばらになることが多かった。最近こんなことが多い。
入学から10日も経過していないのに、すでに問題が起こっていた。
マリアンヌ様の容姿は誰もが振り返るようなプラチナブロンドと美貌に加え、プロポーションもなかなかだ。物腰も貴族令嬢らしく上品であり、声もおとなしそうだ。アリシアは一か月もマリアンヌ様と顔を合わせていたから慣れてしまっていたため油断した。
ある生徒は履修登録中に見つけたマリアンヌ様に目をつけ、学生証を見て目ざとく名前を確認する。マリアンヌ様が履修登録でタッチした授業をそのまま別のコンソールでトレースする。
同じことを考えた生徒同士で全力早押しバトルが発生していたのだ。
「やあ、君もこの授業を?通信魔法は難しいからボクが教えるよ。
「わたくしは自宅と練習しますので。」
「家の専属通信員は緊急連絡用だよ。練習で使っては重要な連絡を逃してしまうかも。家に迷惑はかけられないだろう?」
「自宅には通信員が二人おりますので。」
「ねね、そんなこと言わずに。」
こんなかんじで移動中でも授業中でもナンパされるのは日常茶飯事。魔法を教えてくれるという体でセクハラまがいの行為を受ける事件も起こっていた。
◇
ルーク様の研究室にて。
入学当日から毎日通っている。すでに
(※マリアンヌ様は運動場で全開走行中。)
「・・・てことがあったんですよ。何かいい方法はないでしょうか。」
「ふむ。闇属性にいい魔法があるが、彼女の魔力量では維持が難しいだろうな。」
「どんな魔法ですか?」
「闇属性の
「マリアンヌ様は昨日の時点で1800になりましたよ。」
「なに?」
「っと、今日のノルマ10,000回終わりました!」
「
「ルーク様、マリアンヌ様に魔法を教えてください!」
「いいぞ。連れておいで。」
「はい!」
すぐに転移しマリアンヌ様を連れて転移で戻る。
「ルーク殿下。お手数をお掛けして申し訳ございません。よい魔法を教えていただけるとのことで。」
「教える前に鑑定するぞ。」
「はい。」
「≪鑑定≫。確かに。今は2003まで上がっているな。魔法を教えるから魔力増加法を教えてくれ。」
「魔力増加法はわたしからお伝えします。」
闇属性の
≪気配感知≫は≪気配遮断≫習得の前提の魔法だ。≪気配遮断≫を習得すれば≪変身≫、≪変声≫は魔力量さえあればすぐに習得できる。
「戦闘用だが犯罪にも使えるから悪用しないように。」
マリアンヌ様のセンスは卓越している。魔法理論を理解したら術式を問題なく行使できた。アリシアは≪気配感知≫に相当する奇跡を習得していないから、理解が追い付かず早速脱落して見学席だ。正式な講義を受ける必要がある。
「では魔力増加法を教えてくれ。」
「
「
「
「なにやら世界の不具合を見ているようだな。
「習得には奇跡を体感するのが早いですね。まずは結界が見えるところまでやりましょう。」
マリアンヌ様は教えてもらう前から結界が見えるようになったため、どんな教え方をするのか興味津々である。
両手を広げてルーク様に向いた。
「はい。どうぞ。」
「え?」
「は?」
「これが一番早いんです。どうぞ。」
「こうか?」
「あ、いえ、頭を私の胸に。はい。」
抱き合うような恰好から、ルーク様は両膝をつき、ルークの頭を抱きしめる。
「【神神に感謝すべきかな。あなたは罪の
身体から発された光がルーク様に染み込んでいく。ルーク様が涙を流し始めた。マリアンヌ様が驚いている。ルーク様が嗚咽しながら号泣するのをよしよしと優しく抱きしめる。
「これは…」
「
指の上に正方形の結界を作ってみせる。
「ああ、見える。ありがとう、アリシア。神の慈愛というものがあるのならまさにそれだと感じた。何やら生まれ変わった気分だ。だが恥しいところを見せたな。」
「本来は子供がやる儀式ですからね。」
くすくす笑いあう。二人は抱きしめあったままである。
マリアンヌ様がぷるぷるしながらつぶやく。
「ふ、不埒な行為は…」
「さあ、本番の
聖句を書き込むとルークは暗記を始める。2度3度と聖句を繰り返して、すぐに発動させた。
おもむろに指に針を刺し、状態を観察する。指の針跡から膨らんだ血が大きくなった。
「む?全く治らないぞ?」
「本来は聖句を唱えている間に、具体的にどのように回復するのか想像しながら発動させるのです。今回は発動時になにも想像していなかったから治らないのです。」
再度詠唱する。指の血を拭く。今度は正常に回復したようだ。
「なるほど。
魔力増加法の仕組みを分析するルーク様。
「あれ?常時発動の場合は1回だけではないでしょうか。」
「いや、意識のできない細かい時間に連続して発動しているのかもしれない。」
「少し走ってくる。」
「お供します。」
授業一コマ分走り切ったあと、
「あ!すみません。忘れていました。
「アリシアも洗礼を受けたのか。」
「はい。祖父に。」
「わたくしにも洗礼をお願い致します!」ドゴォ!
「ぐえ」
マリアンヌ様が突進して胸に飛び込んできた。
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