第10話 第三王子は家族会議に出席する

 神から返還された遺品の整理は継続だ。

 とりあえず武具は何とかなった。紋章がある武具はその貴族家へ、不明なものは衛兵の予備武器とする。


「遺品といえど土砂と日用品を欲しがる遺族はいないだろう。捨てろ。」

「そうします。埋立地かどこかあればいいのですが…」

≪転移≫テレポートの拠点づくりのために旅行に行くか?どこかの領地に捨て場が見つかるだろう。」

「いいですね!」


 ルーク様とわたしは、すでに新婚旅行気分である。マリアンヌ様は不満顔だ。出会ってまだひと月とはいえ、恋人を取られた気分だ。


「遺族が欲しがらないというなら、水、食料、調味料もそうだな。」

「はい。」

「木材はオリエンス子爵領の復興に使う。」

「水、食料、調味料も必要なら供出しましょう。それから道具も。」

「そうだな。」


 マリアンヌ様は不満顔だ。


「衣類は同じものが多いそうだな。」

「おそらく商品なのだと思います。」

「商業ギルドに査定させ買い取らせよう。一品物は遺品として扱う。」

「はい。」

「魔法学校には退学者を含め取得した魔法の情報が集まっている。≪収納≫ボックス習得済みで亡くなった人物を洗えばかなり絞れるはずだ。」

「なるほど!」


 マリアンヌは超不満顔だ。頬が膨らんできた。


「鉱石と魔物の素材や死骸は学校で買い取る。」

「書類は王宮の文官に精査させて、商業ギルドや各領地へ送らせる。」

「馬車は紋章が無かったな。これも商業ギルドへ引き取らせよう。」

「はい。」


 マリアンヌは超不満顔だ。爆発しそうだ。


「宝飾品は遺品として欲しがる遺族が多そうだが、詐欺師も呼び込みかねん。商業ギルドに処分させよう。」

「詐欺師なら【鑑定の奇跡】ハヴハナでわかりますよ?」

「その手があったか。広く布告して王都に呼び集めよう。ついでに詐欺師連中を一網打尽にできる。負担が大きいが頼めるか?」

「この程度なら全く問題ありません。」

「残るはかねだが、手数料として貰っていいのでは?」

「駄目ですよ!着服するくらいならどこかへ寄付します!」

「ふむ。財布は宝飾品と同じ扱いにしよう。財布に入っていないものと商業ギルドで査定された金は、各領地の孤児院にでも分配しよう。各地で直接渡せば着服されることもない。」

「いいお考えです。すごい!わたし一人では処理に何年かかるかわかりませんでした。」

「そんなことは無い。アリシアが協力してくれたからだ。」

「もったいないお言葉です。」


「あははは」「えへへへ」と二人の世界だ。


「アリシア!魔力を増やす特訓をしましょう!」

「あ、はい。ルーク様、お名残り惜しいですがまた魔法を教えてください。」

「ああ、明日から本格的に実験だ。後の手続きは任せておけ。」


 このままだといつまでたっても離れそうになかったので、マリアンヌは手を引っ張ってわたしを連行していく。


「魔力を増やす特訓はどうやるのですか?」

「簡単です。走りながら【治癒の奇跡】リプイを使い続けるんです。まずは【治癒の奇跡】リプイを習得しましょう。」

【治癒の奇跡】リプイは使ったことがありませんが、聖句は知っています。【主は心の打ち砕かれた者をいやし彼らの傷を包む。天はとこしえに慈しみが備えられ、あなたのまことがそこに立てられますように。病も傷もことごとく治癒せよ。治癒の奇跡リプイ】」

「さすがです、マリアンヌ様。そのまま効果を永続化させてください。【治癒の奇跡】は怪我がなければ魔力消費しません。ですが走り続けると疲れるでしょう?【治癒の奇跡】は魔力消費無しで疲れが取れるんです。」

「つまり、魔力を消費せずに魔力を使えるから、効率的に増やせるということですか?」

「ご明察です。」


 運動場にやってきた。主に≪筋力強化≫パワーの訓練で使用するため、施設は一面砂になっており、≪筋力強化≫に不慣れな者が怪我をせずに制御を学ぶことができる。二人で外周をひたすら走る。マリアンヌ様が慣れてくればどんどんペースを上げていった。

 走りながら雑談する。マリアンヌ様が急に真剣な顔になった。


「アリシア、あまりルーク殿下を信用してはいけませんよ。」

「え?唐突になんですか?」

「わたくしも魔法に精通しているわけではありませんが、≪収納≫ボックスの使用者が亡くなって中身が永久に取り出せなくなったのを取り出せた。というのは大変な功績だと思います。それをルーク殿下がご自身の功績として紹介なさったのですよ。わたくし納得いかなくて。」

「わたしはルーク様にお返しが出来てうれしいですよ?授業でもないのに魔法を教えてくださって。それに、遺品の処理はわたし一人では到底できませんでした。本来なら手数料を払ってお願いすることだと思うんです。それなのに、遺品のお金は手数料としていただこうとしたのをわたしが反対してしまって。ルーク様は快く受け入れてくださったんですから。」

「んもう。お返しは研究に協力したら十分ですのに。」


 しばらく走った後、憶えた≪鑑定≫を使ってみる。マリアンヌ様は 84/150 となっていた。


「あっ、マリアンヌ様、改良型が試せる魔力量になりましたよ!この調子で3カ月間毎日走れば一万にも届きそうです。」

「本当に増えるのね。魔力量が足りないから帰っていいと言われた時は少しショックでしたの。うれしいわ。」

「明日からは真面目に走る格好でやりましょう。もっと効率あがりますよ。」

「そうね。」


 マリアンヌの機嫌が直ったようだ。



 ◆ エルネスタ王国第一王子エルネスタ視点



 あらかじめ予期していた通り、魔法学校の入学試験でアリシア姫が騒動を起こしたらしい。

 弟の第三王子ルークもかかわっているということで緊急家族会議となった。


 いつもの執務室には国王陛下である父上、宰相アルブレヒト翁、私、ルーク、母上であるシャルロッテ第一王妃がいる。

 効率を重んじるルークがいるので簡単に議題を書いた。


1. アリシア姫の魔力量

2. ルークとアリシア姫の婚約

3. 死者の≪収納≫ボックスが返還された経緯

4. 遺品の返還会



1. アリシア姫の魔力量について


 ルークが簡潔に説明する。


「アリシアの総魔力量は約120万だ。最大出力は計測不能、持続時間も計測不能だった。少なくとも工事用の鉄球10個(※40t)を持ち上げて、魔力消費量より魔力回復量の方が上回っている。本人が言うには何カ月でも持ち上げられるとのことだ。適性は無属性のみ。火と土は取得不可だ。」

「入城の際にも報告があったが120万など、さらに増えたようだ。確かなのか?ルークはかなり魔法を使っていたな?今どれくらいなのだ?」

「俺も≪鑑定≫したから間違いない。俺は4,230だ。」


 4,000超でも王宮魔法士と比べても非常に高い部類なのにありえない。私はあまり魔法を使わないので250程度だ。


「もう一人の新入生はたったの42だった。アリシアは効率の良い魔力増加法を知っているようで、そやつに教えるそうだ。」

「その新入生とやらは誰なのだ?」

「わからん。」


 ルークよ。おまえは興味のない人物は全く覚えないな。兄は悲しいぞ。

 私がフォローする。


「おそらくマリアンヌ嬢かと。アリシア姫と仲は良かったのだろう?」

「そうだな。」

「120万になるほどだ。才能もあるだろうが血反吐を吐くような努力をしたに違いない。」

「効率的な魔力増加法があるなら知りたいところだな。」


 母上は「ルークが他人の名前を憶えた!」と呟いて非常に喜んでいる。条件が低すぎるぞ母上。



2. ルークとアリシア姫の婚約について


「アリシアは俺にとってこれ以上ない相手だ。研究に十分以上の魔力、積極的な姿勢、俺の研究を全肯定する度量。俺の研究生活をサポートできる技能。」


 ルークが自信満々に言う。弟よ、研究以外のことで評価する項目は無いのか?まあ、私も婚姻を結ぶとなると政略結婚になる。国の利益重視になるから他人のことは言えんが。


「それに俺にはない倫理観がある。遺品を遺族に返すと言い出したのはアリシアだ。俺ならすべて売り払って研究資金にする。人として尊敬できる。」


 宰相も目を丸くしている。第五王子のカリーニンからの情報で脳筋認定していたが評価を改めるべきかもしれない。

 母上は「とてもいい娘なのね?」と喜んでいる。そこは自分の利益も考えるべきだろう。


「はじめは結婚すると言っていたが、婚約にトーンダウンしたのはなぜだ?」

「もう一人の新入生が猛反対したからだ。」

「普通は王族との婚姻は祝福すべきところだろう?なぜだ?」

「わからん。もう少し時間をかけて検討しろと言っていた気がする。」

「まさか、マリアンヌ嬢もルークを狙っているのか?だからそのように反対を。」


 母上は「あら♪ライバルもいるのね。ルークはモテモテね♪」上機嫌だ。いつもの母上じゃない。

 どうやら王家として婚姻を認める方向で進むようだ。



3. 死者の≪収納≫ボックスが返還された経緯について


「どうやってロストした≪収納≫が返還される事態になったのだ?」

「アリシアいうには、≪収納≫の術式は神の庭を間借りして行使するそうだ。神に無断で使用するのは躊躇われたので、神に伺いを立てた。」

「神から回答はあったのか?」

「自由に使ってよいと。それから、持ち主がいない物を渡すと。」

「その結果、ロストした≪収納≫が返還されたのか。」


 虚数軸上に仮想の箱を作る術式と習ったはずだが。そこが神の領域なのか?大量の武具と宝飾品を見る限り、神から返還されたのは間違いないようだが。


「今後も返還されるのか?」

「実験しないとわからんな。神の気まぐれの可能性もある。他の神官に≪収納≫を習得させて比較する必要がありそうだ。ただ、アリシアが言うには、神は遺品を遺族に渡すと信頼されたものに預けた、そうだ。誰でも成功するとは思えん。」


 母上は「あら、神に信頼されるなんてアリシア姫はどんな娘かしら?」楽しそうだ。久しぶりに赤の他人に興味を持った母上を見た。間違いなくルークの母親だ。



4. 遺品の返還会について


 死者の≪収納≫が返還された事実を公表し、財布、宝飾品、一品物の服、一部武具を遺族に返還することになった。


「遺品の返還会には詐欺師も多くやってくると思われる。これらを【鑑定の奇跡】ハヴハナで処理する。」

「さすがにうまくいくとは思えません。人数が多すぎてアリシア姫の負担が大きすぎるのでは?」

「アリシアはそれでもやるつもりだ。」

「歴史的に王家が神官と組んで【鑑定の奇跡】ハヴハナを武器にした例は魔王討伐以降無い。神官を使っていると悟られぬように工夫すればかなり集まるのではないか?」

「詐欺師が一人死ねば、百人は騙されずに済むだろう。」

「それよりも、外国からも問い合わせが来るのではないか?」

「入国前に遺品の形状や特徴を説明させれば無駄足にならずに済むのでは?」

「国内、国外にかかわらず、遺品希望者には実物を見せる前に説明させれば良いのでは?」


 母上は「ルークが研究以外に興味を持ってるわ。アリシア姫のために頑張るのね?」すごく上機嫌だ。私のことでここまで喜んでくれるだろうか。少しだけ嫉妬した。

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