第9話 聖女見習いは魔法を使う
魔法学校の受験日がやってきた。
受験会場に向かう途中で掲示板を見かけた。学校の掲示板には求人票が所狭しと掲載されていた。
通信員募集。
救急隊員募集。
土木作業員募集。土魔法、強化魔法
魔法を習得するだけで高収入だ。テンション爆上がりだ。みんななんで魔法学校に来ないんだろう?
「高収入ということはそれだけ魔法習得が困難ということです。」
「うっ、せめて
受験会場は100人ほどの受験者がいた。小さな男の子から壮年のおねえさんまでいた。一度退学しても学費さえ払えば再度入学できるから、新しい魔法が出来たら再度入学して学ぶことができる。ちなみに学費は魔力量に依存する。最高で金貨一枚(※一千万円)だ。
わたしとマリアンヌ様は一緒に受験する。といっても鑑定、適性検査、魔力量検査を受けるだけだ。
素行が悪くなければだれでも入学できるそうなので気楽だ。そんなことよりも旅に便利そうな魔法にどんなものがあるか興味がある。
鑑定。マリアンヌ様は特に何もなかったが、わたしに
適性検査。光闇火水土風無の七属性の魔力を手に照射することで共鳴の有無を調べる。共鳴すると適性あり。共鳴しないと適性なし。減衰すると習得不可。
魔法の習得には適性がある方が有利だ。また、減衰すると魔法習得が不可能になるが、デメリットだけではない。減衰する属性の攻撃魔法を受けてもダメージが少ないというメリットがある。
マリアンヌは奇跡を簡単に習得できたことからなんとなく予想がついていたが、すべての属性で適性があった。卒業できる見込みがある。
わたしは無属性の適性があった。がそれ以外は適性が無かった。しかも火属性と土属性は取得不可だった。この時点で卒業できないことが確定した。
学校に来て目を付けていた
それでも、通信魔法は一緒に取ろうねと二人で話し合う。
魔力量検査。≪鑑定≫で総魔力量はわかるのだが、瞬間最大出力と持続力についてはわからない。この検査はバケツ大の鉄の円柱(※100kg)のおもりを魔力で持ち上げることで調べる。検査場はトイレの近く。魔力枯渇を起こして嘔吐する者が多いからだ。バケツもたくさん用意されていた。この検査は入学する生徒に自分の限界を理解させる目的も含まれている。
マリアンヌ様は1個は持ち上げられたが、2個は持ち上げられなかった。1個を4分間持ち上げてトイレに駆け込んでいった。魔力は使えば使うほど伸びますよと指導されていたようだ。
わたしは不正になると思ってワンドを使わなかったが、初めは魔力で持ち上げる感覚がつかめなくて1個も持ち上げられなかった。なのでしれっと結界で持ち上げた。不正をしているかどうか自分でもわからない。まあ、自分の魔力で持ち上げている事実は変わらない。結界で持ち上げるのを見て、マリアンヌ様が「その手がありましたのね」と小さく感心している。
出力の上限が判明しなかったので、訓練用の鉄球(※4t)が用意された。それも難なく持ち上げる。あ、これ工事で神殿を壊した時に使ったやつだ。
強化魔法の講師が呼ばれ、訓練用の鉄球を10個も追加で用意された。もちろん全部まとめて持ち上げた。
とりあえず、このまま持続時間を計測するのだが一向に終わらない。この状況でも魔力消費量より魔力回復量の方が多いことが判明して試験は終了となった。
結論としては、マリアンヌは属性適性が高いためそれぞれの魔法の習得が容易である。むしろ魔力量を増やす授業を優先する。アリシアは適性は低いが莫大な魔力量に任せれば習得に支障はない。ということだった。ついでに学費は免除になった。思わずガッツポーズ。
魔力量検査の騒ぎを見ていた講師の一人が声をかけてきた。何日も風呂に入ってなさそうな服の上に白衣とぼさぼさ頭の姿の若い男だ。私とそんなに年は変わらないと思う。
「そこの新入生、空間系魔法講師のルークだ。その魔力量を見込んで仕事がある。うちの研究室に協力しろ。」
「はい!よろこんで!」
空間系魔法!
マリアンヌ様は物言いと姿と何かに気付いて当惑していたようだが、研究に協力したら優先的に魔法を教えてもらえるかもしれない。即座に了承した。
「待ちなさい、アリシア。内容も聞かずに了承してはだめよ。」
「あ、そうですね。空間系魔法の先生。どんな研究ですか?
研究内容を聞き出すより、習得予定の魔法の妄想が漏れ出てしまった。
「空間系魔法に興味があるんだな。よろしい。虚数軸空間内に自分の部屋を作る魔法はすでにある。
「す、すごい。ぜひ協力させてください!」
「落ち着いて。まだ研究内容は伺っていないわ。」
「研究内容は≪転移≫の魔力消費量の削減だ。≪転移≫は現状実用的でないため魔法があるのにほとんど使用されていない。先日のスタンピードは知っているか?もし大量の物資や人員を≪転移≫で運ぶことが出来れば、被害は抑えられたはずだ。現状の≪転移≫は魔法使用者が行ったことが無い場所には行けないし、鎧などの重い物はその場に取り残されてしまう。魔力量が少ないと全裸で≪転移≫することもあるのだ。ゆえに実用的ではない。これを改良したら自由に移動できるようになるぞ。」
すごい勢いで語りだす先生。それをシイタケの目になって傾聴する。
「素敵なお考えです。ぜひ協力させてください!先生!」
「よろしい。研究室へついてこい。」
「はい!」
「…」
マリアンヌ様はわたしを心配してついてきた。
いくつか棟を通り過ぎ、無属性研究棟の一角にある研究室にたどり着いた。研究室はひどく雑然としていてゴミが所々に放置してある。
「いったん清掃してもいいですか?」
「ああ、少し待て。」
先生は床に散らばっている資料を
「いいぞ。」
「
ごく自然に
「新入生。名は何という?」
「アリシアと申します。先生のお名前をうかがっても?」
「ルークだ。アリシア、俺の妻になれ。」
「はい。ルーク様。」
「待って。アリシア、待って。お互いのことを良く知ってからでも遅くないでしょう?」
「え?この方より素晴らしい方は二度と現れませんよ?」
「ルーク殿下も良くご検討ください。」
「私の研究を全肯定してくれる女性は二度と現れんぞ?」
「お互い本気でそう思っているのはわかりました。ですが、いったん落ち着きましょう。ね?国王陛下とご相談なさった方が良いのではないかと愚考いたしますが?」
この時マリアンヌ様は “ルーク殿下” という表現を使ってアリシアに対応に気を付けてほしいと暗に伝えたかったそうたが通じなかった。
ルーク様は
『ルークだ。アリシアと結婚する。許可を。』
『…』
「アリシア、おまえはタルタ人の王女で間違いないか?」
「はい。身分上はそうなっています。」
『ルークだ。そのアリシアで間違いない。相手も了承した。』
『…』
「国王陛下の許可を得たぞ。」
「ルーク様素敵です。」
「速すぎです!」
その後、マリアンヌの必死の説得により結婚ではなく婚約という形になった。アリシアも一時の気の迷いだ。明日になれば冷静になるだろう。マリアンヌはそう思った。
「話がそれてしまったが、実験するにあたっていくつか魔法を習得してもらう必要がある。
「≪収納≫はわかりますが、≪鑑定≫は一人が使えればよいのではないでしょうか?」
「魔力消費量に個人差があるらしく、最低二人は必要なのだ。俺に≪鑑定≫を使ってもらいたい。」
「あ、わたしは
「
マリアンヌが
「では先に光属性の
ルーク様は≪鑑定≫の仕組みを、研究室にある黒板に書きながら事細かに説明していく。マリアンヌ様は領地の学校で学んだ予備知識があるためすぐに理解できた。わたしは細かいところは理解できなかったが要するに【鑑定の奇跡】の機能限定版だと理解した。たしかにこちらの方が魔力消費量は少ない。術式さえ暗記すれば魔力を通すだけで発動する。
目の前の机で≪鑑定≫を繰り返して二人はすぐに使用できるようになった。マリアンヌは適性が高いのと教育レベルの高さゆえ。わたしは【鑑定の奇跡】の経験があるゆえ。
魔力残量を確認するためにお互いを≪鑑定≫する。
マリアンヌ様の残量は 15/42、まだ魔力量検査から回復しきっていないようだ。
わたしを鑑定したときマリアンヌ様がビクッとした。不審に思ったルーク様も鑑定してみる。
1,208,552/1,208,552 大容量なのは知っていたが桁が違う。実績の欄も異常事態だ。
『キラーホーネットを
『キラーホーネットを
『キラーホーネットを
『キラーホーネットを
『キラーホーネットを
『キラーホーネットを
・
・
・
「アリシアがキラーホーネットのスタンピードを鎮圧したんだな?」
「はい。」
「素材は残っているか?」
「申し訳ございません。すべて消えてしまいました…」
「次からは捕獲してくれ。」
かなりの無茶振りだと思うが、ルーク様であればなんとかできるのであろう。わたしもできるようにならないと。
「アリシアの魔力量は申し分ない。これならいくらでも実験できる。そちらの新入生は少なすぎる。
「…はい。」
「マリアンヌ様。魔力量を早く増やす方法をお教えしますので、一緒に特訓しましょうね。」
「ありがとう。アリシア。」
お互い手に手を取り合う。
「アリシア、次は無属性の
「講義だけでも受けさせていただけないでしょうか。」
「お前も空間系魔法に興味があるのか。よし。見学を許可する。」
先ほど書いた黒板の内容を消し、≪収納≫の術式について説明していく。二人とも
「あのー、
「どういう意味だ?」
「神の庭を間借りする形になるので、神の許可が必要だと思うのですが…」
「虚軸方向に領域を確保するから神とは関係ないと思うが…」
「念のため確認させてください。
ワンドに魔力を込めて神託を発動させる。
『神聖で無限なる神よ、わが呼び声にお答えください。素敵なワンドありがとうございます。ところで
『好きに使っていいよーん。持ち主がいなくなってるやつもそっちにあげるね。』
軽い感じのわたし自身の声が聞こえた。
「神のお言葉を伝えます。『好きに使っていいよーん。持ち主がいなくなってるやつもそっちにあげるね。』だそうです。」
「そ、そうか。後半の内容が気になるが、まあいい。ではやってみろ。」
自分が両手で抱えられるくらいの大きさを想像して≪収納≫を発動すると『足りないからもっと都市サイズまで大きくして!』の神託が急に降りてきた。慌てて王都サイズを用意する。
「ずいぶん大きく作ったようだな。」
「神から大きくしろと言われました。今は王都を囲めるサイズです。」
「では何か入れてみろ。取り出すときにリストが頭に思い浮かぶはずだ。」
自分のハンカチを入れてみる。するりと入っていった。次は取り出してみる。リストが頭の中に出てきたが量が多すぎる。お金、衣類、水、食料、調味料、書類、宝飾品、武具、道具、馬車、木材、土砂、鉱石、魔物の素材や死骸、その他誰が使ったかわからないタオルや歯ブラシなどの日用品まである。とりあえず先ほど入れたハンカチを取り出す。
「確認ですが、≪収納≫に入れたまま死んだ場合はどうなりますか?」
「二度と戻ってこないな。」
「その失った物を神から頂きました。どうしましょう。」
「何か出してみろ。」
リストで目についた悪趣味な財布を出す。金貨が20枚(※2億円)入っていた。商人の遺品だろうか。
武器を出す。柄と鞘のデザインが非常に凝っている。貴族の遺品かもしれない。
ルーク様が武器を≪鑑定≫する。所有者はアリシアだった。
わたしもワンドを向けて
武器の歴代の使用者が頭に流れ込んでくる。
「最後に使用した人の顔と屋敷の風景はわかりましたが、名前がわかりません。」
「全体でどのくらいあるんだ?」
「王都の四分の一ぐらいあります。武具は王城の一階くらいです。」
「下手に使っているのを見られて盗品の疑いをかけられたらたまらないな。かと言って個別に遺品を返すには手に余る。見なかったことにしろ。」
「とんでもない!神に預けられたということは、わたしが遺族に返すと信頼されたからです。」
「この鞘には紋章が刻まれています。紋章官に問い合わせてみてはいかがでしょうか?」
「紋章官か。なるほど。拾得物として王宮に預ける。」
ルーク様は
しばらくしたら衛兵20人が飛んできた。
「ルーク殿下。この武具は何でしょうか?」
「
「さすがルーク殿下!死者の≪収納≫は諦めるしかなったのですから大変な功績ですよ。」
「今後も再現できる保証は無いがな。」
マリアンヌ様はなぜか機嫌が悪くなったが、わたしは自分の問題をスマートに解決してくれるルーク様を尊敬の眼差しで見ていた。
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