第3話 両天秤にかける

「おかえりなさいませ。レイ様」


城の門をくぐり、庭に咲き誇った花々を眺めながら歩いていると、新入りお世話係に声をかけられた。


 いつもの白と黒のメイド服。美青年にも見える黒く耳の下あたりまで短めに整えられた髪。

両手でジョウロを持っているから、お花に水をあげて周っていたのだろう。

心の中で、ありがとうと呟く


「うん、ただいま。いい子にしてた?」

悪戯っぽく近づきながら問いかけると、彼女は目を逸らしてしまった。


「はい…」

中性的な、けれど女性らしい透き通った声だ。

 

 距離を詰めすぎてしまっただろうか、彼女が後ろへ後ずさりする気配を見せた。


 私は思い出したかのように、両手が塞がっている彼女の左肩を右手でそっと抱き寄せ、耳元で呟く。


「これで許してくれる?今日は貴女のお誕生日でしょう?誕生日プレゼントのハグ」


そうして私は彼女の肩に頭を預け、続ける。

「帰りにね、ユウの好きなお花を買ってこようとしたんだけれど、囲まれちゃって…疲れた」 


 両手でぎゅっと握られたジョウロはまだ彼女の手の中から動かない。




 部屋の中で待っていてくれてよかったのに。

私に早く会いたくてわざと外仕事を選んだでしょ。

その瞳の意味を知ってる。何度も見てきた。

それは私に恋をしている瞳だ。


 こんなに素敵な彼女も、私なんかに恋をしてしまうのか。


「レイ様…、、お召し物が汚れてしまいますよ。そろそろ…」


「あぁ…!ごめんね、ぼーっとしてた。お花はまた今度、買ってくるから。」


ぱっと手を離し、彼女とジョウロを解放する。


「いいえ、もう十分です…ありがとうございます。」


今度は目をそらさずそう言った。やっぱり、恋をしている瞳だ。瞳の奥に輝くものが宿っている。私の声、言葉、仕草をなにかひとつでも見逃すまいと神経を研いでいる。そんな瞳だ。


「中へ入ろうか」 


 そうして、私とユウは少しぎこちない距離感で並んで歩き始めた。この国からは出たいけれど、ユウがいるならもう少しいてもいいのかな。彼女はそう思った





 








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きみのいちばんかわいい香り @nagi09

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