第21話:陽介のふとした不安。

めくるめく抱擁と、ほとばしる汗。

そこにいるのは夢中になって欲望に貪りつく男と女。


檸檬は快感に酔いしれて何度も天国に昇っては混沌の果てに身を沈めていった。

嬉しさのあまり檸檬の瞳から涙がほほを伝った。

激しい嵐のような時間が過ぎ去ってやがていつしか何事もなかったような

静寂が訪れる。


朝のまどろみの中で、疲れ果て寝ている檸檬を見ていると陽介は狂おしく

なって彼女をいじめたくなる。

可愛ければ可愛いほど、いじめたいって気持ちが強くなる。


そんなことを考えていると檸檬が目を覚ます。


「朝ごはん、食べなきゃね・・・」


で、檸檬は愛しい人をじっと見つめると愛しい陽介に聞いた。


「ねえ、愛してる?」


「うん?・・・愛してるよ」


言葉は少なくても、それだけ確かめあえば他に言葉はいらない。

どちらからとなく、またキスをする。

ハグをしてお互いの匂いと肌の温もりを確かめ合う。


恋人同士ってのは、そうやって常に自分と相手を確かめていたいもの。

愛し合ってるのは分かってるけど、そうしていないと不安になる。


朝、二人がラブラブ、ゴロゴロしてたもんだから、すぐに昼が来た。


今日の昼食は「パスタ」

昼食の後、テレビを見ていた檸檬は陽介の横で彼の肩に頭をもたげて、

うたた寝をはじめた。

可愛い寝息を立てて・・・。


朝の激しい営みで少し疲れたのかもしれなかった。


陽介は、くだらない情報番組を見たくなくてテレビを消した。

部屋の中はエアコンの音以外、なにも聞こえない。

高層マンションは外の音は拾わない。


陽介は檸檬の寝顔を見ながら自分たちの将来のことを考えていた。

もうそういうことを考えてもおかしくはなかった。


お互い愛し合ってることに疑いはないんだけど、幸せって反面それゆえに

万が一にもいつか檸檬と別れる時が来るんじゃないかって愚にもつかない

ことを思ったりした。


自分自身や自分がやってることに自信がないわけじゃないんだけど・・・

それでもって陽介は思った。

明日のことなんか誰にも分からない。

明日、檸檬から別れを告げられるかもしれない。


なんと言っても檸檬はまだ学生・・・俺と恋愛なんかやってる場合じゃない

かもしれない・・・健全な学生生活を全うすることが本前なんじゃない

だろうか?


幸せは大きければ大きいほど失った時のショックはハンパないんだ。

陽介は首を横に降った。

そんなことを考えたってしょうがないだろう?

だって檸檬がここを出て行く要素なんてどこにもないんだから・・・。


陽介のそれはきっと結婚前に女性が陥るマリッジブルーに似ていた。


「陽介・・・どうしたのボーッとして?」


「うん、なんでもない・・・いいからおいで」


陽介は下から見つめる檸檬を肩越しに引き寄せた。

陽介の顔に浮かぶ不安の影を敏感な彼女は読み取ったのかもしれない。


「ほんとに大丈夫?」


「まじでなんでもないよ・・・暇だからボーッとしてただけ」


「そうなんだ・・・」

「じゃ〜私が相手してあげる」


そう言って檸檬は屈託のない笑顔で陽介を見た。

その可愛い笑顔を見てると別れる要素なんてどこにあるんだよって陽介は

思った。


自分の不安など檸檬に話したところでバカだねって否定されると陽介は思った。

檸檬はそういう女だから・・・。


つづく。


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