第零点一話 魔女とは
黄金の化物が生まれた。
「やったあ! やっと、成功した!」
黄金の化物が、生まれて最初に見たものは、魔女だった。
「おめでとう。念願、叶ったね」
その次は、少年だった。
「でも、髪、短くなっちゃったね」
「いいのいいの。このために伸ばしてたから」
「えっ、じゃ、じゃあもう長髪の君は見られないのかい?」
「あれ? もしかして長いのが好きだった? だったら伸ばすよ! 可愛いって褒めてほしいし!」
黄金の化物は、魔女と少年のラヴラヴを眺めていた。
ずいぶんイチャコラするもんですから、さすがに何か言ってやろうと思いましたが、口がありませんでした。
「あ、ごめんごめん。放置しちゃって。なに?」
驚くべきことに、魔女には喋らずとも聞こえているようだった。
『お前らは何だ』、と黄金の化物は問いました。
「私は魔女。魔女の『ノア』だよ」
「僕は魔女の恋人。人間の『アダム』だよ」
黄金の化物は、『魔女とは何だ』、と再度問いました。人間について聞かなかったのは、知っていたわけではなく、興味が湧か無かったからだった。
「魔女は『魔法を使う少女』のことだよ」
魔女は言いました。
黄金の化物は、『私は何だ?』、と問いました。
「あなたは、私の髪の毛とか、血液とか、爪とか、そういうものから造られた、黄金の生物だよ」
黄金の生物は、『私は何故生まれた?』と問いました。
「……なぜ?」
魔女は首を大きく傾げました。
「何に使うとかは考えてなかったのかい?」
「うん。生命を生み出す魔法を、習得することしか、考えてなかったのかい」
魔女と少年はしばらく見つめあった後、黄金の生物を見て、
「えと、理由がなくても生まれていいんじゃないかなあ?」
「そ、そうさ。生まれただけでお祝いさ」
誤魔化しました。
黄金の生物は絶望しました。
無意味に無価値に無意義に生まれるだなんて。
無意味に無価値に無意義に生きてゆくなんて。
死のう。そう考えました。
「待って、待って、死なないで、わかったから、意味を今から作るから」
魔女は考えました。
そして創り出しました。
「あなたは、私を助けるために生まれたの!」
黄金の生物は、魔女を助けるために生まれました。
黄金の生物の宿命でした。
「よし、みんなに自慢するために、散歩しよ」
魔女はそう言いながら、黄金の生物を抱えました。非常に重い黄金の生物を、軽々と。
「ちょっと。その見た目のものを、持ち歩くってのは、みんなが怖がっちゃう」
少年は、黄金の生物の外見を指摘し、忠告しました。確かに、黄金の生物はこの世ならざる見た目でした。
「えー、可愛いのに」
「かわっ、え? かわっかわっかわいいっ?」
魔女のセンスは絶望的でした。
「じゃあ、猫にでもなってみる?」
魔女は、生物の絵がたくさん描いてある本を、開いて見せました。
真っ黒な猫でした。
黄金の生物は、真っ黒な猫になりました。
「よし、後は名前をつければ完璧!」
真っ黒な猫は、自分にどんな名前がつくのだろうと、そわそわし始めました。
「『クロ』なんてのはどうだい?」
少年は言いました。
真っ黒な猫は、大層気に入りました。
真っ黒な猫は、『クロ』になりました。
黄金の化物は、クロになりました。
クロは魔女の使い魔になりました。
クロは魔女を助けました。
困っていたら、助けて。迷っていたら、助けて。悩んでいたら、助けて。苦しんでいたら、助けて。焦っていたら、助けて。足掻いていたら、助けて。踠いていたら、助けて。傷ついていたら、助けて。独りでいたら、助けて。泣いていたら、助けて。 助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて------
------死んでいたら、助けました。
だって、それが宿命だから。
転寝の魔女は少年を待つ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます