第十三話 どうしようもなく姉妹愛

 たーちゃんが少女の首根っこを掴む、その瞬間の数分前----


 屋上には三人の少女がいた。


「ふうわあー」


 大きな欠伸をする呑気なうーちゃん。


「ん? あれ?」


 頭を打たれ、気絶したふーちゃん。

 未だ電気ショックで起きていないどーちゃん。


 あの少女によって、屋上へと転移させられた三人だった。


 が、うーちゃんは状況をよくわかっていなかった。


「嬉しくないなあ。説明が欲しいなあ。というか、嬉しいが個性なのに、いつのまにか嬉しくないなあ、が口癖みたいになってる」

 

 そこもまた、嬉しくないなあ、だった。


「今、どういう状況なんだろ?」


 ふと、屋上から下を見下ろす。


「は?」


 下では、少女がたーちゃんを落としているところだった。


「『示指グラード魔法少女ダクテュロス』」


 たーちゃんを引き寄せる。 

 その頃にはもう、少女も部屋へと転移していたため、目撃者はいなかった。

 たーちゃんも屋上の仲間入りだ。


「ありがとー」

「嬉しいなあ。姉妹を助けられるなんて」


 やっと嬉しいなあ、が言えて嬉しいだろうなあ。


「さて、どうします?」

「任務に失敗したから上から処分されちゃうよー」

「やっぱり、逃げましょうか」

「待ちなさい」


 二人は振り向く。

 気絶していたふーちゃんが起きたのだ。


「あの男と猫は、私たちを保護するかどうか話していました。今、あの少女から助ければ恩を着せれます」


 ふーちゃんからの保護されようという提案。

 先程とは違う意見。これには理由があった。

 ふーちゃんが保護を断った理由は、だ。なので、恩を着せれば、それとこれとでトントンになり、尊敬しなくなるんじゃないかという考えだった。

 結局、酷かった。


「嬉しいなあ。賛成です」

「楽しいなあ。おっけー」

「むかつくなあ。まあいいけど」


 全会一致だった。

 いつのまにか、どーちゃんが起きていたし。


 その後、たーちゃんに『引き寄せ』の魔法をかけ、下に降ろし、たーちゃんは戦いに夢中の少女を『引き寄せ』た。


 こうして、現在に至る。





-----------------------





「クソがああッ----!」


 少女は絶叫する。


「『母指マイナス魔法少女ダクテュロス』」


 放電された高電圧の電気が、少女に向かってゆく。必殺の一撃だった。


「『魔法少女アタランテヒール』」


 少女は、さらに高度の高い空中へ転移し、回避。

 が、なぜかたーちゃんまで転移した。


「ついてくるんじゃあねえ----!」

「か、勝手に----ッ」


 与鷹とクロは、その攻防をベランダから見上げていた。


「おそらく、触れているものを、意思関係なく転移させてしまうのだろう」

「あれではもう、離れられませんね」


 冷静に戦況を把握してもいた。

 

「『母指マイナス魔法少女ダクテュロス』」


 またも放電。

またも転移。


 どれほどホテルから離れようと、魔法で引き寄せられる。

 たーちゃんをを離そうとしても、まほうでくっついているので、構っていれば、電撃を喰らう。

 

「強いですね」

「ああ、ボクたちが勝てたのは、運が良かっただけかもな」

「うまく連携の取れたチームですね」

「姉妹だからかな?」


 見上げていたが、見定めていもいた。


 やがて、電撃が少女に直撃する。

 

 見計らったかのように、部屋にあーちゃんが入ってくる。


「あのおー、ちょ、ちょっと、だけいいですか」

「なんだ?」

「命だけは、助けてもらえますか?」

「「……」」


 そうは言ったが、重い。


「なるほど。確かに、これは貸しになる。わかった。助けてくれてありがとう。お礼に君たちを保護してやる」


 あーちゃんから説明を受け、そう答えた。

 ふーちゃんの意を理解した上で、乗ったのだ。


「魔女の蒐集って、大変ですね」




-----------------------




 深夜。誰も住んでいないはずの空き家に、複数の人間が、いや、人間と猫がいた。


「あの謎の少女、わざと殺さなかったのか?」

「いいえ。距離があったので、少し力が弱まったのかもしれません」


 『踵』を所有する少女。

 彼女は今、縄で縛られ、ガムテープで口を塞がれて、目隠しをしている。

 そして、箪笥の中に閉じ込められている。


「他の姉妹は?」

「眠っています。ぐっすりと。めちゃ可愛い」

「感想は聞いてない」


 与鷹とクロとふーちゃんが、話し合っていた。


「対魔女部隊『白魔女』は、問題のある異常な少女を集め、『遺体』を移植し、強力な戦闘員にする。そういうやり口で造られました」

「少女を利用するとは」

「クロさんは少女が本当に好きですね」

「え、ロリコ----」

「違うわ!」


 可哀想に、ロリコン疑惑が残るクロだった。

 頑張って話を戻す。


「『白魔女』のメンバー。そして保有魔法を知っているか?」

「隊長の魔法なら知っています」

「隊長?」

「あなた達が戦った、最上神という気に食わな女です」

「ああ、それなら知ってる」

「気に食わないってのはどういうことだ?」

「私からみんなの尊敬を、奪っていくんです」


 与鷹は眉を顰める。

 

「お前は、姉妹が大事じゃないのか? 保護を一度断ったり、俺らのことを報告しなかったり、そのせいで俺たちに負けて、死ぬかもしれなかったんだぞ」

「……」


部屋中に重苦しい空気が流れる。


「舐めるなよ、てめえ」

「⁉︎」


 口調が崩れる。

 それはふーちゃんが本性を現したということだ。


「私はみんなを愛している。みんなも私を愛している。みんなは私に頼らないと生きていけない。私はみんなに頼られないと生きていけない。私はみんなのために、みんなは私のために、ワンフォーオール・オールフォーワン。歪んでいようが、愚かだろうが、それでもこれは、愛なんだよ」


 与鷹はもう、何も言えなかった。

 圧倒されたのだ。目の前の姉妹愛に。


 ----------その語られた姉妹愛を、盗み聞く者たちがいた。


「嬉しいなあ。こんなに愛してくれるだなんて」

「むかつくなあ。この愛を語り合えないなんて」

「哀しいなあ。私たちは恩返しできているのかな」

「たのしいなあー。みんなでいると、幸せだー」


 喜怒哀楽負の五つ子は、わかり合い、愛し合う。

 この愛は間違っているかもしれないが、きっと、どうしようもなく姉妹愛なのだ。

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