第十二話 愚かな姉妹愛

「どこだ⁉︎ どうやって⁉︎ 見ていましたか⁉︎」

「すまん! 見ていなかった!」


 二人は警戒しながら部屋中を見渡す。が、ふーちゃんの姿は見当たらない。

 与鷹は、残った椅子とコンセントを調べる。


「コンセントはほどかれていません。椅子も破壊されていない。不可能です! 魔法でもない限り!」


 しかし、ふーちゃん。及び五つ子の魔法は電磁力を司る。それでは、こんな芸当は出来ない。

 

「もしかしたら、指以外の『遺体』も持っていたのかもしれない」

「部位によって違うんですか?」

「ああ、生前、ご主人様がどの部位でどの魔法を使っていたかで決まる」

「では、こんなことが出来そうな魔法は?」

「変身……透明化……転移……法則改変……存在消去……記憶操作……。ここら辺だな」


 与鷹は心の中で、やばいのあったな、と思った。


「こうなったら」


 クロは、姉妹の一人を甘噛みする。

 身体がびくりと痙攣した。


「電流を流して意識を覚醒させた」

「怖いことしますね……」

「さて、『誰』が当たったかな」


 四人のうち一人、起こした者の性格がここでは重要である。個性が強い姉妹たちの中で、誰が一番会話がスムーズにいくかだ。

 が、顔が同じなので運任せである。


「あーちゃんあーちゃんあーちゃん」 

「うーちゃんが話しやすくないですか」


 二人は願掛ける。 

 さあ、誰だ‼︎


「おはよう世界! 楽しい今日が始まった!」


「「はずれた!」」





-----------------------





「うーん。指以外は持ってないよ」


 話せば意外に分かり合えるたーちゃんだった。

 目隠しをとることで、信頼を勝ち取れた。


「ということは、新たな敵か」

「連戦ですね」


 警戒を強める二人に、ゆるい声で話しかけるたーいゃん。


「でもおかしいんだよねー」

「おかいしとは何がだ?」

「私たち、二人を見つけたことをー言ってないんだよねー。上に」

「は?」


 この姉妹には何度も困惑させられる。


「ふーちゃんが、自分たちだけの手柄として報告するーて言うから」

「最悪な部下だなお前ら」


 クロが絶句する。


「ともかく、敵も視認できない状況だが、指を取り返す、もしくはこれ以上奪われない、そしてボクたちがやられないようにするしかない!」

「はい!」

「それで聞きたいんだけどー」

「なんだ?」

「ふーちゃんとがいないんだけど、どこ?」


 またもだった。

 右端の子が消えて、椅子とコンセントだけが残っていた。

 誰かはわからなかったが、たーちゃんの言葉を信じるなら、うーちゃんが消失した。

 

「いつからだ⁉︎」

「目隠しを外してもらったときから」

「与鷹! 目を離さないようにしろ! 目を離すたびに消えている!」


 与鷹とクロは、姉妹たちを挟んで見合う。

 

「え⁉︎ なになにーどういうことー?」


 説明はしなかった。

 そんな余裕はなかった。


「説明してよー」


 膠着状態に陥る。

 誰も消えないが、何もできない。

 

「……」


ついに、たーちゃんまで目を瞑って黙り、


「二分の一、か」


 誰にも聞こえない声で、つぶやく。

 そして、


「お二人さん! 外を見てー!」


 反射的に二人の目線が窓に移動する。

 その結果、『死角』が生まれる。


「しまった⁉︎」


 目線を戻すが、もう遅い。

 また一人、消失した。


「お前! 謀ったな!」


 与鷹がたーちゃんに迫る。

そんなことは意に関せず、たーちゃんは、


「『中指エキサイト魔法少女ダクテュロス』」


 たーちゃんは魔法を発動させる。

 発動させた、だか、二人のどちらも引き寄せられかった。


「?」


「この魔法の副次効果。魔法を発動中、。二人とも! 敵は屋上にいる!」


 その瞬間! 


「ひゃっはあ! 裏切りやがったな!」


 なにもなかった空中に、少女が現れる!

 少女は、やけにぴちぴちなライダースーツを着て登場した!


「隠蔽がむずいんで! やっちゃダメって言われってけどよお! もうしょうがねえよなあ!」


 少女がたーちゃんの首根っこを掴む。


「『魔法少女アタランテヒール』」


 少女とたーちゃんは消失した。


「まさか⁉︎」


 クロは再び窓の外を見る。

外には、少女とたーちゃんが、消失する瞬間と同じ体勢でいた。

 空中でだ。


「あいつの魔法は! 転移魔法だ‼︎」

 

「正解」


 少女はたーちゃんから手を放す。

 たーちゃんは自由落下で、コンクリートの地面まで落ちてゆく。

 少女は、部屋の中に転移する。


「ほらよ。楽勝もいいとこだ。他の奴らもそうできたら良かったんだけどよ」


 邪悪な笑みを浮かべる。

 

「さて、どうする?」


敵の登場、容赦ない殺害、突然の連続により、咄嗟には対応できない。

 普通のひとなら、だが、 


「おうりゃっ!」


 与鷹が斧を振りかぶる。

 もちろん変身したクロだ。


「『魔法少女アタランテヒール』」


 斧は少女に当たらず、壁に突き刺さる。

 

「後ろだよ!」

 

 与鷹に触れようと手を伸ばす。

 が、与鷹は斧を手放し、回し蹴りを放つ。少女は転移し、距離をとる。


「やるなあ! 大の大人はこうでなくちゃ!」 


 少女は窓を殴り破る。

 破れた窓ガラスを両手に持つ。


「近づけないなら飛び道具だ」


 少女は転移する。少女は転移する。少女は転移する。少女は転移する。少女は転移する。少女は転移する。少女は部屋中を何度も転移する。


「どこから来るかわからねえだろ!」


 転移転移転移転移転移転移転移転移転移----

 

 与鷹は、壁に突き刺さっていた斧を抜く。


「どこからでも----来い!」


「それじゃあいくぜ!」


 投擲された窓ガラス。

 斧で弾く!


「一つで終わりとは言ってねえ!」


 窓ガラス窓ガラス窓ガラス窓ガラス窓ガラス窓ガラス窓ガラス窓ガラス窓ガラス窓ガラス窓ガラス窓ガラス窓ガラス窓ガラス窓ガラス窓ガラス窓ガラス窓ガラス窓ガラス窓ガラス窓ガラス窓ガラス窓ガラス窓ガラス窓ガラス窓ガラス窓ガラス窓ガラス窓ガラス窓ガラスが与鷹へと!

 弾く弾く弾く弾く弾く弾く弾く弾く弾く弾く弾く弾く刺さる! 弾く弾く弾く弾く刺さる! 弾く弾く弾く弾く弾く弾く刺さる! 弾く刺さる刺さる刺さる! 弾く弾く弾く刺さる刺さる刺さる刺さる刺さる刺さる! 弾く弾く弾く弾く弾く弾く弾く弾く弾く刺さる刺さる弾く刺さる刺さる刺さる!


「がッ、はあッ----」


 膝から崩れ落ちる。

 全身に、幾つもの窓ガラスが突き刺さった。


「すげえよあんた。今まで会った中で、トップに根性があった」


 与鷹に敬意を評する。

 

「ま、ぶち殺すけどな」


 邪悪に笑い、与鷹の頭をガシッと掴む。


「『魔法少女アタランテヒー----ル?」


 後ろへ倒れ、尻餅をつく。


「? どういうことだ?」


 本人さえ、理解できていなかった。

 少女はほんの少しずつだが、尻餅をついたまま、後ろへ下がっていく。

 体を動かしているというより、まるで何かに『引き寄せ』られているかのように。


「これは----まさか!? 『五本指』の!」

 

 少女は後ろに吹っ飛ぶ。

 否! 引っ張られた! 空中へと!


「お前は! ぶち殺したはずだ!」


「「『中指エキサイト&示指グラード魔法少女ダクテュロス』」」


 少女が向かう先には!

 先刻! 落とされたはずのたーちゃんがいた!

 

「さっきのおかえしだー!」

 

 少女の首根っこを掴む。

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