第三話 黄金の肉球

「遅かったですね」

「お前をぶちのめす準備をしてたんだよ」


 与鷹と鉛は向かい合って挑発し合う。

 場所は工場の量産品製作組み立てエリア。

 お昼休憩の時間であるため、ここには二人しかいなかった。

 厳密に言えば、もう一匹いた。


「ぶちのめす準備とは、その金ピカメリケンのことかい?」


 鉛は与鷹の両手を指差す。

 夜鷹の両手には黄金のメリケンがはめられてい た。そして、このメリケンこそが『もう一匹』である。


「それにしても、よく私が『魔女の遺体』を所有しているとわかりましたね」

「ネットで色々調べたんだ。『アルケミー』の業績が伸び始めたのは、お前が工場長になってからだということもな。」

「なるほど、ですがそれだけでは------」

「お前が持っているのは『右腕』だろ」

「ッ⁉︎」


今度は与鷹が腕を指差す。


「ほんの少しだが、左腕と右腕とでは太さや長さが違う。ネットの写真で検証したんだよ。ネット掲示板で調べたりもした。『魔女の遺体』は人体に悪影響を及ぼす、だからさっさとよこしな」

「ふん、それはできないな」


鉛は深くため息を吐き、煙草を取り出す。


「そこまでバレているなら仕方ない。大人しく戦闘をしてあげます」


煙草の先を与鷹に向け、


「『魔女ウィッチ右腕ライター』」


煙草が炎上し、一瞬で燃え尽きる。


「あなたもこんな風に燃やし尽くしてあげます」

「それじゃあ俺はミンチにしてやるよ!」


拳を構え走り出す。

与鷹は勝利を確信していた。


前日----


『ボクの錬金術は生命と黄金を行き来できる』


与鷹は首を傾げる。


『簡単に言うと、生命を黄金にして、黄金を生命にできる。』

『それって最強じゃないですか。どんな相手だって

金にしちゃえばいいですもん』

『それはできない、あくまでも対象はボクだけだ。ボクはこの力を使って様々なものに変身できる』


 クロはそう言いながら体を黄金にする。黄金は次の瞬間にはまるで溶けたかのように崩れて、ネズミになった。


『すごいですよそれでも。ライオンにでもなれば------』

『それも無理。ボクの体積と同じ、もしくはそれ以下の大きさの生物にしかなれない』

『意外と制限が多いですね』

『それでも策はある』


 クロはネズミから黄金へ、黄金から黒猫へと戻っていった。


『その名もトビウオアタック』

『……なるほど』

『おっと、理解が速いな』

『すぐに内容が伝わる素晴らしい技名です』

『そうか? 一応詳しく説明してやろう。トビウオは高速で移動する魚だ。速度は最高で時速六十キロメートルと言われている。そのトビウオに黄金でできたツノをつければ強力な一撃になるだろう』

『実際に事故で大怪我を負った人もいるらしいですよ』

『相手はまだこちらの能力を知らない。だから先手必勝でトビウオアタックを喰らわす!』


 クロは虚空に猫パンチをする。

 殺る気が溢れ出ていた。

 しかし、何か思い出したかのように猫パンチを止め、与鷹に顔を向ける。


『つまり、最悪、お前に人殺しをさせることになる。それについて、その、どうだ?』


 クロなりの心配だった。

 与鷹は目を瞑り、深く考え------


『それが俺の宿命ならば』


 

------そして



与鷹は鉛の顔面へと右腕で殴りかかる。

瞬間、右手のメリケンはトビウオへと姿を変えた。


「『トビウオアタック!』」


黄金のトビウオが鉛の眉間に突き刺さった。

鉛がゆっくりと後ろに倒れる。

なんの受け身も取らず、どさりと音を立てて。


「……やったか?」


 鉛は動かない。微動だにしない。

 息遣いさえも聞こえない。


 絶命だった。


「違う! こいつ死んでないぞ!」

 

 子猫になった左手のメリケンが叫ぶ----


「なーんで、バレちゃったんですかね? 油断して近づいてきたところを狙おうとしたのに。なるほど、このトビウオもあなたの一部だからか」


 死体が喋った。


「死んでねえよ」


 死体でなければならない鉛が喋った。

 鉛は寝転んだまま、眉間に突き刺さったトビウオを引っこ抜いた。

 

「『魔女ウィッチ右腕ライター』」


 トビウオが炎上した。

 灰になって床に落ちる。


「まさかお前! 」

「ご名答。錬金術だ」


 鉛は立ち上がる。


「どうやら君も、というかその猫も、錬金術を使うようだけれど、私とは系統が違うらしい」


 立ち上がることにより見えた鉛の眉間には、確かに穴が空いていた。しかし、その穴は浅かった。


「私の錬金術は生命エネルギーと熱エネルギーとの変換。死なない程度に生命エネルギーを熱エネルギーに変換し、仮死状態になることも可能なのだよ」

「それはわかっている! だが、それではボクの攻撃は止められないはずだ!」

「そのくらい、もうわかるでしょう?」


鉛は眉間の穴を差す。

よく見ると、その穴にはおかしな点があった。

血が一滴も出ていないのだ。


「----熱エネルギーを生命エネルギーに変換して、内部を凍らせた?」

「that's right またまたご名答だ。熱エネルギーを無くす、それはつまり『冷却』。なんか、煙草を燃やしたり、ライターなんて呼んだりするから勘違いしちゃったかもだけど、別に炎使いとかじゃあないんだよね。ハハハハハ!」


ハイテンションで笑う。 


「キャラ崩れてんぞ」


 苦虫を噛み潰したような顔で与鷹が言う。


「構わないさ!さあ戦おう!第二ラウンドだ!!」


 両手を高らかに広げて------


「『冷淡魔女ザッツ ライト業火ウィッチ!』」


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