誇り高き宿命とクズ

第一話 宿命との出会い

 暗い闇い蔵の中。

 懐中電灯を持った男がいた。

 男は三十代頃に見えた。黒いスーツを着て、髪型はオールバック。イケオジといった感じ。


「クソっ、本当にあんのかよ、こんなところに」


 男の名は蘇我与鷹そがよたか


「クソ親父。まさか嘘吐いたんじゃあねえよなあ」


 与鷹は父親の言葉を思い出す。





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病室。

 ベットには、与鷹の父親が寝ていた。


「癌とはな。日頃の置かないじゃねえか?」

「うるせえなあ」


 ベットの横で、見舞いに来た与鷹が、椅子に座ってリンゴの皮をむいていた。


「息子も置いて女遊び」

「金も使用人も、置いておいただろ」

「……そんなんだから、誰も見舞いに来てくれないんだ」

「見舞いならきてるだろ、ほれ」

 

 父親は顎で差す。

 示された場所には、たくさんの紙袋が積まれていた。九割が羊羹だった。


「あんなのはお金欲しさの『媚び』だろ」

「媚びだろうがなんだろうが、見舞いだ。それに、金欲しさに来ることの何が悪い?」

「……」


 与鷹は黙る。


「お前はクズだ。親の脛齧って生きてきたから、金の大事さを知らねえクズだ」

「……それは、あんたが」


 与鷹は何も言わなかった。

 言いたかったが、言っても無駄だと思った。


「なあ与鷹。お前はクズだ。だが、そんなお前に起死回生の宝を与えてやる」

「は?」

「『宿命』だ。うちの十三番目の蔵にある」




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 一昨日。

 与鷹の父親は天寿を全うした。


「いったいなんなんだよ。宿命って。形ないだろ」


 蔵の中にある大量の箱を開け続ける。

 箱の中は金銀財宝しかない。


「宿命ってのが、この程度のもんなわけねえよな」


 与鷹の人生に努力の二文字はない。

 欲しいものは手に入ってしまうからだ。

 努力せずとも叶ってしまう、働かずとも生きていける、そんな人生に与鷹は腐っていた。

 

 最後の箱を開く。中身は------


「ネコ?」


 猫の黄金像だった。


「……馬鹿にしてんのか‼︎」


 箱を蹴り飛ばす。といっても、中身は黄金なので微動だにしない。心なしか、猫も呆れたような顔をしていた。


「マヌケな顔しやがって」 


「マヌケじゃなくて、キュートだよ」


 与鷹ではないもう一人の声が。


「だっ、誰だ⁉︎ どこにいる⁉︎」

「下だよ」


 足元を見る。

 しかし、足元には金の猫しかいなかった。


「もしかして------?」

「もしかしなくても、ボクだよ」


黄金猫の口が動く。


「うわぁっ⁉︎」

「そんなに驚かなくても」


黄金猫が黒く変色し始める。

黒くなった部分が本物の猫のような毛並みに。

黄金猫はそのうち完全なる黒猫になった。


「化け猫……」


思わず呟く。


「違うよ。魔女の使い魔だ」

「魔女? 使い魔?」


わけもわからず混乱する。


「その様子だと、父親から何も聞いていないんだな。哀れなことだ」

「親父を知っているのか?」

「もちろん。ボクはあの男の恩人だからね。いや、恩猫かな?」


黒猫は与鷹を置いて話しだす。


「五十年くらい前かな、君の父親と出会ったのは。当時、あの男は借金で大変そうでね。だから手を貸してやったんだ。その代わりに、将来産まれる息子をボクにくれる。そういう契約をしたんだ」

「俺を、お前に?」


黒猫は頷く。


「けど、あの男にも親心ってものが生まれたのか。『自分の死後に渡す』とか言って延長してきやがったんだ。ボクとしては構わなかったけど」


与鷹は驚いた。あの父親にそんな感情があると思っていなかったのだ。


「君はこれからボクにこき使われるのさ。死んだって文句は言えない、ボロ雑巾のように捨てられたもね。契約は絶対なんだ」


与鷹は絶句する。

項垂れて、下を向く。

肩を震えさせる。


「ボクが言うのも何だけど、同情するよ。親の犠牲になるためだけに産まれて、最後は奴隷のように終わるだなんて。けれど、ボクの目的のためには------」


「最高じゃないかあ------!!!」


「は?」


「ずっと、自分の生まれた意味が分からなかった。生きている意味が分からなかった。だが、今日やっとわかった。俺の宿命はこれだったんだ! 親父、最高だぜあんた! 俺のことを愛してくれてたんだな‼︎ さあ、黒猫、俺の人生に意味を、役目を、宿命を与えてくれ!!!」


黒猫は絶句する。

しかし、すぐにニコリと笑い------


「いいさ。お前に宿命を与えてやる。ボクのご主人様を、魔女を復活させてくれ!!!」


   




   誇り高き宿命とクズの出会いだった。

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