第五話:冷たい川と温かい家庭

 社宅でトラブル…? 彼に何があったんだろうか?でも、それは今考えることでは無いだろう。


「はい、構いませんよ…母に連絡をとって部屋が空いてるか確認してきます。」


「そんなに、あっさり…、ありがとうございます!」


 朝田さんはすっかり安心した表情をして、先程までの仏頂面が嘘のようだ。どこか幼さの残る顔はそういえばちゃんと小学五年生だったなと思わせるほどであった。


 —


 新しい居候こと朝田さんが家に来た日の夜、お母さんは温かいスープを用意し、彼に手渡しながら微笑んだ。


 「今日もお疲れ様です。少しでもリラックスできるように、これを飲んでください。」と言った。


 朝田さんは感謝の気持ちを込めて、心からお礼を言いながらスープを飲んだ。


 それだけでなく母はリビングのソファにふかふかのクッションを置き、居候がくつろげるように配慮していた。部屋の温度をちょうど良い暖かさに保ち、落ち着いた雰囲気を作り出した。


「お母さん、ちょっと張り切りすぎじゃない?」


「いいのよ!! こんなにかっこい子手放せないわ」


 ふんと息を立てる母はイケメンに飢える猛獣のように見える。本当にやめて欲しいな


 そうして朝田さんを含めた生活は順調に進んでいった。


 ——


 11月21日あの日がやってきた。天気予報は雨だった。


 無慈悲の雨はこれから起こることをまるで暗示するかのように冷酷に降りつける。


「朝田さん…どうしよう! 警察や保健所に連絡してもまともに取り扱ってくれない」


「そりゃそうでしょう。確証がないんだし、第一、猫が本当に捨てられているかの判断もできない」


 デスヨネと口を尖らせて言う。


 学校が終わりいよいよあの時が近づいてきた。幼馴染の樹と詩織が近づいてきて言う。


「千紗ちゃん! 一緒に帰ろうよ!」


「朝田、お前も一緒に帰るか?」と樹は隣のを見て言う。


 こうして4人で下校することになった。例の場所まであと数100メートル。視界にはもう川が映っている。


 運命の瞬間が近づき、心の鼓動は鼓笛のように鳴り響く。 その瞬間に世界は静止して空気の中に秘められた緊張が漂う。


 目の前の一瞬が時の流れを切り裂く刃のように鋭く期待と不安が交錯する中で感情の海が波立つ。


 視界の中に浮かぶ運命の影、それは光と闇の境界線のように思える。


 さあ、今、未来が露わになる時。 一息の間にすべてが決まる。


 深く深呼吸をして体に持ってきていたロープをくくる。


 ロープの片側を朝田さんに渡して、捨て猫の場所まで向かう。詩織や樹が私を呼び止めているのがわかる。そういえば昔もこんな感じだったな。


 ———見つけた!


 両手でガバッと包み込み、おとなしくさせる。


 その時足に違和感があった。やっぱりここの地盤は柔らかくなっていて崩れやすかったんだな…


「千紗!!!」

 

 3 人の声が遠くに聞こえる…ロープの先がどうなっているのかわからない。もう少しゆっくり近づいたほうがよかったかな。いきなり朝田さんに渡したし、手を離していたって不思議じゃないか


 …さ、、、千紗!!


 ふと目を覚ますと見覚えのある天井があった。そっか私は猫と一緒に川に…


 にゃあ


 ———ん? 今にゃあって聞こえた??


 そこにはちょっとやつれた姿の捨て猫がいた。そっか私助けられたんだな。


「千紗…やっとおきた」


「本当に無茶するんだから」


「何やってんだよ! 千紗」


 いつもの二人と朝田さんが口々に言う。そうして3人は口を揃えて、生きててよかったと安堵していた。


 樹と詩織が帰って、私と朝田さんだけになった。


「よくやりましたね、千紗。ここでのノルマは達成ですね」


「はい、思いつきでしたが成功してよかったです」


「次はしっかり綿密に計画しますからね」


 はいはいと適当に流しておく。


 少し体が冷えて、肌寒かったので近くのストーブをつける。


 ストーブは、寒い季節に心地よい温もりを提供し、生活の質を大いに向上させる重要な道具だ。


 その存在によって、厳しい冬でも快適に過ごせる環境が整い、家族が集まる温かいひとときを楽しむことができるようになった。今では居候の朝田さんと温かさを共有することができる。


 この便利な道具を発明した人々に感謝の気持ちを忘れないでいよう。彼らの革新によって私たちの日常がどれほど豊かになったかを改めて実感した時だった。


 こう言う一面があるからこそ、私は機械工学にハマったのだ。誰かのに日常に寄り添い、日々生きる者を豊かにする、そんな発明品を作るのが私の長い長い夢だったのだ。


 そういやいつから、この夢を蔑ろにしていたんだろううか?


 ーー


 思い返すと心当たりがあった。 それは高校2年生のころ機械工学部に所属していた私はコンテストに自分の作品を出したのだ。


 えーと何だっけな…思い出せないけど、それが酷い酷評を受けて、また自信を失ってしまったんだと思う。自信がなけりゃいい作品はつくれないだろうし。


 まとめるとこうだ。高校生の時のコンサートの作品が不出来だったのか、なぜだか酷評を受けて自信を失う。


 改善策はコンサートで酷評されないこと、もしより良い未来にしたいなら、ここで優勝してしまうのがいいかもしれないな。





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