第83話 動き出す闇

剣戟を受け止められたアベルは、剣を押す力を利用して離れる。


『人間にしては出来るようだな。』


何処から取り出したのか。右手の剣をアベルに向けて言うデオリス。


(強い。今までの悪魔デーモン族と違う。)


『どうにも最近。中級と下級どもの、増殖率が悪くなったのは貴様の所為か。』


デオリスの言葉に、黙ったまま視線を返すアベル。


『沈黙は、肯定と受け取るぞ。』


剣を構えて、アベルに迫るデオリス。


アベルも剣を構えて呼吸を整える。


パンッ!


乾いた音が響き、アベルの姿が消えたと思うと、デオリスの左腕を切り飛ばしデオリスの後方にアベルの姿が。


そして、遅れて衝撃波が伝わってくる。


乾いた破裂音は、音の壁を破った時の破裂音。


遅れて来た衝撃波は、置き去りにされた音。


パンッ!パパパンッ!!


連続して破裂音が聞こえる。


次の瞬間には、デオリスの頭部は4分割ぶんかつに。


胴体は6分割ぶんかつに。


そして、数秒後には。持っていた武器と共に、ドロリと溶けて地面に吸い込まれて消えた。


 * * *


アベルがデオリスを倒したころ。


その様子を、遥か遠方の山の中腹から見ている者が。


『なんとも。最近の人族と言うのは、随分と人種ひとしゅの枠を超えた動きをするものよの。』


『お前と良い勝負できるんじゃねえか?』


『音の壁は突破できておったし。


後は、どちらの肉体の限界が先に来るかの勝負じゃの。』


『ま、どっちにしろ。上級程度じゃ相手に為らないと。』


『最低でも、魔将級でないと厳しいと言う所じゃろ。』


『東の精霊2匹を滅したが。変わりに、こっちも魔将の2人と6魔天の1人を失ったしな。』


『痛み分けじゃ。』


『ふん。西の精霊を1匹滅した分だけ、俺たちの勝ちだ。』


『ククッ。何をもって勝ちで。何をもって負けなのかは微妙なところだがな。


ふははは!嘘であろう!?』


『どうした?』


『あの人間、私たちの存在に気が付いておるぞっ!』


『はぁ!? 隣の大陸だぞ!? 


俺たちでさえ、中継の悪魔デーモン族の目を使って見ているんだぞ!


どれだけの距離だと思ってるんだ!?』


『ふははは! 嘘ではないぞ!しっかりと此方を見据えて、こう言っておる。「覚えたぞ。」とな。』



 * * *


実は、明確に言えば。アベルにも、直接相手が見えている訳ではない。


数千キロ以上も離れた東大陸。


途中には、山脈も在れば海で隔たれても居る。


星である以上球体である。


せいぜい数十キロも見渡せば、地平線なり水平線で先が見えなくなるのは必然。


ただ、感じるのだ。


精霊たちが教えてくれると言った方が良いのだろうか。


その方向に敵が居るのだと。


「覚えたから。」


その2つの気配を、アベルはしっかりと身体に覚え込ませる。

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