第82話 デオリス

「ビートさん。」


「ん?」


「ちょと、スカーレットさんの店に寄っていきますので。」


「判った。ルナに伝えて置く。」


「お願いします。」


そう言って、冬も近づき肌寒さも増してくる18時半。


街の道路も影が濃くなり、魔道街灯が暗くなる街中を照らしていく。


アベルは、スカーレットの店を目指して歩く。


2つほど向こうの街灯の柱の所に、見知った顔の人物が佇んでいた。


「よぉ。無能。」


アベルの見慣れているディストと違い。


低すぎるテンションと、大人しすぎる言葉使い。


「ディスト……。」


血盟クラン英華の剣所属時代に。


アベルの事を無能と呼び。蔑んで来た人物。


アベルは、ディストの事を上から下に視線を這わす。


別にディストだけに、こういう行動をしている訳ではない。


何度もやって来た癖と言うのだろうか。


アベルの視線の先。地面には、ディストの影が映っていなかった。


「最近随分と調子に乗ってるらしいじゃねえか。無能。」


「そうかな?自分では変わっていないと思うんだけど?」


胸ポケットから眼鏡を取り出して、さりげない仕草で眼鏡を掛けるアベル。


悪魔デーモン判定確定だね。)


眼鏡越しに見るディストは、黒い牛の頭に人の身体。腰から下は蛇の姿をとっていた。


そしてアベルは、身体能力上昇スキルを解放する。


「それで。今日は、何の用事かな?」


「なに。大した要件じゃねえけどな。てめえと、てめえの女房を始末しようと思ってな!」


言い終わるか、終わらないかのタイミングで、ディストが消え。


次の瞬間には、腰の剣を抜きアベルの胴体を薙ぐ。


ギンッ!


金属と金属がぶつかる甲高い音が響く。


「へぇ。良く止めれたな。」


攻撃を受け止められて。尚も余裕の表情を消さないディスト。


「ルナは?」


「先にっておきたかったんだがな。


家から出て来やしねえ。


何か知らねえが、護衛とかも居やがるし。


女房を殺されて、てめえの泣き顔を見たかったんだがな。


仕方がないから。てめえが先だ。」


(今日の護衛役に感謝だな。)


ディストの剣戟をなしながら思う。


「そこそこ、腕は上がってるようだな。」


「それなりに。」


「スカしてんじゃねえよっ!」


上段からアベルに強めの攻撃を仕掛ける。


その攻撃を、表情を変えることなく受け止めるアベル。


「言う事がそれだけなら。


時間がもったいないから。終わらせたいけど良い?。」


「無能がっ!舐めるなあっ!強斬撃スラッシュ!ダブル強斬撃スラッシュ五月雨さみだれ!」


ディストが、スキルを発動させ連撃がアベルを襲う


そのスキル攻撃を、アベルは難なく受け止め流す。


「なにっ!」


全ての攻撃を受け流されて驚くディスト。


「ダメだよ。隙も見せてない相手にスキル使っちゃ。」


スキル使用後の、技後硬直の解けていないディストに言う。


「無能者があああああぁああ!」


ディストの攻撃が苛烈さを増しアベルを襲うが。


アベルは表情を変えることなく。


その攻撃をなしていく。


「本当に。他に無さそうだね。」


冷めきった視線でディストを見るアベル。


「無能者が!上から目線でみるなあああああ!」


横薙ぎに剣を払うディスト。


次の瞬間には、アベルの姿が消え、剣を振り切った体制のディストの前に現れる。


そして、ディストの右腕を切り落とす。


余りにもアベルの剣速が早すぎて。そして、剣の切れ味が良すぎて。


ディストは、地面に落ちている自分の腕と。


自分の右腕が繋がっていない事を理解するのに。


僅かな時間だが、理解が追い付いていなかった。


「がああああぁあああぁっ!」


思考が追い付き、理解できた所で、腕を斬られたと言う痛みがディストを襲う。


左手で、切れた所を押さえながら。


アベルから距離を取ってアベルを睨む。


「アベルうぅぅぅぅうううう!」


アベルへの怒りで、理性のタガが外れた。


その瞬間。ディストの頭部は牛のように変形し。


腰から下は、蛇の姿に為っていた。


「アベル!アベル!アベルぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」


『ほう。この身体に為っても、まだ全ての自我を手放さないか。


凄い執着心だな。』


ディストの声とは違う声で話すデリアス。


悪魔デーモン族に言われても嬉しいとも思えないね。」


『この姿を見ても表情を変えぬか。』


「見慣れるって程でもないけど。


そこそこは見て来ているからね。」

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