第36話 辺境伯の気苦労

アベル達が、別荘で色々とやらかしていることを知らないレイジ。


(正確には、ルナと、エリスと、ユキナだが。)


今日は、アベル達に会わせたくない客が来訪する日だ。


 * * * *


「ようこそ。ベイルード侯爵殿。」


レイジがうやうやしく礼を取る。


「フォルスト辺境伯殿も健壮で何よりです。」


「長旅でお疲れでしょう。ごゆるりと寛いでください。」


「お言葉に甘えさせていただくよ。」


談話室に案内して、一緒の席に着く。


「して。今回は、どのような御用件で?」


何をしに来たのかは知ってはいるが。飽くまでも知らないと言うていで尋ねるレイジ。


「なに、自領に帰るついでに、最近辺境伯領で噂になっている。


錬金術師アルケミスト殿の顔を拝見していこうと思いましてな。


なにせ、今では失われつつある錬金の秘法。


ぜひ、この目で確認したくて、年甲斐も無く、しゃしゃり出てきてしまったしだい。


はっはっは。」


(ふん。あわよくば、自分の陣営に取り込もうと画策してやがるくせに。


お前たちの出世欲の争いの為に、アベルもルナ達も、好きにはさせねえよ。)


「それは、タイミングが悪かったです。


実は、妻が体調を崩し。 別荘の方に保養に出向いておりまして。


妻の体調管理の為に、錬金術師アルケミスト殿も着いて行っております。


錬金術師アルケミスト殿は、妻と仲が良くて薬の知識にも博識なので。」


嘘と真実を混ぜて話す。


「それは、残念な事で。」


(ふん。よく言いおる。儂に会わせたくなくて、わざと時期を合わせたのだろうが。)


「代わりと言っては何ですが。


錬金術師アルケミスト殿が作成した武具の幾つかなら用意しておりますが。」


(本当は見せたくはないが。隠し過ぎると後が厄介だ。


なら適当に、このくらいは作れると思ってくれた方が良い。)


「それは是非とも拝見させていただきたい。」


(密偵からの情報では、国宝級にも匹敵すると聞いてはいるが。


はてさて、どこまでの物やら。)


「数が多いので。 御足労願っても?」


「ええ。」


 * * * *


「こちらです。」


侯爵が来ると分かってから、突貫工事で作らせた地下室の保管庫と言う名の部屋に案内する。


「どうぞ、ゆるりと見分なさってください。」


「ほう。これは……見事な。」


部屋の中には、所狭しと武器や防具が並べられていた。


普通の武器防具から、錬金で作った武器防具まで。


「鑑定させて頂いても宜しいかな?」


「どうぞ。」


ベイルードが、一緒に着いてきた男性に言うと。


男性は、近くの武器防具から鑑定をしていく。


「っと。言い忘れておりました。


手前の方は普通の種類で。


奥に向かう程に、付与効果が強いのに並べております。」


30分ほどかけて、部屋の中の主要な武器防具を鑑定した男性はベイルードの耳もとで話す。


「フォルスト辺境伯。彼、グレッグが言うには、確かにどれも素晴らしい出来なのですが。


国宝級と比較するには、今一つと言う言葉でして。」


それも其の筈。


この部屋に並べられているのは、ルナとセリアが、相当・・に手を抜いて作成した品々なのだ。


それでも、優秀過ぎてレイジは頭を抱えたものだが。


「でしょうね。恐らく彼が見たのは。


ヒルト。来てくれ。」


レイジに呼ばれて、ヒルトが近寄ってきて姿を見せる。


手に錫杖を携えて。


「お初にお目にかかりますベイルード侯爵様。


私は大陸商業組合プラント所属のヒルトと申します。


ライセンス等級は2級で御座います。」


そう言って、うやうやしく礼を取るヒルト。


「恐らくで御座いますが。そちらの男性の方が見たのは、私の所持している錫杖に類する品かと存じます。」


そう言って、錫杖を前に出す。


グレッグは錫杖を鑑定すると、大きく瞳を見開く。


前に見た杖とは付与効果が違うものの、その付与効果は国宝級と呼べるに値する。


「その様な品を幾つも作っていると?」


驚きの表情で聞くベイルード。


「まさか。いくら稀代の才を持った錬金の秘法の使い手でも、この様な品をポンポンと作られたら堪った物ではありませんよ。」


レイジが言葉を添える。


気合を入れれば作れるとは言えない。


何なら、作ってしまって、隠してあるとも言えない。


言ったが最後、それこそレイジでも囲いきれなくなる。


錬金術師アルケミスト殿が、国宝級にも勝るとも劣らない品を作る時には条件と言うものが御座いまして。」


「条件ですか?」


「ええ。 まず、錬金術師アルケミスト殿に信頼されて居る事。


次に、友愛されて居る事。


最後に、どれだけ錬金術師アルケミスト殿に、思われているか。


数々の検証をした結論です。


私も、武器の作成を、お願いしたのですが。


この結果です。 鑑定してみてください。」


【青嵐の剣】

〈付与効果〉

攻撃速度上昇 18%

身体能力上昇 10%

切れ味上昇  21%

腕力上昇   14%

魔物特攻


「付与効果は5つ在りますが。


効果的には、ヒルトの錫杖には遠く及びません。」


「それだけ、ヒルト殿は、錬金術師アルケミスト殿に信頼されていると?」


「そうでしょうね。なにせ、ヒルトは錬金術師アルケミスト殿が元所属の血盟クランメンバーで、パーティーを組んでいた人なのですから。


信頼も友愛も高いでしょう。


なので、無理に作らせても、左程の効果は望めないと言う事です。」


噓である。


ヒルトは血盟クラン剣美ではなく。血盟クラン英華の剣所属。

しかも、血盟クランメンバーだったのはルナではなくてアベル。


嘘で固めるのではなく、嘘の中に真実を少し混ぜる。


これだけで、情報を攪乱させることが出来る。


付与効果についても半分は嘘。


確かに、ルナとセリアの思いの強さで、付与効果は上がっていくが。


たぶん、一番重要なのは。テンションの高さ。


友愛や信頼も関係してなくも無いが。


身も蓋も無い言い方をすれば。やる気の問題。


まあ、こう言って置けば。強引に接触する事はあっても。


バカな行動には移すまいと考えたレイジ。

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