第18話 錬金術師が来ちゃいました
「有難う御座います。」
礼を言って、教えてもらった北門側の外れの教会に向かって歩き出す。
途中、着ている服装(着物)が珍しいのか。
それとも、異国の黒い髪に黒い瞳が珍しのか。
いや、両方なのだろう。
すれ違う人の大半は、男女問わずに女性を見て振り向く。
15分ほど歩くと、周囲に民家が無くなり。
小高い丘の上に教会が見えてくる。
「確か、教会の裏手の家でしたね。」
教会の外周を回り込むようにして裏手に回る。
裏手には、立派な屋敷のような家が建っていた。
「ほあぁ。おっきな家ですね。」
家の大きさに驚きながら、玄関に向かいドアに付いているドアノッカーを叩く。
トントンッ!
「はーい。」
ドアの鎖は外していない、ドアの隙間から女性が顔をのぞかせる。
「どちらさまでしょうか?」
「初めまして。私は、エリスと言います。
東方大陸から出て、修行の旅をしています。」
「それは、どうも。で、どういった御用件でしょうか。」
「はい。実は、こちらに錬金術を扱う人が居ると聞いたので。
見分を広めたくて参りました。」
「ちょっと待ってね。」
ドアを引いて鎖を外してドアを完全に開く。
「中にどうぞ。」
「失礼します。」
リビングに案内されて、ソファーに腰かけるように促される。
ソファーには、男性が座っている。
促されて、ソファーに座り。女性が来るのを待つ。
「どうぞ。お口に合うと良いのですが。」
「有難う御座います。」
そう言って、礼を取り頭を下げる。
「改めて。自己紹介を。
私の名前はエリス。東方大陸の国では
私が
「私は、ルナ。 エリスさんと同じく
「俺はアベル。ルナとは夫婦。宜しく。」
「ご丁寧に。 実は、同じ
言い難そうに困ったような表情になるアトリ。
「行き詰ってるんですか?」
「ええ。なぜ?」
「私も似たような状況なのよね。
あっ。エリスも、言葉使い戻しても良いわよ。」
猫かぶりの言葉使いをやめて、素の話し方に戻すルナ。
「はは、バレちゃいましたか? んじゃ、遠慮なく。」
「しかし、何でまた、この大陸に?」
「いや~、実は師事していた人が、半年前に放浪の旅に出ちゃってね。
その時の言葉が。
基礎は教えた。あとは、お前自身で見聞を広めて錬金を成長させろって。
無責任も程があるでしょう!?
私、まだ初級しか教えてもらって無いんだよ!」
「む~。教えて貰えただけ良いじゃない。
私なんて、誰も教えてくれなかったんだよ。
まぁ、みんな
「えっ!? どうやって
コーウェル神父に聞いた吟遊詩人の歌をヒントに、
「うわぁ~。苦労したんだね。」
「でしょ、でしょ。」
「ねねっ! ルナの錬金術を見せて貰っても良い?
私のも見せるから!」
「似たようなもんじゃないの?」
「ぜんっぜんっ!違うっ! 何よ釜に入れて掻き回すってっ!
何それっ! ぜひ見たいっ!」
「良いけど。」
そう言って、錬金釜の方にエリスを連れて行く。
「ここが、ルナのアトリエですか。」
「アトリエ?」
「ああ、私たちの地方では作業場の事をアトリエと呼ぶんだ。」
「へぇ~。こっちでは
「特に決まって居る訳ではないので。いいんじゃない?」
「これが、錬金釜。 この中に、材料を入れていくんだけど。
ん~。インゴットで良いかな。」
鉄鉱石。中和剤赤。蒸留水を錬金釜に入れる。
そして、グルグルと掻き回す事3分。
錬金釜の上にインゴットが宙に浮かんで出来上がり。
「って感じ……。」
とエリスの方を向くと。
顎が外れたのではと思うほどに。大口を開けて放心していた。
「ごめん……。理解が追い付かなかった……。
今も追いついてないけど……。ああゆう物だと思い込む事にした……。」
理解はしていないが、無理やり思い込む事で、思考を現実に引き戻しているようだ。
(大丈夫だエリス。ルナの錬金の仕方を見た人は、誰も最初は同じ反応を取るんだ。)
心の中で、エリスに激しく同意するアベルであった。
「エリスの錬金術とは違うの?」
「全然違う。全く違う。あんなに非常識じゃないっ!」
「非常識っ!?」
(言い得て妙だな。)
と思うアベル。
何度も側で見ているが、未だに理解の範疇を超えている。
「机と、材料貰っていい?」
「うん。良いよ。」
「んじゃ。東方式を、お披露目しちゃいましょう。」
そう言って、布をテーブルに敷く。
敷かれた布は50センチ四方。
布には、不思議な模様が描かれている。
「私も、インゴットにするね。材料も同じだし。」
ルナが、テーブルの端に、鉄鉱石。蒸留水。中和剤赤を置く。
「いくよ。」
そう言って、布の真ん中に鉄鉱石を置く。
置かれた鉄鉱石に手をかざすと、鉄鉱石が解けたように広がって行く。
その広がった鉄鉱石に、中和剤赤を流し込み。
最後に、蒸留水を流し込む。
仕上げに、広がった鉄鉱石で包み込む。
両手で、包んだ鉄鉱石を撫でる様に。
布に描かれた陣が光る。
光が収まると、布の上にはインゴットが。
「すっご~~いっ!」
「これが、普通の錬金術だと思うんだけど……。
ルナのを見た後だど、普通過ぎるように感じるのは変なのかな?」
エリスが呟くように言う。
(多分、色々とオカシイのはルナの方で。エリスさんの方が普通だと思うんだけど……。)
などと思うアベル。
その時だった。
エリスの持っていた、カバンが光る。
ルナの方も、スキルボードを開く仕草を見せる。
エリスも急いで、カバンを開いて本を取り出す。
「「スキルが解放されてるっ! えっ!?」」
2人揃って同じ言葉を発する。
「私の方は、中級錬金釜の作成レシピが解放されてるんだけど。」
「私も、中級錬金陣が解放されて本に載っている。」
「本?」
「うん。スキルブックと私たちは呼んでいる。
この本に、自分の使えるスキルが表示されていくんだ。」
「へぇ~。」
許可なく覗き込むルナ。
「何も書いてない?」
「ああ、本人以外には読む事が出来ないらしい。
私も、師匠のを見たけど白紙にしか見えなかった。
ルナ達は違うのか?」
「うん。私たちは、スキルボードって言うの。
半透明な板みたいなのが、本人にしか見えないけど任意で出す事が出来るの。
私の目の前に出してるけど、エリスには見えないでしょ?」
「見えないな。」
「国が違えば作法も違うっていうけど。
スキルの表示方法まで違うんだな。」
アベルが言う。
「だね。」
「ですね。」
「エリス! 宿は取ってるの?」
「いや、今から取ろうかと思ってたところだけど。」
「エリス。泊まっていきなさいよっ。 良いでしょう?アベル?」
「いや。悪いでしょう。」
そう言ってアベルを見るエリス。
「ん? 別に構わないけど。 部屋は余ってるし。」
「決まりっ! 部屋に案内するよ。エリス!」
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