第8話 感謝しちゃいました

目の前には、金色に輝く釜が在った。


(鉄の釜だったよな? なんで、中の水が虹色になってんだ?)


アベルが、金色に輝く釜を見ながら、色々と突っ込みたいのだが、錬金術師アルケミストとは、こう言うもんだと考える事を放棄した。


アントワネリーが加わって、全員で釜に魔力を注ぎ込んだ。


アントワネリーに至っては。上級魔法でも、ぶっ放すのかと言いたくなるほどの魔力凝縮をしてくれた。


ルナがスキルボードの錬金釜の所に触れて確認する。


【初級錬金釜 品質:超極上】と表示された。


「ルナ?」


「ルナさん?」


アントワネリーと、コーウェル神父が、ルナに尋ねる。


「表記されてる通りに言いますね。


初級錬金釜。品質:超極上。です。」


「「おおおおおっ!!」」


ルナ本人よりも、はしゃいで大喜びするアントワネリーと、コーウェル神父。


「つ、次の解放スキルは!?」


興奮覚めぬコーウェル神父がルナに聞く。


「えっと。 蒸留水と中和剤。


中和剤が、赤色。黄色。緑色。の3種類。


それと、封印状態のままの中和剤?が1種類です。」


「中和剤の材料は!?」


コーウェル神父が聞く。


「赤色が、ミドラの花。 黄色が、タリスの花。 緑色が、シノメの花です。」


「分かった。その花なら、俺でも採取できる。」


アベルが言う。


「取って来てくれるの?」


「もちろんだ。」


「それじゃ。お願いね。」


その瞬間、アベルの身体の中に、何とも言えない感覚が。


「?」


自分の身体の事なのに、自覚できずに戸惑うアベル。


「アベル?」


「いや、何でもない。 それじゃ、行ってくる。」


アベルがドアに向かい歩き、ドアノブを掴んで引っ張る。


バキッ! っと音がして、ドアノブが取れる。


「は?」


取れたドアノブを、間の抜けた表情で見つめるアベル。


「「「……。」」」


無言の三人。



 * * * *



「たぶん。これのせいかな?」


スキルボードをアベルが確認すると。


【家族からの頼み事】とスキルが解放されていて。


効果:家族からの頼み事を終えるまでは身体能力が増加される。


つまり、今回の場合は、中和剤を作るために、ミドラの花。タリスの花。シノメの花を集めて、ルナに手渡さないと終了条件にならないらしい。


「成る程。 アベルさんは孤児だった為に、本当の家族と言うものが居なかった。


だから、結婚して、本当の家族が出来るまで職業ジョブスキルが解放も発動もされなかったと……。」


そう、アベルの職業ジョブスキルは、【家族と思う】事ではなく。


【本当の家族】にしか、職業ジョブスキルとしての効果を発動できなかった。


何と言う皮肉。


もしも、ルナと出会って居なければ。


もしも、ルナと結婚して居なければ。


数年。いや、下手をすると生涯独身のまま、一生職業ジョブスキルの解放をできなかったのかも知れない。


そう考えて、思わず身震いするアベル。


ほんの少しでも何かがズレて要れば、アベルの職業ジョブスキルは目覚める事すらなかったのだ。


「アベル?」


顔色が悪くなったアベルを見て、ルナが心配をする。


「大丈夫……。うん……。大丈夫だ。」


心配するルナの表情を見て、平常心を取り戻すアベル。


「ルナ。本当に有り難う。俺を救ってくれて。」


「どう致しまして?」


何に?対してなのかは理解出来ないが。


アベルが納得してくれているのなら、ルナはそれで良かった。


「甘いですねぇ~。」


「激甘だろう。」


2人を見て、ニヤニヤするアントワネリーと、コーウェル神父。

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