第4話 可愛いVTuberはエロ堕ちして欲しい
ホームルームが終わり、教室には少しの休憩時間が訪れた
僕は、いつものように席に腰を下ろし、くだらない話をしていた。
こんな時間は、何も考えずに気を抜いて過ごせる貴重なひとときだ。
「なぁ、光稀。」
蓮が声をかけてきた。スマホの画面を僕に向けながら、少し興奮気味に話しかけてくる。
「お前が好きそうなVtuberを昨日見つけたんやけどさ。」
スマホの画面に映し出されたのは、可愛い系のキャラクターが動くVtuberの映像だ。彼女の顔は作り物とはいえ、その魅力には抗えない。僕はしばらく見つめた後、ふっとため息をつきながら、内なる欲望に従った本音を漏らす。
「すっげぇ可愛い。エロ堕ちして欲しい。」
その言葉が自然に出てしまうあたり、我ながら自分がどうしようもないなと感じる。しかし、蓮は苦笑しながらもあきれたように言い返す。
「そんなこと言ってるからクラスの女子から話しかけられないんだよ……。」
「それはお前もだろ。」
軽い応酬が交わされ、僕たちはそのままくだらない会話を続けた。そんな時、ふと自分の席の方に視線を向ける。そこには、一人寂しそうに座っているアイラの姿が目に入った。彼女は、机の上に肘をついて、遠くの景色をぼんやりと眺めている。教室のざわめきの中で、彼女だけがどこか別の世界にいるような雰囲気を醸し出していた。
一瞬、胸が少しだけ痛んだ。彼女はまだ転校してきて二日目だ。友達もいないし、周囲との距離感を掴むのも難しいだろう。それに、言葉の壁もあるだろうし……。
「なぁ蓮、アイラに話しかけてやってよ。」
「なんでや?」
蓮は少し不満そうに眉をひそめたが、僕はすかさず言葉を続ける。
「お前が女子と話してる時の、あやふやした顔が見たいから。」
蓮はしばらく僕をじっと見つめた後、ため息をついた。
「お前、最低だな!女遊びして楽しいか?」
「もっと言い方どうにかならなかったか?」
言葉のやり取りの中で、僕たちは軽く笑い合った。蓮が席を立つと、少し胸を張ってアイラの席に向かっていく。その背中を見ながら、僕は内心で思う。(おいおい、死ぬわアイツ……) 不安を抱えながらも、しっかりと見守る。
「Hey!Baby!MeとTeaでもしばかへんか?」
蓮の言葉が教室に響いた瞬間、僕の頭の中で何かが崩れ落ちる音がした。
アイツ、テンション完全にバグってるだろ……。
案の定、アイラは目を見開き、困惑の表情を浮かべている。そりゃ、いきなりこんな変な口調で話しかけられたら、誰だってそうなる。彼女の微妙な反応に、蓮も気まずそうにこちらに戻ってきた。
「なんかSheはMeとTalkしてくれなかった。」
「きしょい口調、まだ残ってるぞー。」
僕は茶化すように言ったが、心の中では少しだけほっとしていた。蓮が席に戻ると、なんだかアイラがこっちをじっと見ているのに気づいた。
「なぁ光稀。」
「なんだ?」
蓮がニヤリと笑いながら、僕の耳元で囁く。
「あの子、お前の方見てるぞ。」
え?なんで?一瞬、心臓がドキリと跳ね上がったが、すぐに冷静さを取り戻した。喋れる人が僕しかいないから、ただ呼んでいるんだろう。そうだ、転校して二日目で、まだ慣れてないんだから……。
僕は席に戻ると、アイラに話しかけた。彼女の青い瞳が少し柔らかくなり、僕に微笑んで返事をしてくれる。こうして、僕たちは軽く雑談をしながら、次の授業のチャイムが鳴るのを待った。
一時間目は数学の授業だ。朝一番に数学だなんて、頭がまだ完全に目覚めていない僕にとっては少々厳しい時間帯である。
「はい、じゃあこのプリントを後ろに回して。」
先生が淡々とした口調で言う。数学の授業は、ほぼ毎回プリント授業だ。黒板にびっしりと書かれた公式や説明をノートに書き写すのは面倒くさいし、時間の無駄だと先生は考えているらしい。そのため、プリントでの授業進行が定番となっている。
まぁ、僕からすればありがたいことこの上ない。わざわざ黒板に向かってノートをとる手間が省けるなら、それだけで手間が減るし、他のことを考える余裕もできるというものだ。
僕の席まで回ってきたプリントを受け取り、何気なく内容を確認してみる。
まるで意味が分からんぞ!
プリントの表面には "x" や "y" といった記号がびっしり書かれていて、何やら複雑な数式がずらりと並んでいる。
「xとかyとか……なんでこんなものが必要なんだ?」
ぼやきながらも、僕は無理やり視線をプリントに戻す。しかし、頭に入ってくる気配はない。まったく……xやyといった文字が許されるのはポケ○ンだけだろう。それはオセアニアでは常識だ。
と、謎の論理で自分を納得させようとする。
ちなみに、僕はSMが好きだ。(ポ○モンの話だが?)
周囲は皆、静かにプリントを受け取り、それぞれ集中し始めているようだ。教室の中は、紙をめくる音やシャーペンがノートに走る音だけが響いていて、少しだけ緊張感が漂っている。僕も一応、視線だけはプリントに向けるが、正直頭の中は別のことを考えてしまっている。
「全員にプリント渡ったかー?」
先生が確認の声を上げる。クラスのほとんどが頷き、軽く手を挙げている。
「じゃ、1番を見てくれー。」
先生の話が始まるが、僕の頭はまだそのスイッチが入っていない。xとかyがどうしてこうも苦手なのか、自分でも不思議に思うが、こればかりはどうにもならないようだ。
そう思っていると、隣のアイラが小声で話しかけてきた。
「ねぇ……痛いよ……。」
アイラは少し申し訳なさそうに、左手を見せてくる。その指先には、紙で切ったらしい細い傷があり、そこから少しだけ出血していた。彼女の白い肌に、赤い血がほんのり滲んでいる。瞬間的に、僕はその光景を見てしまい、心の中で警報が鳴り響く。
これは、ヒジョーにまずい状況だ。何故かって?
まず僕の性癖について説明する必要がある。
決して、痛がっている女子を見て興奮するわけではない。いや、無いことは無いが、それがメインではない。僕の本当の性癖は……**女の子の体液**だ!
そう、僕はどういうわけか、女の子が流す体液――涙やら、汗やら、そしてこの出血――に異常に反応してしまうタイプの人間なのだ。
このままでは、興奮が顔に出てしまい、ヘブン状態になってしまうかもしれない。だが、ここでそれを見せてしまったら、僕の学校生活は終わりだ。
僕は必死に平常心を保とうと心の中で叫びつつ、手を震わせないように気を付けながら、ポケットから常備している絆創膏を取り出した。準備の良さには自画自賛だ。 (やっぱ意識高ぇ、僕って)
絆創膏をアイラに渡しながら、できる限り無表情で言った。
「これ、使って。」
「ありがとう……。」
アイラはにっこりと笑って、その絆創膏を指に貼った。彼女の笑顔は、まるで教室の中でぽつんと咲いた花のようで、僕の心臓が跳ね上がる。
かわゆいな……撫でたい……
「大丈夫?」
「光稀のおかげでね。」
僕はようやく一息ついて、なんとか授業に集中しようとした。興奮を抑え込んで平常心を取り戻したところで、残りの数学の授業に戻る。とはいえ、アイラの笑顔が頭から離れず、次々に襲ってくる数式がまるで他人事のように遠く感じた。
授業が終わると、すぐに休み時間がやってきた。蓮がニヤニヤしながら近づいてくる。
「なぁ光稀、あの転校生と仲ええな?」
「まぁ、席が隣だからな。」
あまり深く考えずに答えたが、蓮の顔がさらに怪しい笑みを浮かべる。
「でもなんか、距離近ない?もしかしてぇ?」
その瞬間、蓮は口を尖らせて、まるで赤ちゃんが甘えるような口調で言ってきた。
「ちゅきなんでちゅか?」
「きっっっしょ!」
僕は反射的に声を上げたが、なんだか言い返すことができなかった。自分でも、アイラのことが気になっているのは認めざるを得ない。だから、蓮の茶化しに対して、本当に何も言えなくなってしまった。
「えぇ!もしかして図星なんでちゅかぁ?」
「"ちゅ"って言うな!赤ちゃんかよ。」
「赤さんと呼べや。」
まさに外道!
こいつは本当に、僕をウザがらせる天才だ。蓮の笑い声が耳に残る。
「いやいや、お前の恋の行方が楽しみやわ!それだけで、わかめご飯7杯はイケるで!」
「もう味付いてるじゃねぇか!」
そんなくだらない雑談をしているが、僕の頭の中ではアイラの笑顔が繰り返しフラッシュバックしていた。そして次の時間は体育だ。早く着替えて、外に出なければならない。
「はぁ……着替えますかぁ……。」
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