第2話 コスプレ?興味無いね。

今日は二学期初日の学校ということで午前授業。そして、時刻は4時間目だ。

今日の4時間目は文化祭の出し物を決める時間。

二学期の大イベント、修学旅行と文化祭。クラス全員のテンションのボルテージが、限界を超えて高まっているのが伝わってくる。


「さぁ、皆さん自由に意見を出してください!」


先生が促すと、教室内は一気に騒然とする。まるでスイッチが入ったかのように、あちこちから声が飛び交い、賑やかさが増す。話し声が交差し、教室中に熱気が広がる。こういう空気は正直、苦手だ。

耳に直接響くようなざわめきが、鼓膜を刺激して痛みを感じるほどだ。机に肘をついて、少しだけ額に手を当てる。


はぁ……早く帰りたい……。


皆のテンションに全くついていけず、僕はただ静かに座っていた。そんな僕の様子に気づいたのか、隣のアイラがそっと話しかけてくる。


「どうしたの?元気ない?」


彼女の声は、騒がしい教室の中でも不思議と澄んでいて、耳に心地よく響く。アイラが少し心配そうに顔を覗き込んでくる。近い……顔が近い……。彼女からはほんのり甘い香りが漂ってきて、心がふわりと浮かぶような気持ちになる。シャンプーか、それとも香水か……なんだかいい匂いがする(小並感)


「いや、この空気が嫌いなだけだ。」


僕がそう答えると、アイラはクスッと笑いながら言う。


「私も、こんなの初めてだから、ちょっとついて行けないな……。」


彼女の言葉に、どこか安心感を覚える。アイラも同じように感じているのかと思うと、少しだけ気が楽になった。彼女がいることで、この騒々しい空間にも少し落ち着きを感じることができる。


「私が元いたところは、落ち着いた高校で、皆大人しい子ばかりだったし……。」


アイラはそう言いながらも、どこか楽しそうな表情を浮かべている。

その瞳が少しだけ輝きを増し、彼女が新しい環境を楽しんでいる様子が伝わってくる。


「っていうか、アイラはどの国から来たんだ?自己紹介の時、言ってなかっただろ?」


僕がそう聞くと、アイラは少し微笑んで答えた。


「私はイギリス人。父親が日本に住みたいって言ったから、ついてきたの。」


英語の教科書に出てきそうな理由だな、と心の中で軽くツッコミを入れておく。


「日本はいいところか?」


「今のところはね。」


アイラが微笑むと、その表情にはどこかほのかな温かさが感じられる。その言葉が本当に心からのものだと伝わってくる。


僕たちが話していると、先生が話し始めた。

そういえば、今日は文化祭の出し物を決めるんだったな。アイラに夢中で完全に忘れていた。

教室の黒板にはいくつかの候補が書かれている。たこ焼きや焼き鳥、メイド喫茶にコスプレ喫茶、脱出ゲームやお化け屋敷なんてものもある。選択肢が多いけど、どれもクラスの皆が楽しそうにやりそうなものばかりだ。


「えー、じゃあ多数決で決めます。」


先生はそう言うと、皆に小さい紙を配り始めた。

教室内には紙の擦れる音と、ペンを手に取る音が響く。

さて、どれにしようかと考えるが、頭の中は自然とアイラのことばかりが浮かんでしまう。ぐへへ。


「お前は何にする?」


蓮が突然話しかけてきた。正直、今はこの二人の空気を邪魔しないで欲しいと思うが、蓮は気にせず笑顔で話しかけてくる。「じゃあ、これ」と僕は言って、コスプレ喫茶を紙に書く


「おいお前……コスプレなんて趣味あったんか……」


蓮が驚いた様子で言うが、僕は冷静に返した。


「んなわけねぇだろ。」


理由はシンプルだ。「ただ女子の可愛い格好が見たいから。」男子高校生なんて、結局そんなもんだ。


「お前、それだけのために自分を犠牲にするんか……!」


蓮が半ば呆れたように言ったその瞬間、クラス内から歓声が上がった。どうやら1票差でコスプレ喫茶に決まったようだ。

勝った…計画通り。。。

しかし、隣を見ると、アイラは不安そうな顔をしている。


「どうした?」


僕が尋ねると、アイラは小さな声で答えた。


「いや、私、そういうのするの初めてで……ちょっと不安で……。」


その言葉には、少しの緊張と戸惑いが感じられる。なるほど、それは一理ある。しかし、ここは男として、アイラを安心させる言葉をかけるべきだろう。


「大丈夫だ、アイラなら似合うよ!」


僕はできるだけ優しく、励ますように言った。しかし、次の言葉は少し軽口をたたいてしまった。


「ということで、猫耳メイドキボンヌ!」


最低だ……僕って。と少しは思うが、それでも僕は自分の幸福のためなら何でもする男だからな。


「最低やなお前。」


蓮がまた僕を罵るが、軽い口調で笑いを交えているのが救いだ。

クラスはすぐにコスプレ喫茶の出し物について話し合いを始めた。何を着るか、どんなコスチュームがいいのか、皆の話が飛び交う。


結局、各自がそれぞれ服を買うことになった。はぁ……買いに行くのがめんどくさい……。


でもまあ、可愛いアイラの姿が見られるなら、それも安いものだ。

そう自分に言い聞かせ、話し合いが終わるのを待った。


僕は先生に頼まれ、アイラに学校案内をしている。「まずここが図書室、夏場は他の教室よりエアコンの温度が低いため、特に人気があるんだ。」


僕がそう言うと、アイラは少し首を傾げながら質問してくる。「じゃあ冬場は?」その質問に笑みを浮かべながら僕は答えた。

「あったけぇ。」アイラはその言葉に思わず笑いをこぼし、「確かに、それは便利だね。」と返してきた。


僕たちは図書室を後にし、次に音楽室や理科室などの特別教室を案内していく。廊下を歩くたびに、床から響く軽やかな足音や、窓から差し込む柔らかな光が、学校の穏やかな雰囲気を感じさせた。


「で、ここが体育館。体育倉庫は二人で入ると閉じ込められるというジャパニーズカルチャーがある。」僕が冗談っぽく言うと、アイラは楽しげに目を輝かせた。「最近、そんな感じの日本アニメを見たよ。」

アニメか……それで日本語勉強してるのかな……


次に案内したのは保健室。僕はドアを開けながら軽い口調で言った。

「ここが保健室。僕は最近、ここが舞台の同人誌をネットで見た。」


「同人誌ってなに?」アイラが首をかしげて尋ねてくる。


「あ、簡単に言えばファンアートみたいなものかな……?」

と説明しながら、僕は保健室のベッドにダイブした。シーツの柔らかな感触が背中に広がり、心地よさに少しだけ目を閉じた。


「まぁ、こんな感じで一通り案内したけど、何か質問ある?」


僕がそう言うと、アイラは一瞬考えるように空を見上げ、それから微笑んで答えた。

「んー……特にないかな。私は学校にはあんまり興味がないんだよね……」


僕はその答えに少し笑って、「まぁ、転校してきたばっかりだしな」と頷いた。

「でも、学校は青春の800ページくらいを補うから大事にしろよ?」


「学校に行くだけでも青春なの?」


「まぁ、青春なんてそんなもんじゃね? 楽しく笑える友達がいる、それだけで青春だと思うよ。」


アイラはその言葉にふふっと笑い、「そうね」と頷いた。その笑顔が、光を反射して少し眩しく感じた。


「あ、あと大人になると青春ができないって本当なの?」


アイラが少し真剣な顔で尋ねてきた。僕は一瞬考えてから答えた。「あー、それね。」


良い子の諸君!

「大人になると青春ができないと言うが。」

それは結婚もろくにできてないおっさんが言ってる事だ。」

今のうちに恋愛した方が絶対にいいと思うけどな……。


その時、保健室の扉が軽い音を立てて開く音がした。誰かが入ってきたのかと思い、扉の方を向くと、そこには蓮がいた。


「保健室で不純異性交遊ですか?」蓮がニヤリと茶化してくる。かなりウザイ。


「そんなんじゃねぇよ。青春について話してただけだ。」


「うわ!青!真っ青!青春ですなぁ!」

蓮がさらに茶化してくる。そろそろ手出るかも。


「あの……この人は?」アイラが僕に小声で尋ねてくる。そういえば、まだ蓮にはアイラを紹介していなかった。


「こいつは僕の幼馴染の蓮だ。」そう紹介すると、蓮は少しおどけながら「よろしくやで」と挨拶した。


「こちらこそよろしく」とアイラも少し恥ずかしそうに返事をした。


…………


「じゃあ、帰るか。」


こうして、濃い一日が終わろうとしている。でも、家に帰ってもまた濃いやつが待っているんだよなぁ……濃いのはカルピスだけにしてくれよ。

今日、分かったことは、アイラが天然で少し人見知りだということ。そして、仲良くしていれば、普通に明るい子だってこと。そう思いながら、僕はゆっくりと帰路を歩いていく。

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