ネット廃人のワイに恋愛はできるンゴか?

霜月二十日

第1話 転校生が……来るッ!!

「二学期、だりー。」


僕の名前は霧島光稀。ネット廃人の高校二年生だ。


そんな物語の始まりみたいなことを考えながら、僕は今、通学路の曲がり角の前で突っ立っている。


なぜかって? 話せば短いが、二学期から海外の転校生が来るらしい。


そして転校生と言えば、曲がり角でぶつかるものだと相場が決まってるだろ?

だから乗るしかないでしょ、このビッグウェーブに。


なんて、朝っぱらからラノベに出てきそうなシーンを妄想してた僕だけど、現実はそんなにうまくいかなかった。


「何しとんねん、お前。」


背後から聞き慣れすぎた声がする。振り返ると、親の顔よりも見慣れた小学校からの幼馴染、神無月蓮が立っていた。蓮は僕より少し背が高く、少し茶色がかった髪をしている。そして、こいつが僕をインターネットの海に投げ込んだ元凶だ。こいつに勧められてネットサーフィンを始めたのが僕の人生の転換点だった。僕がオタクになったのもこいつのせい。


「なんや、蓮かよ。つまんねーなー。」


「後ろから声をかけられる、転校生がよかった。」


僕は蓮にいつものように毒を吐く。これも日常茶飯事だ。


「で、光稀、ここで何しとんねん」


蓮が僕に問いかける。それで僕は自信に満ちた顔で答える。


「転校生を待ってる。」


すると蓮は呆れた様子で溜息をつきながら言った。


「お前、中学の時もそれやっとったやん。」


僕はもちろんドヤ顔で応じる。


「あったなー、そんなこと。」


「『あったなー』ちゃうやろ。」


「あと、お前、その転校生ぶつかりイベントはもう終わっとるからな。」


蓮が指をさしながら言う。僕はその方向を見ると、そこには明らかに転校生らしい薄い青髪の外国人っぽい女の子と、クラスのイケメンがぶつかっている場面が広がっていた。彼女の頬にはわずかに赤みが差し、彼の手が彼女の肩に触れている。まるで、漫画のワンシーンのようだ。


「くそ!1個前の曲がり角だったか!」


僕は悔しそうに歯ぎしりをしながら唇をかみしめる。思わず拳を握りしめたが、その虚しさに気づき、力を抜いた。それを見て蓮が、目を細めながら口元を歪めて笑う。少しの沈黙の後、僕は肩を落とし、落胆しながらも、ゆっくりと学校へ向かって歩き出した。


「でも、可愛かったよなぁ。」


蓮が口調を少し柔らかくしながら言う。僕の心には、彼女の笑顔が残像のように焼き付いている。あの青い髪が風に揺れる様子や、澄んだ瞳が一瞬こちらに向けられた瞬間、胸が少しだけ高鳴ったことを自覚した。


「そうやな、俺もそう思ったわ。せやけど、胸が小さい子は俺の好みやない!」


蓮が胸を張って堂々と言い放つ。僕は眉をひそめ、こいつは分かってないな、と心の中で呟いた。大きい胸というのは、正直言って、邪魔なだけだ。大きすぎると肩こりの原因にもなるし、運動をする時も揺れて痛いと聞いたことがある。


そして、何よりも――


「そんな胸で女を見る男は、女の敵だぞ。」


僕は断言するように言うと、蓮は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに笑いをこらえながら返してきた。


「いや、小さい方がええって言うとるお前も、大概やぞ。」


蓮の顔には笑みが浮かんでいるが、その背後にある本音が見え隠れしている。僕たちは互いの価値観を軽くぶつけ合いながらも、深いところでは同じものを求めているのかもしれない。


「おっぱいは決して怖くないからな。」


蓮が半ば冗談のように言う。それに対して僕は鼻で笑いながら、「怖いとかそういう問題じゃない」と心の中でツッコミを入れつつ、言葉を飲み込んだ。


そんな感じで、男子高校生らしい、どこかくだらなくもある会話を続けながら、僕たちは学校の門をくぐった。


そのまま教室に入り、自分の席の方を見る。


「あ、っあれ?えぇ?」


そこにはなんと、転校生がすでに座っている。

まさか、自分の隣に…? これはチャンスだと思い、話しかけることに決めたのだが……。いざ話しかけようとすると、彼女の整った容姿に圧倒され、緊張で声が出ない。結局、何も言えないまま、そっと自分の席に腰を下ろした。


学校ラブコメあるあるの「ホームルームで転校生を隣に紹介する」なんてイベントは、あまり現実には存在しないと言うが、こうして自分の席の隣に転校生が座っているのを見ると、やはり心臓がドキドキする。


どうしたものか……。何を話そうかと考えていると、なんと転校生の方から声をかけてきた。


「おはよう?、えっと…あっ」


まだ慣れない日本語で、一生懸命挨拶をする彼女。彼女の瞳が一瞬、何かを探すようにこちらを見つめ、僕はその視線に焦りを覚えた。


「お、おはよう。えっと……」


僕もまるで日本語に慣れていないみたいな、ぎこちない返事をしてしまった。

いや、実際に言葉を発するのが苦手という意味では、同じようなものかもしれない。コミュ障が酷すぎる!


でも、ここでしっかり自己紹介をしなければと思い直し、少し深呼吸してから口を開いた。


「僕の名前は光稀……霧島光稀です。」


名前の後にフルネームを言うとかっこいいって誰かが言ってた気がする。

あと敬語になってしまったけど、まあいいだろう。とりあえず、無事に自己紹介はできた。すると、彼女もにこやかに笑いながら、自己紹介をしてくれた。


「私はアイラ・バドロック……アイラって呼んで……」


彼女が静かににっこりと笑う。その笑顔は、まさに「美少女」という言葉がぴったりだった。心の中で彼女の名前を繰り返しながら、その笑顔をじっと見つめていると、教室にチャイムが響いた。先生が入ってきて、僕たちのやりとりが一旦中断される。


「じゃあ、朝のホームルームを始めるぞ」


先生はそう言って、いつもの朝のルーチンを開始した。でも今日は少し違う。教室全体に軽いざわめきが広がる。みんな、やっぱりアイラのことが気になっているんだな。そんなことを考えながら、僕も先生の言葉に耳を傾けた。


「今日は、たぶんみんな知ってると思うけど、転校生がいるから紹介するぞー」


先生の一言で、教室の空気が少し変わった。みんなが新しいクラスメイトに注目し、アイラに視線が集まる。僕もアイラの反応をちらりと確認しつつ、彼女の隣に座ることのプレッシャーを改めて感じた。


「転校生、前に来てください。」


先生にそう言われて、アイラは前に出て黒板の前に立った。僕は改めてアイラを観察する。身長は160cmくらいだろうか、小柄な体型だ。髪は短めで、綺麗な薄青色をしている。目も澄んだ青色だ。胸は小さめで、A寄りのBカップくらいだろうか。声は透き通っていて、耳に心地よく響く。体重は42kgくらいかもしれない。シャンプーは日本製の一般的なものを使っているっぽい。


「いや怖い怖い怖い!」


そんな言葉が前の席、蓮の方から聞こえた気がするが、気のせいだろう。心の中で


「それじゃ、自己紹介よろしく!」


先生が促すと、アイラは少しの間を置いてから自己紹介を始めた。


「皆さん、おはようございます?私はアイラ・バドロックと言います……これからよろしくお願いします……」


彼女の声は少し震えていて、緊張が伝わってくる。やはり外国から転校してきたばかりだからだろうか、日本語にはまだ慣れていないようで、そのカタコトな言葉がかえって可愛らしさを引き立てている。


「もう分かってると思うが、席は光稀の隣だから、そこに座ってくれ。」


先生がそう言うと、クラスがざわついた。軽いざわめきの中には、時折聞こえてくる不満や皮肉も混じっているが、へ、羨ましいだろボケども!と思う事にした。気にしていたら、始まらない。


アイラは先生に一礼してから、少し緊張した面持ちで僕の隣の席に戻ってきた。彼女の動きがぎこちないのは、まだ周囲に慣れていない証拠だろう。


先生がホームルームの続きを始める間も、クラスの皆はまだアイラに注目している。


朝から、なんだか濃い体験をしてしまった気がする。緊張が抜けきらず、少し疲れたけど……まあ、今日も一日頑張るぞい!



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