幼年期の消失

九段下件

幼年期の消失

1.

 21XX年、日本から子供が消失した。

 無論、子供ないしは未成年の存在そのものが消えた訳ではない。人類は大量虐殺を肯定できるほどの勇気も幼年期をパスして成人するほどの科学力も持ってはいなかった。

 消失したのは未成年の人権だった。

 

2.

 サトルの最古の記憶は幼稚舎で泣いている記憶だった。3歳でも握りやすい角の取れたカラフルな積み木で遊んでいた。サトルはお家が好きだった。積み木を重ねて窓を作り、屋根をのせて、大きくなったら住みたい理想の家を作った。ベッドの部屋で再生されるビデオにいつも出てくるお家にそっくりだった。サトルはとても気に入った。

 その隣ではタカシが脚で蹴って走るオモチャの車に乗って教室を爆走していた。タカシのベッドの部屋では車のビデオがいつも再生されているらしく、車が大好きなのだ。特に一番のお気に入りは真っ赤なポルシェ・911らしい。

 サトルが完成したお家を眺めていると、オモチャの車に乗ったタカシが積み木の家に突進してきた。カラフルな積み木は四方八方に飛び散った。痛々しい音だけが教室に響いた。

 サトルはわんわんと泣き叫んだ。一度泣き始めると、どうでもいい気分になってくる。声が枯れるまで泣いてやろうと思った。意地でもあった。怒りを発散するのだ。

 しばらく泣き続けていると、異変に気づいたアカリ先生が駆け寄ってきた。そして、サトルをそっと抱きしめた。「よしよし、どうしたの?」サトルはそんな慰めはいらないと思った。だから、さらに激しく泣いてやった。「もう大丈夫だよ。サトル君。何があったのかな。」何度も背中を摩られると、気分が落ち着いてきた。サトルはタカシの悪行について細く話してやることにした。その頃はそんなに言葉を知らなかったから、タカシを悪に染め上げることはできなかったが、気分はスッキリした。

 アカリ先生はとても大人びていて、肌もすべすべで、おっぱいも大きくて、憧れの女の子だった。彼女は今年の春に幼稚舎へやってきた。サトルは一目惚れをして、何度もお花をプレゼントした。アカリ先生は2年後に、幼稚舎を卒業して、外の世界に出るらしい。アカリ先生は外の世界に出るのはちょっと怖いと言った。だから、サトルは「大丈夫だよ。僕が守ってあげるから」と言った。でも、外の世界はどんな所なのか、全く想像ができていなかった。


3.

 体育の時間は大嫌いだった。

 中等部に入学してから体育の授業は一層厳しくなった。授業開始に少し遅れただけでスクワット、列を乱せば怒号、欠伸をすれば逆立ち、試合に負ければ腕立て伏せ。毎回クタクタになるまで動かされる。

 体育は大体、午後の四時間を丸っと使って行われる。ランニング10kmから始まり、腕立て、腹筋、懸垂と続く。一年生の頃はこれらの基礎的なトレーニングだけで授業の時間が終わる。最近はトレーニングを終えても時間が余るようになったので、スポーツの時間が取られるようになった。

 殺風景なグラウンドを回遊魚のようにひたすら回りながら、隣を走っていた物知りのハジメ言った。「この体育の授業は軍隊式のトレーニングだそうだよ。まだ生身の人間が戦争していた頃のトレーニング法さ。昨日の夜、体育の歴史ついてのビデオが流れてきたんだ。」どうして戦争と肉体労働が根絶された今、トレーニングをする必要があるのか。疑問が浮かんだ。ハジメは少し早口になって教えてくれた。人間の脳みそは日頃から身体を動かしていないと、その能力を100%発揮できないらしい。人間は狩りをしていた頃から身体的な進化はいない。ヒトの体の基本設計は未だに”動かすこと”を前提に成り立っている。そのため、脳味噌を動かすためには必ず運動が必要になってくるのだ。我々は社会の資源で、社会に必要とされる脳みそと筋肉をつけていなければならない。外の世界に出た時、100パーセントの力でデスクワークをこなせるようにしておかなければならない。

 ランニング等のトレーニングが終わり、やっとスポーツの時間になった。だが、スポーツも一筋縄ではいかなかった。その日の種目はバスケットだった。試合はチェンジだ。ひたすらコートに立ち続けなければならない。そして、負けたチームは罰として腕立て50回だ。10分の休憩の後、すぐに次の試合へと移る。スポーツであるのに決して楽しいものではなかった。基礎体力の向上と鍛えた肉体を如何に応用するかに重きの置かれたスポーツであった。

 体育の授業が終わり教室に戻ると、クラスメイトのアキラのズボンがズタズタに引き裂かれていたのだ。アキラは自分のズボンを手に取って、それを見つめていた。

 アキラは中2にしては太っていたし、鈍臭かった。そんな彼は先ほどのバスケの試合で何度も戦犯となった。体育の授業はみんな本気だ。腕立て伏せの罰ゲームがあるからである。一度罰ゲーム食らってしまうと、罰が重すぎて次の試合に影響が出てしまう。それだけにチームメイトはアキラに対するフラストレーションが高まっていた。クラスではアキラと同じチームになると、オワリだという空気が出来上がっていた。

 周りがガヤガヤし始めると、アキラは何事もなかったかのように引き裂かれたズボンに足を通し始めた。悲しそうな目をしていた。チャイムがなると、シームレスに次の授業が始まった。


 

 ズボン引き裂き事件からアキラへの嫌がらせが表面化していった。筆記用具がなくなり、机は罵詈雑言の落書きで埋め尽くされていた。でも、サトルはアキラにも悪い所があると考えていた。アキラには愛想がなかった。”こいつなら許してやってもいいかな”と思えないのである。話を振っても、ムスッとして、「うん」しか言わない。しかも、みんなが観ているはずの寝室のビデオの話題を全く知らないのである。そんなやつ誰が好きになるのだろうか。みんな朝昼晩と同じ食事を食べているはずなのに、彼は何故か太っていた。食堂からご飯を盗んでいるという噂まであった。そんなやつ嫌われて当然だ。

 アキラはだんだんと教室に来なくなり、別の施設へ移っていった。モヤモヤした気分は残ったが、そういうこともあるだろうと思うことにした。


 

 翌週、アキラと入れ替わるようにして、別の施設からタクマがやってきた。タクマは暗い顔でみんなに挨拶をした。彼はヒョロガリで、声がか細くて、常に貧乏ゆすりをしていた。初めの頃は新鮮味があって、彼はよく話しかけられていた。教室にやってきた時の暗さは嘘のように笑っていた。だが、数日経つと誰もタクマに話しかけなくなった。タクマもアキラ同様に運動音痴で、愛想がなく、ビデオの話題が分からなかった。数ヶ月すると、タクマもアキラと同じように、教室に顔を出さなくなった。

 タクマが居なくなって数日が経ったある日、物知りのハジメが寝室のビデオからの受け売りを話してくれた。「集団が上手くまとまる方法って知っているかい。それは共通の敵を作ることなんだ。そして、都合よく集団には必ず仲間外れができる。構造上仕方ないことなのさ。この施設を運営しているお国はそれをよく理解している。だから、あえて捨て駒を用意しているんだ。で、捨て駒の作り方なんだけど、これも素晴らしいんだ。オレ達が毎日観ているビデオあるだろう?あれで人の好みを操作するのさ。だから、遺伝的に弱い個体を幼少の頃からビデオで洗脳して、いじめられ易い体質の人間を作っているのさ。ここには人権がないからね。これが一番効率的なのさ。」ハジメは国家公務員志望だった。ハジメとは仲が良かったため、しばしばこの類の言いた話を聞かされるのだが、今回のにはさすがに驚かされた。アキラやタクマがビデオの話題が分からないのは観ていなかったからなのだ。彼らに愛想がないのは、例えば「ありがとう」と言えないのは、感謝を伝えるという文化をビデオを通して学んでいないからなのだ。そして、彼らがその役割に選ばれたのは生まれた時に定まっている個体差が理由なのだ。社会の授業で未成年の人権が剥奪されたと習った。だが、そんな自覚はなかった。地球には重力がありますと言われても、ピンとこないのと同じように。人権がなくても、普通に生きていけると思っていた。体育の授業とか、多少の辛い思いはあるけれど、少なくとも自分は生きてこれた。前提が崩れ落ちるような気分に陥った。運が良かっただけなんだ。見えない犠牲の上に僕らの生活があったのだ。


4.

 授業中、サトルにとっての一番の関心事は隣の席のハルカだった。中等部に上がった時から隣の席はずっとハルカだった。中等部の施設は初等部卒業時の学力や身体能力によって決まる。同じのような能力の未成年が集められるのだ。ハルカとは中等部で知り合った。出会ってから日は浅かったが、サトルとハルカはとても仲が良かった。二人とも寝室のビデオでよく流れるお笑い番組が大好きだったのだ。休み時間になると、周りの目を気にせず、ずっと二人で話し込んでいた。

 サトルはハルカのことをずっと仲のいい友達という認識でいた。だが、最近流れてきたビデオのおかげで、その認識を改めざるを得なくなった。そのビデオは映画で自分と同じくらいの男女が出会い、仲良くなり、喧嘩し、性行為におよび、そして、女が出産するという内容だった。映画の中では男女が仲良くすることを”恋”という言葉で表した。恋で結ばれた二人が見るに堪えないグロい行いをすると、何故か女性の体内に子供ができるのだ。サトルは到底グロい行為をしたくないと思ったが、映画の男女のようにハルカと触れ合いたいという感情は芽生えていた。

 寝る前にハルカのことを考えるだけで、ドキドキして眠れない。今何をしているのか、ついつい気にしてしまう。ビデオを観て数日、サトルはハルカに対する感情が恋だと認識した。

 授業中は特にハルカのことが気になって仕方がなかった。ハルカの一挙手一投足が気になった。髪を耳にかける仕草でさえ意味があるのではないかと考えてしまう。彼女は何を考えているのだろうか。さっきこちらを見たのではないだろうか。自分がハルカに恋をしているように、ハルカも自分に恋をしているのだろうか。

 サトルはハルカに”同意”を得るべきかを悩んでいた。精通を果たした男子と初経が終わった女子は施設に申請することで同一を寝室が与えられる。恋をしている相手と申請することが普通らしい。だから、僕はハルカに”同意”を得なければならない。お互いの”同意”がなければ申請できないの決まりなのだ。”同意”を得る際は「あなたのことが好きです。付き合って下さい。」というのが、一般的だ。ビデオで観る限りこれが正しい。『好きです。』はおそらく『あなたに恋をしています。』という意味で、『付き合って下さい。』はおそらく『申請に着いて来て下さい。』という意味だろう。ある種の人はこの同意を得る言葉を自分なりにアレンジするそうだ。「月が綺麗ですね。」や「ずっとそばにいさせて下さい。」とも言うらしい。慣用句的に使っているのだろうが、互いに衒学趣味がない限り通じないだろう。

 また、友人のタカシがそうであったように、女性に対して”同意”の言葉発したけれど、断られる可能性だってある。恋の一方通行である。これが恋のとても難しいところで、サトルが”同意”に二の足を踏んでる理由なのだ。いかにこちらが女性に対して恋心を抱いていようと、女性側の承認が必要なのだ。数字で考えると、難しくなさそうに思える。同意を断られたとしても、デメリットはないからだ。つまり理論上は何度でも誰にでも同意を確認できる。答えは”YES”か”NO”の二通りしかない。十回試して全部断られる確率は1024分の1である。こんなの断られる方が難しい。

 けれども、それは数字上の話で、実際は”同意”を行うことを想像するだけ、ドキドキしたり、フワフワしたり、胸が痛くなったりする。なんて非合理的なんだ。論理で考えろ。そんな自分が腹立しかった。たとえ、自分の夢に近づく為の重要な試験の前であっても、そのことが気になって勉強が手につかなかった。

 自分の思い通りにならないことは腐るほどあった。テストの点数が低かったり、100m走のタイムが縮まらなかったり。だけど、その時のやるせ無い気持ちとは全く異なる気持ちだった。もどかしい。早く”同意”を得て楽になりたい。


 

 中学3年になったサトルは毎夜が楽しみで仕方がなかった。ついにハルカから”同意”を得ることに成功し、同じ寝室に移ったのだ。教室にいた頃はハルカの肌に触れることは決してできなかった。だが、寝室が同じになれば、柔らかなハルカの肌をいくらでも触ることができたし、教室では見せてくれない緩んだ表情を見せることがあった。それがとても嬉しかった。毎晩夜遅くまで、お気に入りのビデオ番組を二人で観て、クラスの友達や将来の夢に関して語り合った。「私、外の世界へ出たら管理栄養士になりたいんだ。ビデオで観たんだけどね、世の中には栄養が偏りすぎて亡くなってしまう人がいっぱいいるんだって、そういう人達を救いたいんだ。私、料理するの好きだし。」タカシもビデオで見た建築が素晴らしくて、自分も建築家になりたいと語った。話が落ち着くと、接吻なる行為に至ることがあった。接吻とは自分の唇と相手の唇を重ね合わせる行為だ。ハルカの唇はこの世のものとは思えないほど柔らかった。彼女の息遣いをすぐ側に感じた。自分とハルカが一緒になって、融合して、ぐちゃぐちゃになって、溶け合っていくようだった。そして、サトルはビデオで観た”あの行為”をハルカとしたいと強く思うようになった。あの時はグロいと思っていた”あの行為”を、今はしたくてしたくてたまらなかった。


 

 ハルカが妊娠した。彼女のお腹が大きくなるにつれて、二人のワクワクする気持ちは高まっていった。どんな子が生まれてくるのだろう。どちらに似ているのだろうか。男の子か女の子か。ハルカと話すことは無限にあった。子供が産まれたら、すぐに幼稚舎に預けられるというルールがある。そのため、二人は産んだ子供と決して会うことはない。助産師さんに取り上げられて、そのままお別れだ。自分を産んでくれた人のことをみんな知らない。だけど、二人はそんなこと気にしない。ハルカのお腹がだんだんと大きくなっていく。そこには生命が宿っていた。それを肌身に感じられるだけで十分だった。ハルカのお腹を胎児が蹴る度に、興味津々にお腹を撫でて、「よしよし〜。」と、話しかけた。命というのはこうやって何億年も紡がれてきたのだ。そして、自分もその命の大きな流れの一部になるのだ。それはとても誇らしいことだった。この前観たビデオに映る若者も同じことを言っていた。


 

 しばらくすると、ハルカが産休で学校に来なくなった。女性の大半が産休に入っていて教室はガラリとしていた。女性が産休で休んでいる間は体育の授業が組まれた。女性と男性での学力に差を出さないためである。「だからといって、体育の授業はないだろう。」男性は口を揃えてそう言った。どうして女性は休んでいるだけなのに、その分の割を食わされるのか、不満が高まっていた。出産という行為はかなり痛く、体力も使うとさんざん説明されたが、納得する男子は少なかっただろう。

 この頃からサトルはハルカに負の感情を覚えるようになっていった。教室での女子へ悪口せいか、寝室に帰ってもハルカのちょっとした行動が気になった。何よりハルカの方もイライラすることが増えた。掃除の頻度が低いとか、皿洗いをしてくれないだとか、何かにつけてサトルに文句を言うようになった。ハルカのそれは妊娠時の女性に現れる症状の一つであるマタニティーブルーである。胎児が体内にいることで、ホルモンバランスが崩れてイライラするそうだ。サトルはそれを知っていた。昔はマタニティーブルーを仕方ないと言って、男性側に我慢を強いるのが、常識だったということも。本当におかしいと思った。どうしてこちらが我慢しなきゃならないのだ。僕たちは皆、同じ平等な人間だろ。

 ある日、サトルの怒りも頂点に達し、ハルカに軽く言い返してやった。軽く言い返しただけなのに、ハルカは目に涙を浮かべていた。同情を誘うようなその瞳を見て、サトルは心の底からハルカを殴りたいと思った。


 

 ハルカが無事に出産を終えると、二人の愛は再燃した。ハルカは幼稚舎の手伝いがあるため一緒に過ごす頻度は減ったが、無事に二人目の子供を授かった。

 大体のペアがノルマである二人目の子供を授かったタイミングで、ペニスに関する歴史の授業が始まった。ペニスは忌まわしさを様々な文脈から語られた。まず手始めに、この世から根絶すべきものは戦争と飢餓とペニスと教わる。歴史に名を残した偉人は大抵ペニスによって身を滅ぼしたそうだ。何より外の世界では男女平等を通り過ぎて、性差ゼロが基本的な考え方である。性差ゼロにするためにペニスは切らなければならなかった。生殖を終えた男のペニス程不要なものはない。世はまさに一億総宦官時代であった。

 授業の内容はサトルの感覚とも一致した。性欲で勉強に集中できなかったし、妊娠があることで男女の差が生まれる。ホルモンバランスを崩れると、二人の仲が悪くなる。経験してきたことばかりだった。授業が終わって、サトルは「こんなこと、昔から知っていたな。」といった感想を持った。知っていることと歴史を照らし合わして、思想を深めたという感覚だった。

 ハルカの二度目の出産を終えたくらいに卒業式は行われた。卒業式の後にペニスの切除手術が行われるのは恒例だ。女性は卵巣と子宮を摘出する手術を受ける。手術のことを聞かされた時、卒業式というめでたい日を怖がらない者はいなかった。だが、今までの経験と人類の歴史を知れば知るほど、手術は正しいことだと思えるようになった。むしろ卒業という節目に相応しい儀式であると思う。性差ゼロの世界は人類が目指した理想の世界に必要不可欠なものであった。


5.

 卒業式では施設長の言葉があった。「外の世界はとても美しいです。曲がったものが何一つとしてありません。差別も偏見も性差もエゴも嫉妬もありません。恐れることはありません。あなた達は外の世界に出て行くために、ここで様々な経験を積み重ねました。曲がったものが何を生み出すのか、あなた達はこの学舎で実感したはずです。苦しかったと思います。よく耐え抜きました。あなた達には明日から人権が与えられます。人としても権利を持つとはどういうことなのか、しっかり胸に刻んでおいて下さい。」


 

 最後の小便を行い、手術室へ向かった。術後はしばらく用を足せない為、昨日から水分を取っていない。喉はカラカラだった。施術台の上に寝転がると、脱毛された股間に消毒が塗られる。傷口から菌が入らないようにするためだ。麻酔がじわりと下半身に広がっていくのを感じた。医者は「それでは始めます。」と、ボソリと告げ、メスを受け取った。しばしば皮膚を引っ張られる感覚が続いた後、「終わりましたよ。」と言われた。

 手術の後は卒業パーティーだった。人権がない未成年はお酒なるものを飲むことは許されないが、昭和末期から平成初期のようなスタイルの食事会だった。手術を終えたクラスメイトとソフトドリンクで乾杯した。隣にいたハジメは手術のことを最後の不条理と評した。人権が与えられたら、人の体を勝手に傷つけることなどできない。社会は全ての不条理を幼年期の押し付けた。淀みのない完璧な世界を作り出す為に。

 恋してドキドキしたり。人を傷つけて眠れなかったり。腕立て伏せができなくて怒鳴られたり。これからの生活では一切経験することはない。完璧で、間違いなくて、淀みのない世界はすぐそこだ。







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